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金融市場パネル公開コンファレンス報告

2018年6月号

金融イノベーション研究部 石川純子

2018年3月19日、「金融市場パネル」の公開コンファレンスを開催した。通算44回目、そして10周年を迎える「金融市場パネル」は、現在の日本銀行法の施行から20周年という節目も踏まえ、金融経済構造や政策課題のこの間の変化と、将来に向けた展望に基づいて、新しい時代に求められる中央銀行像を探るべく、鼎談やパネル・ディスカッションを行った。

 金融ITイノベーション研究部長の井上哲也がモデレーターを務め、日本銀行元総裁の福井俊彦氏や金融庁元長官の五味廣文氏をはじめ日本を代表する専門家に多数ご登壇いただいた。

 当日、来場いただいた政策当局や金融機関の幹部や幹部経験者の方々から、「(中央銀行の)内側と外側の関係者がよりよき中央銀行制度を目指す信念や期待の果たす役割は大きい」という声をいただいた。メディアの関心も高く、日本経済新聞が特集記事を配信したほか、日経CNBCが当日の模様を放映した。

 当コンファレンスにおける議論の詳細はNRIのホームページで開示しているが、本稿では、その概要について簡単に報告したい。

パネルディスカッション(第一部)
米欧の中央銀行の政策課題と対応

 第一部のパネルディスカッションでは「米欧の中央銀行の政策課題と対応」をテーマに、三菱東京UFJ銀行取締役常務執行役員の内田和人氏、みずほ銀行常務執行役員の大島周氏、東短リサーチ代表取締役社長の加藤出氏にご登壇いただいた。

 最初に「金融危機後の政策課題」という論点では、大島氏が、危機直後の課題であった金融システム安定と資産価格の回復は適切な政策によって克服されたと指摘し、内田氏もその後のデフレ対策やディレバレッジの推進という課題に対して、政策が有効に機能したと評価した。一方、新たな課題として、大島氏は資源配分の非効率性や生産性回復の持続性、内田氏は中央銀行と市場とのコミュニケーションを挙げたほか、加藤氏はゾンビ企業の増加など、期待成長率が低い国における長期金利低下の副作用を指摘した。

 続いて、「中央銀行の機能や役割の拡大」という論点で、加藤氏は中央銀行が物価の安定に加えて、金融システムの安定を担うようになった経緯を説明した。また、この間の金融緩和の目的が、米欧では「危機対応」と位置づけられた一方、日本では「インフレ期待の2%安定」と紐付けられたことが、正常化の違いを生んでいるとし、大島氏も日本では低金利政策が雇用維持などの社会政策的な役割も担っていると指摘した。

 最後に「中央銀行の変化に伴う効果と副作用」という論点で、内田氏が貧富格差の拡大等、先進諸国の今後のリスクを整理した上で、中央銀行によるコミュニケーション政策が、かえって市場のボラティリティを高めていると指摘した。加藤氏も日銀が「独立性」を獲得した結果、外部の専門家の意見を上手く取りこめなくなっている可能性を指摘した。

 以上の議論を踏まえ、モデレーターの井上から「市場と中央銀行の距離」と「金融政策の効率性」について問いを投げかけた。大島氏は、中央銀行は市場の反応に過度に反応すべきでないとしつつ、金融政策の効率性を高めるための構造改革が不足しているとして、次の危機に直面した場合の対応力に懸念を示した。加藤氏や内田氏は、金融政策の効果や持続性の検証が不十分であると指摘した。会場からの「金融政策は自国通貨安を意識しているのではないか」との質問に対しては三名ともに同意した。もっとも、内田氏は経常赤字や国債格付が悪化する下での円安は、日本経済にとって危険であるとして、常に有効な政策ではないということを留意点として示した。





鼎談(第一部)
日本銀行法改正とその問題意識

 鼎談の第一部は「日銀法改正とその問題意識」をテーマに、キヤノングローバル戦略研究所特別顧問の須田美矢子氏、日本経済新聞社編集委員の滝田洋一氏、キヤノングローバル戦略研究所理事長の福井俊彦氏にご登壇いただいた。ちなみに、須田氏は総理の諮問機関であった「中央銀行研究会」のメンバーとして、福井氏は日銀副総裁として、それぞれ1997年の日銀法改正に関わった。

 最初に「日銀法改正を巡る政策環境」という論点で須田氏は、日銀法改正が物価と景気のトレードオフの明確化や欧州での金融政策の独立性強化を背景に実現したと指摘した。福井氏は戦後の金融正常化の中での法改正の試みとその頓挫を実体験として説明した。滝田氏は、1980年代の「円高対応」としての政治主導の金融緩和がバブルを招いたという反省が日銀法改正への道を拓いたと主張した。

 続いて「中央銀行の独立性と説明責任」という論点では、福井氏が「中央銀行研究会」のメッセージである「開かれた独立性」を取り上げ、政策判断の背景を国民に説明することの重要性を強調した。須田氏は、中央銀行が市場と国民の信頼を得ることの大切さを確認しつつ、金融引締めのような局面での独立性はまだ試されていないと述べた。滝田氏は、福井総裁の下での量的緩和解除を例に、独立性の発揮には外部に対する柔軟な対応が重要であるとの見解を示した。

 最後に「政策課題の変化と対応」という論点で滝田氏が、2003~4年の政府による大規模な為替介入と日銀による量的緩和を政策協調の好例として挙げた一方、リーマンショック後の金融緩和は円高との関係で不十分と指摘した。須田氏は、日銀法改正の際には金融緩和と為替政策の境が不明確化する事態は想定しなかったと述べた。福井氏は、中央銀行には金融経済の変化に応じて政策手段を生み出す力と、金融経済の構造変化を見据えて長期に目標を達成する力の双方が求められるとした。また、金融自由化が完了した後に金融危機とデフレが続いたため、日銀はまだ金利機能を活用した政策運営の機会を得ていないと述べた。

 以上の議論を踏まえ、井上から、金融政策については専門家同士が異なる意見を排除し合うきらいがあり、建設的な議論が難しい現状をどう克服すべきかを質問した。これに対し福井氏は、日銀の政策委員には日銀法の趣旨に即して識見のある人材が任命されることが重要であり、国民の監視により環境が整うことへの期待を示した。



パネルディスカッション(第二部)
日本銀行の政策課題と対応

 第二部のパネルディスカッションは「日本銀行の政策課題と対応」を議題に、リコー経済社会研究所所長の神津多可思氏、日本経済研究センター金融研究室長の左三川郁子氏、みずほ総合研究所専務執行役員の高田創氏にご登壇いただいた。

 最初に「過去20年に直面した政策課題」という論点で、高田氏は、日本は米欧に先駆けてバランスシート調整に入った点、長年続いた円高の影響もあり社会全体のマインドが「草食系」に変化した点、円高回避のため利上げが遅れた点を指摘した。神津氏も価格メカニズムの低下が、①供給過剰による需給ギャップの拡大や、②高齢化による需要増加が公的規制の相対的に強い産業に偏重している点によって引き起こされたと説明した。左三川氏は、名目政策金利が実効下限に達したことが金融緩和効果を減殺したとの見解を示した。

 続いて、「過去20年間の政策手段」という論点で神津氏が、日銀が危機対応として「非伝統的金融政策」を導入した経緯を振り返るとともにその具体的手段について、波及メカニズムを整理した。その上で、現在は物価の安定が優先され、金融システムの不安定化リスクが増している可能性を指摘した。高田氏はこの間の政策運営が為替政策として有効であったとしつつ、金融機関の収益性等の副作用とのバランスが重要だとした。左三川氏は追加的な金融緩和手段の限界と、出口におけるコストが国民負担となる点に懸念を示した。

 最後に「現在の日本経済と政策効果」という論点で左三川氏が、企業活動や労働市場の改善が続く一方、日銀の国債買入れが財政規律を弱めている可能性などの課題を提起した。高田氏は、量的緩和が民間から公的セクターに金利リスクを実質的に移転した点や、ETF買入が資産デフレと円高を阻止した点など、政策効果を評価する姿勢を示した。

 以上を踏まえ、会場から「金融緩和のコストを考えると早く出口を迎えた方がよい」との指摘があり、左三川氏は早期の正常化が国債保有に係るコスト負担を抑制しうることを推計値を挙げつつ説明したほか、政策判断にはコスト・ベネフィットの比較が重要とした。また、高田氏も国民の支持を条件としてインフレ目標の柔軟な解釈を支持した一方、神津氏は政策転換に際しては国民の厚生が増加することを説明する必要があると付言した。



鼎談(第二部)
新たな金融経済の下での中央銀行像

 鼎談の第二部は「新たな金融経済の下での中央銀行像」をテーマに、慶応義塾大学教授の池尾和人氏、共立女子大学教授の植田和男氏、西村あさひ法律事務所の五味廣文氏にご登壇いただいた。

 最初に「実体経済と金融サービスの変化の方向性」という論点で池尾氏は、グリーンスパン氏以降の中央銀行総裁が「スター」扱いされるようになった点を修正すべきと指摘した。植田氏は、現在の金融政策効果の低下は、財や労働の国際間での移動の活発化よりも、政策金利の名目ゼロ制約による面が大きいと主張した。また五味氏は、金融監督当局が「金融機関行政」から「金融機能行政」へ転換を進める中で、今後の中央銀行に対して、規制の空白領域でのリスクの把握の役割を担うことに期待を示した。

 続いて「金融危機後の中央銀行の変質」という論点では、五味氏が日銀の「量的質的金融緩和」が長期的に財政規律に与える影響に懸念を示すとともに、金融緩和の下での構造改革の重要性を確認した。池尾氏は、金融システム安定の役割を中央銀行から分離する試みは失敗したと述べ、今後はむしろ金融政策よりもウエイトを高めるべきと主張した。植田氏も、規制を受けないシャドーバンキングの政策金利によるコントロールや、問題資産の金融システムからの隔離能力、政策遂行の機動性等からみて、中央銀行は金融システム安定により多く関与すべきとした。

 最後の論点である「中央銀行の目的と政策手段の将来像」については、植田氏がマネーを増やしても標準的な経済モデルの予測に反して物価が上昇しなかったのは、政策金利のゼロ制約とサプライショックによる実質金利の下げ止まりが主因との見解を示すとともに、インフレ目標を達成しても財政との対立が不可避との問題を提起した。五味氏は、金融機能の担い手が変化する中で、中央銀行に対して、金融仲介の担い手に現れた新たな変化を金融監督当局と適切に共有する役割に期待を示しつつ、役割の拡大が独立性に与える影響にも言及した。池尾氏は、物価が金融政策のみで決定するとの考え方に疑問を示したほか、資産価格についても中央銀行による影響力が過大評価されている可能性を指摘し、経済政策における中央銀行の立ち位置に再考を促した。



 (所属役職等はコンファレンス開催当時)

金融市場パネル 2018年春 公開コンファレンスプログラム

13:00 主催者挨拶
13:05 パネルディスカッション(第一部)
『米欧の中央銀行の政策課題と対応』
 内田 和人氏  三菱東京UFJ銀行
 大島 周氏   みずほ銀行
 加藤 出氏   東短リサーチ
14:25 鼎談(第一部)
『日本銀行法改正とその問題意識』
 須田 美矢子氏 キヤノングローバル戦略研究所
 滝田 洋一氏  日本経済新聞社
 福井 俊彦氏  キヤノングローバル戦略研究所
15:25 ― 休憩 ―
15:40 パネルディスカッション(第二部)
『日本銀行の政策課題と対応』
 神津 多可思氏 リコー経済社会研究所
 左三川 郁子氏 日本経済研究センター
 高田 創氏   みずほ総合研究所
17:00 鼎談(第二部)
『新たな金融経済の下での中央銀行像』
 池尾 和人氏  慶応義塾大学
 植田 和男氏  共立女子大学
 五味 廣文氏  西村あさひ法律事務所

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

石川純子Junko Ishikawa

金融イノベーション研究部
主任研究員
専門:英国をはじめとする欧州の金融経済

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