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金融領域での法改正の思わぬ余波

2018年6月号

金融制度イノベーション研究室長 柏木亮二

FinTechの隆盛を受けて、近年重要な法改正が矢継ぎ早に実施されている。産業構造の変化にいち早く対応する取り組みは高く評価したい。しかし、金融の本質的な機能の急激な変化に法改正がうまく対応できていない面も見受けられる。これらの教訓を活かせる検討体制の構築を望みたい。

相次ぐ法改正

 近年、金融業界では大きな法改正が相次いでいる。平成28年度、29年度と2年連続で銀行法が改正され、さらに資金決済法の改正も同時期に実施されている。

 平成28年の銀行法改正では、銀行の事業会社への出資ルールが緩和され、銀行はより機動的なビジネスモデルの拡充が可能となった。ついで平成29年の同法改正では、より多用な金融サービスの発展・育成のための環境整備を目的として、オープンAPIの導入を銀行側に促すと共に、銀行口座の情報や機能を利用する外部企業の安全性や健全性を確保するための新たな法的立場として「電子決済等代行業者」が規定された。

 またマウントゴックス事件を受けて、適切な投資家保護と事業者の監督を行うため、仮想通貨取引業者を登録制とする資金決済法の改正を行い、世界に先駆ける形で仮想通貨ビジネスへの道を開いた。

 さらに、昨年11月に開催された第39回金融審議会では、昨今の技術革新・イノベーションによる環境変化に対応するため、「縦割りの業法から、機能・リスクに応じた横断的な制度への転換」を打ち出しており、今後もさらなる大規模な法改正が行われることだろう。

電子決済等代行業者の範囲を巡る混乱

 一方で、これまでとは質を異にする法改正によって、検討時点では予測できなかったような問題が生じている。その一つが、オープンAPIの推進を目指した銀行法改正で新たに定義された「電子決済等代行業者」の範囲を巡る混乱である。

 改正銀行法では、電子決済等代行業者にあたる要件として「預金者の委託を受けて」「電子的に」「口座に係る資金移動の指図の伝達、口座情報の取得を行うこと」という3要件を規定した。これらの要件を満たす事業者は電子決済等代行業者として金融庁への登録が求められ、また情報や業務の管理体制の整備が求められる。

 当初、これらの要件を満たすが既に以前から事業を行っている事業者、例えばECサイトの利用代金の引き落としや、即時振替などを行っている事業者はこの登録の適用からは外れると予想されていた。しかし、実際には改正銀行法の条文を字義通りに解釈すれば、これらの既存事業者にも電子決済等代行業者としての登録が必要となるという事態が生じてしまったのである。

 このような想定外の新たな規制適用拡大に業者側からも疑問の声があがり、金融庁は細則を規定する内閣府令に「適用除外」を追加することで、これらの既存事業者への規制適用を回避することとなった(※1)。

 この事態を招いた原因は、改正銀行法の条文の要件が立法者の当初想定よりも、結果的に大幅に広い概念を含んでいたためと言える。イノベーションによって金融の本質的な機能が変化する中、当初想定通りに法の影響範囲をコントロールすることはこれからますます難しくなることは想像に難くない。

自主規制団体の「不在」が招いた事故

 もう一つの混乱は、コインチェック社による大量の仮想通貨流出事件の発生によって表面化した。コインチェック社が自社のホットウォレット(※2)で管理していたNEMを、外部からのマルウェア感染によって流出させてしまった事案は、仮想通貨のセキュリティ管理の難しさを浮き彫りにした。また、コインチェック社が仮想通貨取引業者としての適切性を完全に満たしていないまま、経過措置として事業継続を認められていた「みなし業者」だったことも問題視された。

 この問題の背景として、「適切な自主規制団体が不在だった」点が指摘されている。元々、仮想通貨取引所は改正資金決済法が成立するまでは、金融行政の規制の対象外だった。ところがマウントゴックス事件を受けて、適切な利用者保護や、マネーロンダリングやテロ資金供与リスクへの対応の必要性が認識されたことで、いわば後追いの形で法整備が進められたといえる。

 そして法整備が検討されている時点で、日本の仮想通貨取引業界ではすでに2つの業界団体が存在していた。一般的に、業法が認める自主規制団体は、当該業種につき一団体と規定されている。金融庁側から業界側に早期の自主規制団体発足のために業界団体の統合が促されていたが、結果的にコインチェック社の事件までは統合は実施されず、その結果、適切な自主規制や業界ガイドラインが機能する状態とはなっていなかった(※3)。

 この「自主規制団体の不在」という問題は、今後も起きうる問題である。新たな参入者による既存の金融サービスの枠組みに収まらない金融サービスをどのように定義し、業界としての自主努力を担保するのかについての明確な手順が確立されているとは言えない。

ソフト・ローを機能させる仕組みの充実を

 ますます複雑化していく金融機能を適切に規制する枠組みの議論のなかで近年重視されているのが「ソフト・ロー」による統治である。ソフト・ローとは、法令上の根拠に基づくルール(これを「ハード・ロー」と呼ぶ)ではなく、事業者側の自律的な経営判断に基づく自律的な「規制」の枠組みである。電子決済等代行業者の範囲に関する混乱は、ハード・ローによる環境変化への対応の難しさを示した例とも言える。

 一方、自主規制団体を通じたソフト・ローによる規制の利点は、技術変化やそれに伴うビジネスモデルの変化に応じて、事業者側が自らのビジネス環境の適切性・健全性を維持するように、自主的に有効な規制の枠組みを構築できることにある。しかし、この仕組みが適切に機能するには前提条件が必要だろう。それは、そもそも業界としての定義が明確になっていること、言い換えれば自主規制団体となりうる組織の乱立が回避されるような仕組みの存在である。その仕組み作りのアイデアとして「事業者自らに業務範囲を規定させる」というものが考えられる。新たな金融サービスの提供者に、例えばレギュラトリーサンドボックスでの実験を通じて必要な法改正の範囲と影響を事前に明確化させ、その上で自主規制団体の設立を進めるといったやり方が考えられる。

 またそれと並行して、金融行政のあり方を検討する金融審議会などの構成員により多くのベンチャー企業や技術の専門家を配置すべきであろう。

1) 本改正の施行は2018年6月1日からとなっており、適用除外が適切に機能するかどうかはまだ不透明な部分が残っている。この改正銀行法に付随する内閣府令について、4月9日まで実施されていたパブリックコメントには、これらの適用除外の対応に関してかなり辛辣なコメントが寄せられた。
2) 仮想通貨を保管するための「財布」に該当するソフトウェアやハードウェアを「ウォレット」と呼ぶ。ホットウォレットとは、インターネットに接続された状態のウォレットであり、常時取引が可能という利便性はあるが、不正アクセスにより仮想通貨を盗まれるなどのリスクがある。一方、コールドウォレットは、ネットワークから切り離された状態で仮想通貨を保管する仕組みである。
3) 仮想通貨取引業者の登録済16社により、2018年4月23日に、自主規制団体の認定を目指す新団体「日本仮想通貨交換業協会」が設立された。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

柏木 亮二

柏木亮二

金融制度イノベーション研究室
室長
専門:IT 事業戦略分析

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