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実現したドッド=フランク法改正

2018年7月号

未来創発センター フェロー 大崎貞和

世界金融危機後に制定されたドッド=フランク法の部分的な改正が実現した。大手金融機関への影響は小さいが、中小金融機関の規制遵守コストは一定程度軽減されよう。トランプ大統領にとっては具体的な成果が得られたわけで、その政治的意義は大きい。

成立した改正法

 2018年5月24日、米国のドナルド・トランプ大統領は、「経済成長・規制緩和及び消費者保護法案」に署名した。これにより2008年の世界金融危機後に制定されたドッド=フランク法(ウォール街改革及び消費者保護法、以下「DF法」)の見直しが実現することになった。

 今回成立した改正法の概要は次の通りである。

 第1編:「住宅ローンへの消費者のアクセスの改善」には、主に小規模な金融機関による住宅ローン提供をめぐる手続の簡素化を図る規定が含まれる。

 第2編:「消費者金融における規制緩和と消費者保護」は、総資産100億ドル未満のコミュニティ・バンクに適用される規制の緩和を図る。具体的には、自己資本比率規制の簡素化と基準の見直し、自己勘定取引を規制するボルカー・ルールの適用除外などが規定されている。

 第3編:「退役軍人・消費者・住宅所有者の保護」には、住宅ローンの借り手保護のための規制見直しが盛り込まれている。

 第4編:「一定の銀行持株会社に対する規制の適正化」には、「システム上重要な金融機関」として厳しい規制の対象となる金融機関の基準総資産の500億ドルから2,500億ドルへの引き上げ、対象外金融機関に対するストレス・テスト実施義務の撤廃など、中小金融機関に対する規制を緩和する規定が盛り込まれている。

 第5編:「資本形成の促進」は、証券市場における規制緩和を図るもので、NMS(全国市場制度)銘柄株式の州登録義務免除、投資会社法の適用除外となるベンチャー・キャピタル・ファンドの範囲拡大、5千万ドル以下の少額募集登録免除ルールの適用対象拡大などが含まれる。

 第6編:「学生である借り手の保護」と題され、学生ローンの回収手続の適正化や高等教育における金融リテラシー教育拡充などが盛り込まれている。

規制緩和は不徹底

 トランプ大統領は、2016年の大統領選挙戦当時から民主党のオバマ前大統領の署名を得て成立したDF法を厳しく批判してきた。DF法は中小金融機関に対しても一律に規制強化を押し付け、貸出のコストを押し上げて中小企業やベンチャー起業家を苦しめているなどとして、その全面撤廃を主張していたのである。

 DF法が経営自由度を狭め、コンプライアンス面での重いコスト負担を課しているという不満を抱いてきたウォール街の大手金融機関は、トランプ大統領の金融規制改革路線を強く支持した。株式市場もまた、DF法見直しが大手金融機関の収益力を高めるとして、株価押し上げの材料と見てきたのである。

 今回成立した法改正は、「システム上重要な金融機関」とされ得る金融機関の範囲縮小やコミュニティ・バンクへのボルカー・ルール適用除外などによって中小金融機関の規制遵守コストを一定程度は低下させるものと考えられる。

 しかし、その内容は、ボルカー・ルールの全面廃止などを盛り込み昨年6月に議会下院で可決されたファイナンシャル・チョイス法案に比べると、規制緩和の度合いという点では、かなり抑えられたものである。また、トランプ大統領がホワイトハウスによるコントロールが不十分だと厳しく批判してきた金融消費者庁のあり方や、納税者の負担による銀行救済を可能にするとして撤廃を主張してきた金融機関の整然清算手続については、いずれも見直しが見送られている。ウォール街や株式市場にとっては、やや期待外れの内容である。

大きな政治的意義

 もっとも、トランプ大統領にとって、今回の法改正の政治的意義は大きい。

 そもそもトランプ氏は、とりわけ選挙期間中は大手金融機関に対して批判的だった。銀行証券分離規制を定めたグラス=スティーガル法の「21世紀版」の導入など、DF法の主要な柱の一つである銀行の自己勘定取引を規制するボルカー・ルールの廃止とは相反するとも思える主張も行った。DF法撤廃という主張は、金融規制に関する一貫した考え方に基づくよりも、オバマ前政権の成果の否定に動機付けられていた感が強い。

 2018年秋の中間選挙を控え、トランプ大統領は、貿易問題など他の分野においても、自らの強固な支持基盤として期待される中小製造業者などの視線を強く意識する政治姿勢を打ち出している。

 今回の法改正に関しても、中小企業、中小金融機関にとってメリットが感じられるのであれば、DF法の見直しを徹底することよりも具体的な成果を出すことを優先し、政権の政策実行力をアピールしようとした結果だと見ることができよう。政治的な信念や思想といったものよりも「ディール」の成否を重視する大統領の真骨頂が発揮されたと言うべきだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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