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日本企業のデジタル化の現状とその課題―IT活用実態調査の結果から

2018年7月号

戦略IT研究室 主任研究員 有賀友紀

日本企業のCIOやIT部門はAIやIoTの活用に高い関心を示している。しかしその目的は業務の効率化が主であり、新たな知識の発見や商品・サービスの価値向上など、より広範な取り組みを推進すべきである。

情報化からデジタル化へ-変化するITの役割

 1990年代までの情報化は、企業活動のさまざまな側面で業務の効率を向上させた。紙の伝票や帳簿が電子データに置き換えられ、処理の高速化や作業の手順そのものも合理化が進んだ。集計結果を経営者が素早く正確に把握することも可能となった。しかし、21世紀のIT活用はこのような企業内の業務プロセスの電子化・効率化とは異なる形で進んでいる。デジタル化の波は、企業が提供する商品やサービスそのものの価値を変革しつつある。それらを探して入手し、消費するといった顧客の体験そのものもデジタル技術抜きには成立しない。

 野村総合研究所では売上高上位の国内大手企業約3,000社のCIO、またはそれに準ずる役職者を対象にITの活用実態を把握するためのアンケート調査(郵送式)を2003年度より実施している。以下では最新の調査結果(2017年11月実施、回答507社)をもとに、日本企業のデジタル化の現状を検証したい。

高まるAIへの関心とその活用目的

 2018年度のIT投資額については前年度との比較で「増加」と予想した企業が44.3%で、「減少」と回答した企業は10.0%に過ぎない。IT投資の金額そのものは堅調と言ってよいだろう。ただし、投資の目的という観点からアプリケーション費用の配分を見ると「業務効率目的」が51.8%、「情報活用目的」と「戦略的な目的」が27.2%と21.0%であり、この配分比率は過去からほとんど変化していない。過去の分析結果と総合して、多くの企業は戦略的にIT投資を増やしているというより、業績に応じてIT投資枠の増減を図ってきたと考えられよう。

 一方、技術項目ごとに導入と検討の状況を尋ねた結果からは、そのトレンドが明確となっている。多くの技術は導入が進むほど、検討企業(検討中、または検討したいと考える企業)の割合が減少する。しかし、AI・機械学習では2015年から17年の間に導入率が2.8%から8.9%へ増加したが、検討率も35.6%から58.0%へと増加した。導入が進むだけでなく、新たに関心を持つ企業が大幅に増えていると言えるだろう。

 今回の調査ではAIの使い方やその導入目的を詳細にはたずねていない。ただし、関心のあるテーマを自由回答で記述してもらう設問から傾向を読み取ることはできる。回答の中では、AIによる業務の効率化や人手の代替を期待する声が目立つ。「AI、RPAを活用した業務効率化」、「単純な業務作業をロボット化」などである。データから新しい知見を引き出す、顧客に提供する価値を向上させるといった目的よりは、機械によって人手を代替しプロセスを効率化したいという動機がこれらの技術への突出した関心につながっているように読み取れる。

スタッフ業務の効率化を検討する企業が増加

 調査ではデジタル化について、4分野の9つの取り組みで実施・検討の度合をたずねている(図表)。多くの企業が実施しているのは「営業・販売データ(Web以外)に基づく顧客のニーズや行動の分析」(積極実施と実施の合計で28.9%)と「営業・販売現場での新技術導入による顧客への提案力の向上」(同23.0%)の2つであった。

 一方、変化が見られたのは「機器・設備のセンサーデータに基づく担当者の行動分析や効率化」で、前回の調査結果に比べて「検討中」または「検討したい」との回答に有意な増加が認められた(実施企業との合計で前年の52.0%に対して59.6%)。IoT技術を使って、スタッフ業務を効率化することへの関心が高まっていると考えられる。デジタル技術の導入を検討する上でのトレンドは、やはり作業の効率化にあると言えるだろう。

 回答者の多くがCIOやIT部門の関係者であることを考慮する必要があるが、今回の調査結果を踏まえると、日本企業はデジタル技術を使った業務の効率化に注目しており、新たな事業価値の創造に向けた取り組みにはそれほど積極的でないように思われる。

求められる経営のリーダーシップ

 業務の効率化は費用対効果の算定が比較的容易で、言わばリスクが伴わない施策である。一方で、顧客に提供する価値を向上させ事業を変革していくことには不確実性が伴う。リスクを見込んで変革を進めるためには、経営レベルでの意思決定が必須だろう。しかし、経営会議でデジタル化について検討する時間をたずねた結果、その割合の平均は5.5%にすぎなかった。MIT(マサチューセッツ工科大学)の2015年の調査によれば、欧米有力企業の経営委員会がデジタル化に時間を割く割合は28%で、大きな差がある(※1)。

 経営層のリーダーシップが十分でないことは、現場でできるような改善に限定してデジタル技術が使われる要因となっていると考えられる。事業の変革には抵抗や対立が伴う。それらを取り除き、現場のミッションそのものを変えていくことは経営層にしかできない役割と言えるだろう。デジタル化のスコープをより広く捉え直し、新たな価値の創造に挑戦していくことが求められる。

1) P.Weill and S.L.Woerner, "Workshop on Digital Leadership", June 16, 2016, MIT CISR Summer Session

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

有賀友紀

有賀友紀Yuki Ariga

戦略IT研究室
主任研究員
専門:アナリティクスとデジタル戦略

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