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オルタナティブ投資のマネジメント

2018年7月号

資産運用サービス事業推進部 上級システムエンジニア 堀江匠

近年、活況となるオルタナティブ投資。日本においては、機関投資家とオルタナティブ資産をつなぐゲートキーパーやファンド・オブ・ファンズの役割を担う運用会社が重要な役割を果たしている。その中で、運用会社の態勢や情報管理の仕組みの充実が望まれる。

 オルタナティブ資産への投資は、市場性資産との相関性が低くリスク分散効果があるだけでなく、近年続いている低金利の影響もあり新たな収益の源泉として期待されている。海外では、オルタナティブ資産への投資は日本に比べ進んでいる。ある大手機関投資家は、総資産の40%程度をオルタナティブ資産に向けており、伝統的資産と比較して高いリターンを確保している。一方、日本においてはオルタナティブ投資の規模はいまだ小さい。しかし大手機関投資家をはじめとして相応の比率引き上げに動いており、今後運用額の増大が見込まれる。

伝統的資産と比した場合のオルタナティブ資産の特殊性と課題

 オルタナティブ資産への投資意欲が高まる一方で、日本国内にはプライベート・エクイティ、不動産、インフラといった投資対象となる資産に機関投資家がアクセスできるパスが十分に整備されていない。他方、海外に投資機会を求めようとすると、地理的・地政学的な問題を自らクリアし、優良物件の情報を得るためのコネクションの構築が必要となるため、相応の時間とコストを要するものとなる。

 そのため、現在日本においては機関投資家の資金を運用する投資一任業者(ゲートキーパー)やファンド・オブ・ファンズ(FoFs)のマネジャーが重要な役割を占める。機関投資家に代わり、海外のオルタナティブ資産やオルタナティブ投資のファンド・マネジャーを選定し、投資を進める役割を担っているのである。

 しかし、ゲートキーパーやFoFsマネジャーの業務は、これまで日本において投資の大部分を占めていた伝統的資産とは情報管理・情報処理の面で異なる点が多い。

 まず、オルタナティブ投資における情報の非対称性である。すなわち、売り手のもつ情報が必ずしも買い手側にもたらされない状況下での投資ゆえに、デューデリジェンスのプロセスにはアカウンタビリティ・高い透明性が求められる。そのため、ゲートキーパーやFoFsマネジャーには投資先の選定根拠となる情報やその評価内容をつぶさに記録し、それを適切に開示する情報管理能力が必要になってくる。

 2点目は、パフォーマンスやリスク分析等、詳細な運用成果分析を行うためには、最終的な投資対象資産の特性を正確に把握する必要があるが、それが困難なことである。オルタナティブ投資に十分な経験のない機関投資家の多くは、個別の投資対象資産に直接投資するよりもファンドへの投資を選好することになり、ファンドが投資する投資対象資産まで考えると投資構造が階層化するケースが多い。伝統的資産でもファンド・オブ・ファンズのように階層構造となるケースはしばしば見受けられるが、それらが保有する銘柄の情報は基本的に一般公開されているため、情報を取得することは比較的容易である。それに対し、オルタナティブ資産の場合は、最終的な投資対象資産に関する情報は一般公開されておらず、なおかつ、海外の投資先ファンドの中には守秘義務等の関係で情報開示しないところもある。そういった場合は、投資先ファンドの運用者から国や投資戦略等のセクターごとに運用成果を集約して報告を受け、それで代替するケースもある。一方で、投資家は自身が定めた基準での報告を求めることが多く、ゲートキーパーやFoFsのマネジャーにとって、投資先ファンドの運用者から如何に詳細な情報を得ることができるか、もし情報が満足に得られない場合でも、如何に拠出された情報を最大限に用いて投資家の基準に沿った報告を行うことができるかが焦点となる。

 さらに、投資先ファンドの運用者から投資先ファンドやそのファンドが保有する資産まで情報の拠出を取り付けたとして、その情報の収集の観点でも課題がある。

 ゲートキーパーやFoFsは、投資先ファンドや資産の評価・分析にあたっては海外ファンドの運用者からの報告内容に頼るほかない。しかし、オルタナティブ投資の業界として、デファクトスタンダードとなっている報告様式が定まっているとはいえず、運用者からは多種多様の報告様式・媒体で情報が送られてくるため、情報の受け手における様式の統一や投資先企業名の名寄せ(※1)等、情報の加工に労力がかかってしまう。今後投資先ファンド数の増加が見込まれる中、投資先ファンドの運用者からの情報収集のあり方も課題のひとつとなる可能性が高い。

今後活況となるオルタナティブ投資において期待されること

 今後、機関投資家はさらにオルタナティブ投資を加速させるとともに、ステークホルダーに対する透明性をもった報告を追及していくことになるだろう。それにはゲートキーパーやFoFsマネジャーとなる日本の運用会社の態勢に依存する部分が大きい。これから成長する分野であるだけに、機関投資家におけるリスクやパフォーマンス分析の観点が追加される等、ポートフォリオ評価の切り口が変わっていくことが想定される。日本の運用会社にもそれに追随するだけの対応力が求められるのだ。

 一方で、対応する仕組みの構築も重要である。日本の運用会社は表計算ソフトを駆使してデータ管理・報告資料作成を行っている会社が多い。オルタナティブ資産の分析・評価を行うには、階層化する投資構造の正確な把握と投資倍率やIRR(内部収益率)、PME(※2)といったオルタナティブ投資でよく用いられる分析手法を選択する必要がある。今後、投資ファンド数の増加や投資構造の複雑化、それに伴う分析ボリュームの増大が見込まれる中で、近い将来、相応のシステムへの投資が必要になってくると思われる。筆者も近年非常に多くの機関投資家や運用会社よりオルタナティブ投資向けのシステム(※3)に関する問い合わせを受けており、システム装備を必要とする運用会社も増えてきているように思う。

 また、業界としての報告様式標準化への取り組みは今後期待される部分であるが、世界を見ると、例えばプライベート・エクイティの業界ではILPA(Institutional Limited Partners Association)が標準化に動いている。日本では、機関投資家が個別に求める情報もあるものの、海外ファンドへの投資が多いだけにILPAのように標準化を推し進めている団体の様式をベースとして日本の業界としての報告様式を合意していく必要があると思われる。

 現在は海外ファンドへの投資に向けた態勢や仕組みの強化が求められているが、中長期的には海外投資で得たノウハウをベースに、日本国内のオルタナティブ資産への投資が活性化することにより、より多くのプレーヤーが活躍する市場になることを期待している。

1) 異なる投資先ファンドで同一の投資先企業をもつ場合、それらを同一銘柄として取り扱うための作業(名称やコードの統一等)。
2) Public Market Equivalentの略。上場株式のインデックスでPEファンドと同様のキャッシュフローを発生させた場合のリターンをベンチマークとしPEファンドのリターンと比較する手法。
3) NRIは2018年3月よりeFront社と提携し、同社が開発した‘eFront Invest’を初めとした各種サービスの、日本におけるシステム・サービス販売・導入支援・国内ヘルプデスクの提供を開始。eFront社は全世界の投資家350社、運用会社500社に対してシステム・サービスを提供する業界のリーディングカンパニー。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

堀江匠Takumi Horie

資産運用サービス事業推進部
上級システムエンジニア
専門:オルタナティブ投資に関する業務コンサル

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