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米国対面リテール証券会社収益の構造的転換

2018年6月号

NRIアメリカ 金融・IT研究部門長 吉永高士

米国証券会社の対面リテール部門では、大手を筆頭にほぼ右肩上がりの増収増益傾向を過去15年余り達成してきた。顧客および営業員当り収益増加とストック収益比率、利益率の上昇などに牽引されたこれらの収益趨勢は、相場や市況の波を超えて、経営者と営業員の意思と実行力がもたらした構造的転換の果実という側面が強い。

大手では収益が15年間で1.7倍、利益が3.3倍に

 米国対面証券会社ではリテール部門の中長期的な増収増益傾向が続いている。米国大手総合証券4社のうち比較的詳細な部門別開示を行っている3社(※1)の2017年リテール部門業績をみると、純営業収益合計(管理会計ベース(※2)。以下同)は前年比7.8%増の406億ドル(4兆4,862億円)、また税引前利益合計は同18.1%増の97億ドル(1兆674億円)と、いずれも過去最高を更新した。

 米国対面証券会社のリテール部門の多くはハイテク株バブル崩壊直後の02年前後を底として中長期的な増収増益フェーズに入ったが、これら大手3社でも17年までの15年間で純営業収益が1.7倍(年率3.2%増)、税引前利益が3.3倍(同8.9%増)にそれぞれ増加した。この間の純営業収益の推移をみると、リーマンショックが発生した08年を挟む前後に多少の凸凹があるとはいえ、ほぼ右肩上りの増加基調を辿ってきた(図表)。これを営業員当りベースでみると増収率は2倍(年率5.1%増)と、勾配がより鋭角的になり、リーマンショック前後の凸凹も、よりなだらかなものとなっている。

 このようなリテール部門収益の中長期的傾向は一部の大手に限定された特異な現象などでは決してなく、個社により程度や速度に多少の違いはあるとしても、銀行系や中堅中小プレーヤーを含む多くの対面証券会社にも共通してみられるものである。

 以下では、大手3社のなかで最も詳細で長期にわたる開示データが揃うモルガンスタンレー(MS)を例に、こうした右肩上がりの収益拡大をもたらした要素を分解し、それらと整合的に機能した戦略や戦術を考察する。

ラップと預金・貸付からの広義ストック収益が牽引

 純営業収益を預り資産で除したものを資産収益率(※3)と呼ぶことがあり、純営業収益は預り資産と資産収益率の積である。MSの預り資産は17年までの15年間に1.6倍強になっているが、資産収益率については02年の0.72%に対し0.75%と微増にとどまる。このため、純営業収益成長(1.7倍)の大部分は預り資産増がもたらしたと推察したくなるが、それほど単純ではない。

 預り資産の内訳をみると、ラップ資産の比率は02年の19%から17年には44%へとほぼ右肩上りに上昇している。これに伴い純営業収益に占める残高連動型手数料(※4)寄与度は41%から56%に高まったが(※5)、一方でコミッション型手数料は29%から10%に、債券販売等に伴う自己売買収益が13%から5%に低下した。それら投資商品関連収益の寄与度の低下分を補って資産収益率の維持を支えたのが低コスト預金(※6)やローンからの利ザヤを中心とする資金収益で、純営業収益への寄与度は6%から24%にまで急拡大した。このうち預金の大部分は対面証券顧客の証券総合口座に滞留する余資残高を関連銀行に日次でスイープしたもので、これを原資にしたローン(※7)を証券営業員と関連銀行の連携により提供してきた。MSでは10年頃からローン事業に本格的に取り組んでいるが、とりわけ証券担保ローンは16年末時点ですでに17%もの対面顧客世帯が預り資産を担保に融資枠を設定、融資残高も積み上がり、資金収益の増大を牽引している。

顧客数は絞る一方で顧客当り収益は15年間で6倍に

 純営業収益はまた、営業員当りのそれと営業員数の積でもある。MSの営業員数(※8)は17年までの15年間で3割以上減少しているが、営業員当りでみた預り資産と純営業収益はそれぞれ3倍近くに増大した。

 同期間ではさらに顧客の抱え方にも大きな変化がみられた。米国の対面証券会社では低・不稼働顧客をコールセンターに誘導する動きを01年以降に強めてきたが、MSでも対面チャネルの顧客世帯数を15年間で3割近く減少させた(※9)。営業員当りの顧客世帯数も約400世帯から200世帯強へとほぼ半減させたが、顧客世帯当りの純営業収益と預り資産は6倍になった。営業員が担当顧客数の絞り込みによって捻出した時間を稼働顧客に必要十分な量と頻度での相談業務に充当して関係の深堀りを行い、顧客ニーズを満たすための投資商品やローンや保険商品などの提案と実行を着実に進めてきた。

 米国の対面証券会社ではゴールベース資産管理という投資アプローチ(顧客や家族の生涯の目標や課題などの「ゴール」を特定した上で、その実現のためにラップを中心とする中長期分散投資を実行し、営業員が継続的レビューとともに伴走)が90年代半ば以降に台頭し、ハイテク株バブル崩壊後に広く対面証券会社とその営業員や顧客に普及してきた。これにより、ラップの残高連動手数料だけではなく、ローンと預金の残高増加がもたらす資金収益を合わせた「広義のストック収益」比率が02年の47%から17年には80%に高まった。

 また、MSの税引前利益率はローン事業の牽引で資金収支が増大し始めた10年の9%から17年の25%まで加速的に上昇している。営業員への労働分配が限定的な資金収益は増収の大部分が増益に直結しやすく(※10)、ローン増加や短期金利上昇による預金利ザヤ拡大の効果が現れているほか、先述の営業員数絞り込みに伴う店舗物件費や営業支援要員の節減も経費率を押し下げている。

 なお、米国証券会社の収益傾向分析を行う際には、日米両国の株価推移の違いを決定的な外部環境要因の違いとして指摘する声が時折聞かれる。長期の株価上昇が米国証券会社の増収にポジティブに作用したことは疑いないとしても、株価の高いボラティリティ(※11)を横目に、米国対面リテール証券がほぼ毎年達成してきたきれいな右肩上がりの増収がそれで説明し尽くされるわけではない。市場や経済の循環要因や一時的要因で説明できない部分こそ、経営者や営業員1人1人の意思や努力の積み上げによりもたらされた構造的変化に他ならない。そのなかには、日本でも応用可能な戦略や施策は確実にある。

1) モルガンスタンレー、メリルリンチ、UBSウエルスマネジメント。
2) グループ傘下の証券会社や銀行にまたがる収益も事業部門単位で横断的に再配賦。
3) Revenues on Asset under Management。証券会社では略してROAとも呼ぶことはあるが、純利益をバランスシート上の総資産で除したROA(Return on Assets)とは別。
4) 主にラップの投資顧問料。
5) 残高連動手数料には投信の販社向け信託報酬に相当する12b1手数料も含まれ2002年代前半には一定比率を占めていたが、現在では1割以下にとどまる。
6) 預金利ザヤの大部分は証券総合口座の待機資金を関連銀行にスイープすることで発生する預金調達利回りと短期市場金利との差からもたらされるもので、MSでは2017年に10憶ドル以上の預金利ザヤを獲得したと推計される。
7) 証券担保ローンや住宅ローンのほか、富裕層顧客限定でテイラーメイドの有担保ローン(預り資産基準などを満たす富裕層顧客を対象に美術品、骨董品、その他動産、ワイン醸造所などを担保)も提供。
8) 2009年に統合したスミスバーニーの営業員を含むベース。
9) 統合前のスミスバーニーの分を加算したベースでは対面チャネルの顧客世帯数は実質的に半数以下となっている。
10) たとえば、顧客に資金ニーズがある場合に、キャピタルゲイン税や取引費用を避けて証券担保ローンを利用すると、預り資産が売却されずに運用を続けるかたちで報酬機会を維持できる。
11) S&P500指数が2000年に付けた高値を更新するのに7年を要した後、それを再更新するにはさらに6年がかかった。ハイテク株の割合が多いNASDAQ総合指数がバブル期の高値を更新したのも15年後のことである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
専門:米国金融経営調査

注目ワード : ラップ口座

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