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フィデューシャリー・デューティー

2016年10月

今回は昨今、日本で耳にする機会も多くなった「フィデューシャリー・デューティー」を取り上げます。

日本で「フィデューシャリー・デューティー」に関心が高まった背景

「フィデューシャリー」とは英米法上の概念で「他者の信頼を得て行動する者」とされ、フィデューシャリーはその他者との間で、信認関係―その者からの信頼を受け、その者の利益を念頭に置いて行動または助言しなければならないという関係にあるとされています。このような信認関係にある他者に対して「フィデューシャリー」の負う義務が、「フィデューシャリー・デューティー」と呼ばれます。(※)

日本の資産運用業界では「受託者責任」という言葉で、年金や投資信託の運営および資産運用の担い手が受託者としての責務を認識し、専門性を発揮、受益者(投資家等)の立場に立った業務遂行を徹底することとして20年以上前から使われていました。

昨今、急速に日本で「フィデューシャリー・デューティー」に関心が高まったきっかけは、2014年に金融庁が発表した「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」でその言葉が導入されたためです。その中の定義は「他者の信認を得て、一定の任務を遂行すべき者が負っている幅広い様々な役割・責任の総称」とされています。またその内容は、資産運用・管理といった資産運用業界に限ったものではなく、商品開発、販売をも含んだものになっており、金融機関全体に対し、資産運用を行う顧客・投資家の視点にたった金融サービスを提供するための規範を示すものとなっています。

※金融取引の展開と信認の諸相「金融取引におけるフィデューシャリー」に関する法律問題研究 P182よりhttp://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk29-4-9.pdf

金融庁の示す「フィデューシャリー・デューティー」の変遷

「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」の中では、監督・検査の基本的な考え方として、「1.デフレ脱却と「好循環」の実現」「2.(金融仲介機能発揮の前提としての)金融システム・金融機関の健全性の維持」を掲げています。重点施策の一つとして「資産運用の高度化」が挙げられており、その中で初めて「フィデューシャリー・デューティー」という言葉が使われました。

家計や年金、機関投資家が運用する多額の資産が、それぞれの資金の性格や資産保有者のニーズに即して適切に運用されることが重要である。このため、商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関がその役割・責任(フィデューシャリー・デューティー※)を実際に果たすことが求められる。
※他者の信認を得て、一定の任務を遂行すべき者が負っている幅広い様々な役割・責任の総称。

平成26事務年度金融モニタリング基本方針 http://www.fsa.go.jp/news/26/20140911-1/01.pdf P2より引用 平成26年9月


さらに翌年、金融庁は「平成27事務年度金融行政方針」の中で、金融商品の販売会社に対し、真に顧客のためになる質の高い金融商品・サービスを提供し、顧客の安定的な資産形成に資することを要請し、投資信託の回転売買や不透明な手数料体系などには警鐘を鳴らしています。

フィデューシャリー・デューティーの浸透・実践
投資信託・貯蓄性保険商品等の商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関等が、真に顧客のために行動しているかを検証するとともに、この分野における民間の自主的な取組みを支援することで、フィデューシャリー・デューティーの徹底を図る。例えば、以下の取組みを促していく。
投資運用業者 :系列販売会社との間の適切な経営の独立性の確保、顧客の利益に適う商品の組成・運用等
保険会社 :顧客のニーズや利益に真に適う商品の提供等
販売会社 :顧客本位の販売商品の選定、顧客本位の経営姿勢と整合的な業績評価、商品のリスク特性や各種手数料の透明性の向上、これらを通じた顧客との間の利益相反や情報の非対称性の排除等

平成27事務年度金融行政方針 http://www.fsa.go.jp/news/27/20150918-1/01.pdf P4 より引用 平成27年9月


2016年4月以降の金融審議会では、フィデューシャリー・デューティーについてのワーキングも設定されました。
2016年6月2日に発表された「日本再興戦略2016―第4次産業革命に向けて―アベノミクスの成長戦略」の中にも、フィデューシャリー・デューティーに関する記述があります。

金融商品の販売・開発に携わる機関に対しては、顧客(家計)利益を第一に考えた行動がとられるよう、また、家計や年金等の機関投資家 の資産運用・管理を受託する金融機関に対しては、利益相反の適切な管理や運用高度化等を通じ真に顧客・受益者の利益にかなう業務運営がなされるよう、フィデューシャリー・デューティーの徹底を図ることとし、これにより、国民の安定的な資産形成への貢献を促す。

日本再興戦略2016 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/2016_zentaihombun.pdf P153 より引用


そして、2016年10月21日に金融庁発表の「平成28事務年度 金融行政方針」でも「Ⅰ.金融行政運営の基本方針、(2)国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換」のなかで「金融機関等(運用機関/販売会社)については顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立・定着」と書かれています。(※)

※平成28事務年度金融行政方針(平成28年10月) http://www.fsa.go.jp/news/28/20161021-3.html


少子高齢化等の影響もあり公的年金への依存が難しくなる中、国民一人一人による資産形成の重要性も高まっています。投資への流れが一層促進され、資産運用市場や資産運用業も中長期的に発展していくという「好循環」の実現を目指すには、国民の資産形成に金融市場を活用することへの信頼を獲得することが第一です。金融機関としても、自身の利益と顧客(投資家)の利益との間に相反関係がないかたちで貯蓄から投資への流れを進めていく必要があるでしょう。

フィデューシャリー・デューティーは規制や法律ではありません。金融庁も金融機関による自主的な取り組みを促しています。これを受けて2015年以降、各金融機関からフィデューシャリー宣言(いわば投資家に対する「公約」として)を発表するなどの動きも出てきています。今後は、単に金融機関自身が宣言したということだけではなく、"真にフィデューシャリー・デューティーを実践できるか"という金融機関の経営姿勢自体が問われていくことになるのではないでしょうか。

NRIの取り組み

NRIは、金融分野における調査・研究・提言活動を随時行っています。
フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)についてのに関する活動をまとめました。

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