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提携により急成長する新興ラップサービス・プロバイダー

2018年7月号

金融イノベーション研究部 上級研究員 金子久

最近のラップ市場の拡大を牽引しているのは新興のサービスプロバイダーである。かれらは地銀などの金融機関との提携を積極的に進めている。新興プロバイダーが提供しているポートフォリオは各社各様であり、用意されている提携形態も一つではない。地域金融機関が新興プロバイダーと提携する際には、自社の方針との整合性をも考慮し、慎重に検討すべきだ。

ラップ顧客層の拡大を牽引する新興プロバイダー

 主として個人向けの投資一任サービスであるラップへの資金流入が昨年度以降再び増加している。2014年度から15年度にかけて2年連続で年間2兆円以上の資金が流入したラップは、16年度になると年間5,000億円へと資金流入の勢いが減速した。それが、17年度には1兆円の資金が流入するなど、再びペースが上がってきている。販売手数料に大きく依存してきた従来の投信ビジネスからの脱却に取り組む中で、投資顧問報酬や管理報酬といった残高フィーを基本とするラップに注目する金融機関が増えてきていることが背景にあろう。

 ラップは、従来大手を中心にした証券会社や一部の信託銀行で取り扱っているに過ぎなかったが、2年ほど前から投資顧問専業会社やネット証券、あるいはFintech企業が相次いでこのビジネスに参入している。これら新規参入したラップサービス・プロバイダー(以下、「新興プロバイダー」という)(※1)の運用残高は既に1,300億円を超えている(17年3月現在)。残高以上に注目に値するのが顧客数だ。契約件数では13万件に達し、直近2年間における業界全体の契約件数増加分の6割近くが新興プロバイダーによるものとなっている。

 この急拡大を可能としたのが他の金融機関との提携である。新興プロバイダーは自社の顧客にサービスを提供するだけでなく、地銀やネット証券、ネット銀行等の金融機関と提携し、その顧客にもサービスを提供している。新興プロバイダーと提携した金融機関は23に達し、このうち地域金融機関は15行(※2)を占めている。提携先の金融機関からみれば、ラップサービスを提供するための組織構築やシステム投資を独力で準備することなく、サービスを展開できるというメリットがある。新興プロバイダーは、地域金融機関等の金融機関が早期にラップサービスを展開する上で、重要な提携相手といえる。

異なる提携形態

 新興プロバイダーと金融機関の提携形態は、金融機関の役割に応じて2つのタイプに大別することができる。

 一つが金融機関の役割が相対的に小さいタイプだ。このケースでは金融機関はサービスの紹介と契約締結の媒介のみを行う。契約締結後の顧客に対するサービスは新興プロバイダーが担う。つまり、顧客から預かった資金の運用はもとより、口座管理や運用状況の報告も新興プロバイダーが行う。金融機関は単に他社のサービスを紹介するだけでラップサービスには直接関与しない(※3)が、準備のための負担は軽くてすみ、一定の手数料を得ることも可能となる。

 もう一つのタイプは金融機関の役割が相対的に大きいタイプで、金融機関は新興プロバイダーの代理人として契約締結を行う。契約締結後の顧客に対するコンサルティングサービスや契約の見直し(運用資金の増減や運用コース(ポートフォリオ)の変更等)の相談は金融機関が担当する。金融機関の営業担当者はラップサービスに必要なスキルの取得が求められるため、金融機関にとって負担は相対的に重い。反面、顧客との取引関係を深めるための布石にもなり得る。すなわち、営業担当者にはコンサルティング営業のノウハウ習得の機会となる。また、顧客から観てラップサービスの窓口として金融機関が常に意識されることになり、金融機関はラップサービスと自社が直接行う投信販売とをトータルに組み合わせた提案を行うことも容易となる(※4)。

ポートフォリオの品揃えも異なる

 通常ラップサービスでは基本となるポートフォリオを数種類用意し、これに個々の顧客のニーズを加味し、より細分化されたパターンの資産配分を提供している。この基本となるポートフォリオにラップサービス・プロバイダーの運用の特徴が端的に現れている。それは、基本となるポートフォリオのボラティリティの分布を見ても容易に分かる。図表は各ポートフォリオの直近1年間の月次収益率データ(※5)を基に年率ボラティリティを計算し、ラップサービス・プロバイダー毎に分布を示したものだ。図中のA社及びD社、E社は大手金融機関と同様のリスク水準のポートフォリオを提供している。これに比べB社とC社が提供しているポートフォリオのボラティリティは高い(※6)。これは、B社とC社のポートフォリオはどれも、他社のものに比べ、外貨エクスポージャが大きいためと考えられる。B社やC社は米国で組成されたファンドを中心にポートフォリオに組み入れており、このためドルを中心とした為替リスクを含んでいる。これに対して、その他の会社では、日本で組成されたファンドを中心に組み入れている。その中には為替ヘッジを付けたファンドも含まれており、これらへの配分が多いポートフォリオでは為替リスクは低減されている。

 収益率そのものをみても新興プロバイダー間の差が大きい。ボラティリティが同じような水準のポートフォリオを各社から取り出して比較すると、収益率が年率で数%異なっている。

 最近では、金融機関が顧客に資産運用を提案する際、中長期に一貫した運用を行う「コア運用」とその時々の市場環境に合わせた運用を行うことにより収益の上乗せを図る「サテライト運用」に区分することが多くなっている。ラップは「コア運用」であり、顧客の運用資産の中核を担うことができる運用サービスとも考えられる。従って、これを提供する金融機関のビジネスにとってもラップは重要なサービスと位置づけられる。地域金融機関の場合、ラップサービスを顧客に提供するにあたって、新興プロバイダーと提携することも有力な方法だ。ただ、新興プロバイダーが提供しているポートフォリオは様々で、提携関係も同じではない。地域金融機関が新興プロバイダーとの提携を行う場合、自社の資産運用サービスの方針との整合性も考慮し、プロバイダーを選定すべきであろう。

1) 本稿で新規参入組とは、あいうえお順にウエルス・スクエア、ウェルスナビ、お金のデザイン、マネックス・セゾン・バンガード投資顧問、楽天証券の5社を指している。
2) 地域金融機関の証券子会社も含む。
3) 金融機関が投資一任契約の媒介のみを行う場合であっても、新興プロバイダーから情報が連携されることも多いため金融機関は顧客の運用状況を把握することは可能だ。ただ、この場合、ラップサービスと自社が直接行う投信販売とをトータルに組み合わせて提案することは難しくなり、ラップサービスの提供により顧客との取引関係を深めることは容易でない。
4) このほか、金融機関が投資一任契約の代理を行うとき、金融機関はラップの投資対象である投資信託の販売会社になるケースもある。この場合、金融機関の預かり資産にカウントされるため、経営目標と整合的にラップサービスの拡大を目指しやすいなどのメリットがある。
5) 各社のポートフォリオの月次収益率は次の3通りの方法で求めた。①ポートフォリオの月次収益率が公表されている場合は、そのデータを用いている。②月次収益率が公表されていない場合には、ポートフォリオ毎の基本資産構成比と資産毎のベンチマーク指数、投資顧問報酬率・管理報酬率から推計している。③ラップのポートフォリオと同じロジックで運用されているラップ型投信が存在する場合には、そのファンドの収益率に信託報酬率やラップの投資顧問報酬率・管理報酬率を加味して推計している。
6) 期間によって各社のポートフォリオのボラティリティの水準(数値)が変わることは考えられるが、各社の相対的な関係は大きくは変わらないと考えられる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金子久Hisashi Kaneko

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:個人金融マーケット調査

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