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株式等の決済期間短縮(T+2化)と日本における課題

2018年6月号

証券ホールセール事業一部 営業担当課長 藤田悠介

海外主要市場において株式等の決済期間がT+2に移行している中、日本においても2019年の前半実施を目指して決済期間短縮化の検討が進められている。円滑な移行に向けて業界全体での入念な準備が必要であろう。

なぜ株式等のT+2化を行うか?

 2008年9月のリーマンブラザーズ証券破綻等を契機に世界的に証券の決済リスクを削減する取組みが大きく進んでいる。その取組みの一つが証券の取引(約定)から受け渡し(決済)までの期間を短縮する決済期間の短縮化である。現在、日本では株式の約定から決済までの期間は3日(T+3)だが、国外の主要市場ではT+2が既に主流となっている(※1)。

 そこで日本証券業協会は2015年7月、「株式等の決済期間の短縮化に関する検討ワーキング・グループ」(以下、WG)を設置、日本における株式等のT+2化を市場参加者と市場インフラが一体となって推進している。WGは2016年6月に最終報告書(※2)を公表、その中で日本におけるT+2化実施予定日の目安として「2019年の4月又は5月の連休明け」を、また実施に向けた総合運転試験の目安として「2018年Q4(10~12月期)から2019年Q1(1~3月期)頃」という時期を示したことで業界としての議論が加速した。また、WGの方針を踏まえて、2018年4月末に日本証券クリアリング機構がT+2化に向けた休日試験の具体的な予定日程を公表したことで、今後は市場参加者側のT+2化への準備が更に進展することであろう。

株式等のT+2化がもたらす効果と課題

 決済期間を1日短縮化することの利点は何か?まずは冒頭にも述べた決済リスクの削減である。約定から決済までの期間が1日短くなれば、決済におけるリスク量と言える未決済残高は1日分減ることになる。また、株式や資金の受渡しが1日前倒しされることで、取引の主体である投資家や証券会社はより機動的に株式や資金を活用できるようになる。さらに、未決済残高が減ることで、証券会社が清算機関に差入れている、リスク量に応じた担保金額も削減できる可能性がある。最後に、T+2化を実施して日本の決済のサイクルを海外の主要市場と揃えることは、グローバルで決済事務を統一化したい海外投資家にとってメリットがあり、日本市場の国際競争力を維持・向上する上でも重要である。

 一方で決済期間の短縮化における課題は大きく分けて2点ある。1点目は「事務処理負担の増加懸念」である。今回のT+2化において、約定から決済にいたる事務処理やそれに係る市場インフラの仕組みに抜本的な変更は行われない想定である。2000年頃から始まった日本の証券決済制度改革の結果として既に株式の照合や決済のプロセスは電子化されており、加えてT+2であれば約定日と決済日の間に少なくとも1営業日はあることが理由である。しかしながら、実質的にこれまで2日間あった照合や例外発生時の訂正処理等を1日で行うこととなり、市場参加者の事務処理負担が増加することを想定した上で更なる事務処理の効率化が必要となろう。

 2点目は「フェイル(受け渡しの遅延)の増加懸念」である。WGの最終報告書における試算によると、T+2化に伴い、貸株取引の流動性が十分に確保される環境においても、「フェイルは一定程度増加する可能性があり、十分な流動性が確保されない環境ではフェイルは更に増加する可能性がある」(※3)。フェイルを受けた投資家(被フェイル投資家)は予定通り証券を受領することができなくなる点が問題となるが、特に権利確定日(※4)を決済日とする取引がフェイルし、証券の受領が翌日以降に繰り越された場合、被フェイル者は株主権利を得ることができなくなる。特に日本では原則として投資家の名義が株主名簿に記載される構造であり、株主の権利保障の観点では「権利確定日を決済日とするフェイル」は許容されないため、株主の救済策等の検討が必要となる。

株式等のT+2化に向けた業界としての取組み

 WGを中心に市場参加者と市場インフラでは株式等のT+2化に向けた課題への対応を活発に議論している。

 「事務処理負担の懸念」に対しては、各証券会社主体で社内の事務処理プロセスやシステムの点検と見直しが必要になるだろう。特に非居住者との取引等において、大量の取引件数の中で頻繁に取消しや訂正等が発生した場合、決済の時限までに事務処理を遅滞なく完了できるかの点検は重要になる。2018年の秋頃までに各証券会社でT+2化を踏まえた業務・システム体制の整備を行い、同年12月から実施予定の総合運転試験で検証を行うことが必要となろう。

 「フェイルの増加懸念」に対しては、WGを中心にフェイル発生を低減させる施策とフェイル発生時の対応という2つの観点で検討が進められている。

 フェイル低減策の中心となるのが、フェイル回避のために行われる貸株取引にかかる処理の標準化・迅速化である。証券会社は取引の相手方に渡すべき株式が不足していた場合、他の証券会社等から株式を借りて不足分を調達する。この貸株取引における事務処理が相手方ごとに異なっていると円滑な取引が行えない。例えば貸株取引の貸借料や担保金の金額は、貸し手と借り手双方で計算して認識の相違がないか確認している。しかし計算する際の端数処理の方法や利用する時価の基準等が異なっていると、双方の計算結果にずれが生じ、その原因確認等に時間がかかってしまう。そこでWGでは貸株取引の事務処理に関するガイドラインを作成し、貸株取引における約定時限や担保金・貸借料の計算方法等細かな事務処理の中身について統一的な指針を公表した。統一的なガイドラインが公表されたのは良いことだが、それが形骸化しては意味がない。今後、貸株取引の参加者がガイドライン適用に向けて一体となって事務処理やシステムの見直しを進めることが肝要であろう。

 フェイルが増加することを前提に、フェイルを受けた(当初の決済予定日に株式を受領できなかった)株主への救済策も並行して検討されている。その一環として2017年9月に日本証券クリアリング機構と日本証券業協会はそれぞれフェイル発生時の対応指針やフェイルに関する留意事項を整理して公表しているが、今後もフェイル発生時の対応策という観点でWGを中心に具体的な施策の検討が進んでいくと思われる。

 T+2化は日本の株式市場の国際競争力を維持・拡大するために必須の対応となる。市場参加者の事務処理負担は少なくないが、一方でT+2化は低リスク・高効率な市場インフラ・慣行を構築するチャンスとも捉えられよう。T+2への円滑な移行を進めるべく市場参加者や市場インフラは一体となって準備を促進する必要がある。

1) 直近では米国において2017年9月に株式等のT+2への移行を完了している。
2)「 株式等の決済期間の短縮化に関する検討ワーキング・グループ 最終報告書」2016年6月30日。
http://www.jsda.or.jp/shiraberu/minasama/t2/t2_houkoku_20160630.pdf
3) 最終報告書の脚注7(ページ2)。
4) 株式を保有する者が株主権利を得ることができる確定日。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

藤田 悠介

藤田悠介Yusuke Fujita

証券ホールセール事業一部
営業担当課長
専門:証券決済サービス

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