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金融包摂

2016年11月

今回は、FinTechをきっかけに再び国内外で注目が集まっているワード「金融包摂(financial inclusion)」について取り上げます。

金融包摂とは

世界銀行グループの研究機関CGAP(Consultative Group to Assist the Poor)では、金融サービスへのアクセスの提供によって貧困層の生活を改善することに取り組んでいます。そこでは金融包摂を「すべての人々が、経済活動のチャンスを捉えるため、また経済的に不安定な状況を軽減するために必要とされる金融サービスにアクセスでき、またそれを利用できる状況」と定義しています。
全世界規模で見ると、銀行から正規の融資などの一般的な金融サービスにアクセスできない成人はおよそ25億人に上るとの推計(※)があります。金融包摂は、貧困の削減に金融サービスのアクセスが重要であるという関係性が認識されはじめた2004年ごろより国際政治の主要課題として取り上げられるようになりました。その後、2006 年にCGAPが「包括的な金融システム(Inclusive Financial System)」のコンセプトを発表し、さらにこの言葉は世界的に注目され始めました。
近年FinTechを活用した金融サービスのイノベーションが活発化しており、各国政府や国際機関によって金融包摂の促進のための活動が進められています。

※Financial Access Initiative.
http://www.financialaccess.org/blog/2015/6/16/new-global-estimate-reveals-that-half-the-world-is-unbanked?rq=unbanked

金融包摂とテクノロジー

金融包摂を促進した具体的なケースとして最も有名なのはマイクロファイナンスを生み出したグラミン銀行※でしょう。そして、近年の金融包摂の文脈でたびたび取り上げられるのが、ケニアのモバイル送金サービスM-PESAです。
M-PESAを活用すれば、利用者は携帯からSMS(ショートメッセージ)を送ることで、銀行口座を持たずとも、送金、預金・引き出し、支払いをはじめとする金融取引を行うことができます。その取引を仲介するのは7万件を超える代理店(地場のスーパーや自営業者)で、物理的な現金のやりとりの窓口となっています。M-PESAで電気代や水道代の支払いはもちろん、給料の受け取りまで行えます。ほとんどの店舗のレジはM-PESAに対応していて、スーパーやレストランでもM-PESAから支払いができます。携帯電話のネットワークによって、銀行口座を持たない貧困層にも金融サービスの利用が可能になっています。
まさに、テクノロジーによって、国民一人ひとりに金融サービスを行きわたらせ、金融包摂を促進した事例です。FinTechの活用により金融包摂が一層進展していくことが期待されます。

※グラミン銀行:ノーベル経済学賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が設立したマイクロファイナンスを行うバングラデシュを本部にもつ銀行。貧困層を対象にした比較的低金利の無担保融資を主に農村部で行う。

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参考:金融包摂に関するQ&A

NRIの発行する金融ITフォーカス10月号に掲載した「金融包摂の鍵となるFinTech」に対して以下のような質問が寄せられました。論文執筆者の柏木が解説します。
(※回答は柏木研究員の見解です)

Q:先進国と発展途上国における、金融包摂の大きな違いは何でしょうか?
金融インフラが存在するかしないかが最大の違いです。金融インフラが存在する先進国ではそのインフラの維持コスト以下の収益しか見込めない層がunbanked(金融サービスを利用できない・口座をもてない)になってしまいます。ここをテクノロジーによる低コスト化で取り込むのが先進国における金融包摂です。一方、発展途上国は金融インフラが存在しないため、携帯ネットワークなどを活用した新しい金融ネットワークの形成によって金融包摂が進んでいきます。また、発展途上国では読み書きができない層がいたり、法制度、裁判機能、資産保全機能が未熟であったりしますが、生体認証システムとブロックチェーンの活用で、これらの機能不全を解決することになるだろうと予想できます。

Q: FinTechが金融包摂の促進剤となっていることについて教えてください。FinTech会社にとって、一番大きなビジネスチャンス、障壁は何でしょうか?
FinTechによって、維持コストの高い既存の金融インフラを必要としない低コストの金融サービスが生まれています。この低コスト化によって金融包摂が促進されています。金融包摂のビジネスチャンスはグローバルにみて25億人のunbanked層の存在にあると考えています。今後、より低コストの金融インフラが生まれることによって、発展途上国での携帯電話の普及と同様の現象が、金融サービスでも起きるだろうと予測できます。その際、先進国のプレーヤーが金融包摂の推進に果たす役割も期待されます。FinTechによるテクノロジー主導の金融サービスは先進国から生まれ発展途上国で発展するケースが多く見られます。たとえば先述したM-PESAはイギリスの携帯キャリアが作ったサービスですが、イギリス国内では事業性がなかったため、ケニアで展開され、利用が拡大しています。一方で、発展途上国の金融包摂を進める上で障壁となると考えられるのは次の2点です。一つはアンダーグラウンドな非合法もしくは脱法組織からの妨害、そしてもう一つは腐敗している政府ではこれらの政策が実施されない可能性が高いことなどです。

Q:金融サービスを利用できる人口を増やすために一番有効だと思う方法は何ですか?
インドのように残高ゼロでも口座開設ができるように銀行に義務付けるなどの法制度の整備は効果的でしょう。ただ現状の高コストの銀行口座では難しいので、安価なモバイルペイメント口座などで代替するほうが実現可能性は高いと考えます。また、法制度や安価な口座環境を整えても、unbanked層へのPR、啓蒙活動がなければおそらく利用されないことが考えられますので、環境整備への投資とともに、PR活動への投資も重要でしょう。

Q:金融包摂の取り組みは、国や政府をあげて行われるものでしょうか?それともは民間発となるでしょうか?
G20などで注目されていることもあり、国や政府が主導していると見ることもできるでしょう。特にインドや東南アジアなどでは明確に政府が主導しています。またNPO、NGOの存在も大きいです。ただ、プライベートセクターも、unbanked層(もしくはBottom of Pyramid(BoP:発展途上地域にいる低所得者層))のポテンシャルにすでに気づいています。政府と民間が共同して金融包摂が進むと考えています。

Q:金融包摂について、日本はどのように取り組んでいますか?
日本は全人口の97%が銀行口座を持っていると言われており、金融サービスへのアクセスについてはほぼ問題ありません。ただし、金融サービスのコストが高いため、より高頻度なサービス提供が難しいという問題があります。一つの例が社会保障の給付です。現状の社会保障の給付の多くは数ヶ月に一度程度となっており、このような頻度での社会保障の支払では生活を安定させる効果は低くなってしまうことが行動経済学などの研究により明らかになっています。より低コストの金融サービスがあれば、社会保障給付の頻度を高めることで、社会保障の効果をより高めることが可能となります。また日本では融資の金利は上限が厳しく規定されているため、その金利では融資が受けられない層がアンダーグラウンドの融資に頼らざるをえなくなっています。民法の連帯保証人の規定が変わった現在、多重債務者問題の性質も変わっています。きちんとリスクを判定する技術を活用することを前提として、金利の上限の緩和を行なうことで生活の質が改善される層は多いと考えています。

NRIの取り組み

NRIは、FinTechについての調査・研究・ソリューション開発を行っています。詳しくは各営業担当にお尋ねください。

Writer’s Profile

柏木 亮二

柏木亮二

ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:IT 事業戦略分析

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