1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 企業IR
  6. CGコード改訂-ガバナンス改革の実効性と継続的議論の必要性

CGコード改訂-ガバナンス改革の実効性と継続的議論の必要性

2018年6月号

金融デジタル企画一部 上級研究員 三井千絵

CGコード導入から3年がたち、初めての改訂が行われる。現在のコードの課題として、未だ形式的な対応である点、あるいは、コードの要件をガバナンスの改善に活かせていない点が指摘されている。中小型企業や未だコード対応が進んでいない企業への実効的な浸透を図るには、今後も継続的な改訂が必要と思われる。

 3月26日、金融庁HPにおいて、コーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」)の改訂案及び投資家と企業の対話ガイドライン(以下、「ガイドライン」)が公表された(※1)。CGコードが導入され3年が経過したが、実際日本企業のガバナンスはどの程度向上しただろうか。今回の改訂が試みる更なる改善点、またその実効性について、今一度考えてみる必要があるだろう。

コード改訂の概要

 今回の金融庁の改訂案では、その冒頭で課題認識を次のように述べている。1. 未だ投資家と企業の対話が形式的、2. 企業経営者の資本コストへの意識の不足、3.CEOの選解任、取締役会の多様化や指名委員会等の設置が十分ではない、4. 政策保有株式の未解消、そして今後必要な点として、5. アセットオーナーとして年金基金によるスチュワードシップ活動への取り組み、である。

 改訂案はこれらの課題への対応を促進させるよう、現行コードに追記や修正を加え、別途「対話ガイドライン」を新しく作成した。主な追加・修正個所は次の通り。

 ① 政策保有株式解消を求める表現の強化、原則1-4(政策保有株式)の修正と補充原則の追加。政策保有株式の経済合理性の検証、および政策保有株主による自社株売却を妨げないこと、等の追記。

 ② 年金基金のアセットオーナーとしての役割に関し基本原則2(株主以外のステークホルダーとの適切な協働)に、自社の年金基金の運用・スチュワードシップ活動に適切な人材を配置することを追記。

 ③ 基本原則4(取締役会の責務)において、取締役会によるCEOの選任や報酬決定の重要性を指摘。取締役会の構成の多様性について“ジェンダーや国際性”と具体的に記述。またCEOの後継者育成プランについて言及。

 ④ 株主との対話として原則5−2(経営戦略や経営計画の策定・公表)において、資本コストを把握した上で方針を示すよう追記し、前述のようにガイドラインを提示。

 以上のように、今回の改訂案は、各課題についてコードが求める要件の記載を明確な表現に変更する修正がほとんどである。章立てや基本原則・原則・補充原則という3段階、70項目を超える構成は変わっていない(※2)。このCGコード初改訂により、日本企業のガバナンスの改善をさらに一歩進めることができるだろうか。

コードの実効性は上がるか

 今回の改訂は、これまで度々指摘されてきた、特に解決すべき点について記述がより明確になっており、それを評価する声もある。一方、コード全体に関わる大きな見直しが行われなかったため、中小型企業や、現在対応できていない企業への実効性の向上には懸念がある。

 特に中小型企業については、CGコードが導入される前から有識者会議でも、“大企業と同じ対応を求めるべきか”ということは議論されてきた。今回、この点を考慮しなくて良かったのだろうか。現コードは市場第一部、二部に上場するすべての企業に対応を求め、それ以外の企業にも、基本原則について対応の説明を求めている。この適用範囲の広さは日本の特徴である。英国では、プライマリー市場だけ、しかもFTSE350に含まれない企業には一部免除項目を設ける適用であり、これに比べ対象が幅広い日本版コードは、その実効性が課題視されていた。

 とはいえ、日本の一連のガバナンス改革は、企業の成長を求めて始まったため、中小型企業、また成長の可能性があるにも関わらずガバナンスに難がある企業を底上げすることがより重要となるはずだ。したがって中小型企業にガバナンス改革を促すこと自体は本来の趣旨にかなっている。ただこれまでのCGコードの議論は大型企業をモデルとしており、大手機関投資家の保有が少ない中小型企業がコードの順守によってガバナンス改革を実現するシナリオを描くのは、やや難がある。おりしも現在、CGコード改訂最中の英国では、CGコードを小型企業にも適用する方向をとったが、やはり実効性に懸念があがっている。そこで改訂案では細かい項目を削り、“より原則的”にしようとしている。一部の投資家はこれを「より原則的にすることは、小さな企業にとって対応のフレキシビリティが増える」と評価している(※3)。

 また、課題認識の1番目に“依然として形式的”という点が挙げられているが、CGコードが多項目で表現が細かいことにより、各社なりのガバナンス向上のための工夫の余地を減らし、ボックスチェッキング的な対応を促す危険性があると指摘する声は内外からあった。CGコードが導入されて3年経過し、コードの要件に実質的に対応する意欲や余力のある企業は既に対応を終えているだろう。改訂が効果を及ぼしたいのは、今対応できていない企業だ。改訂案は、例えば政策保有株式について、“経済合理性を追求”し“開示を強化”することを求めるが、未だに政策保有株式を保有する企業にとってそれが株式を手放す動機付けになるだろうか。多岐にわたる項目について表現を細かくしても、なぜ対応できないのか追求しなければ改善は難しいのではないか。対応できない原因の直接的解決はCGコードの役割ではないかもしれないが、投資家との対話だけでは、解決には限界があるだろう。

ガバナンスの議論は継続して行うべき

 英国ではCGコードは2年ごとに見直すことになっており、その都度、新たな課題に取り組んでいる。「英国も十何年も取り組んでここまできた」と、自らの体験から、ガバナンス改革には時間がかかることを諭す英国関係者は多い。改革には弛まぬ議論が必要だ。今回の改訂案は現在対応が必要な重要案件にフォーカスした点は評価されるべきだが、続けて次の見直し時期も示すべきだろう。どこかの時点では、根本的に章立てや構成を見直してみるのもよいのではないだろうか。

 今回の改訂は“フォローアップ会議”からの提言という形が取られているが、更に多角的な意見を取り入れられるよう、金融庁には様々なステークホルダーとの議論の場も持つようにしてほしい。例えば中小型企業のための議論を専門に行う場があっても良いかもしれない。

 コード導入から3年、金融庁の議論の仕方は一歩ずつ進んできたとも言えるが、優先される特定の課題を選んで集中的な議論が行われてきた感もある。より深く議論するのは良いことだが、継続的に新しい視点を入れていくことも形骸化防止のために重要だ。様々な議論を行うための体制の確保も、CGコードの一部といえるだろう。

1) https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20180326-1.html
2) 執筆はパブリックコメント中に行ったため、それ以降の対応は反映されていない。
3) 一方、英国の投資家等関係者からは、原則主義的すぎるCGコードは、特に小型企業には何をするべきかがわかりづらいという懸念も聞かれた。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

三井千絵

三井千絵Chie Mitsui

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:企業開示

注目ワード : コーポレートガバナンス・コード

注目ワード : スチュワードシップ・コード

このページを見た人はこんなページも見ています