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注目される中国の資産証券化業務

2018年5月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

国家の重要政策分野では資金調達を一部シャドーバンキングに依存しており、シャドーバンキングの取締り厳格化の下で、資金調達が難しくなりかねない。そうした中で、資産証券化の利用が注目される。

資産証券化商品の増加

 中国政府が金融リスクの防止を重視する中で、シャドーバンキングに対する取締りが一段と厳しくなっている。一方で、地方のインフラ整備・不良債権処理・小企業金融といった国家の重要政策の分野で、これまで資金調達の一部をシャドーバンキングに依存してきたことも事実である。シャドーバンキングの取締りを厳しくするだけでは、資金調達が難しくなりかねない。そうした中で、資産証券化による資金調達が注目されている。

 中国における資産証券化業務は2000年代半ばに始まった。銀行間市場の貸出資産証券化と証券取引所で発行される企業資産証券化に大別される(※1)。2014年に認可制から届出制になったこともあり近年発行が増加している。

 2017年の証券化商品全体の発行額は1兆4,520億元で、前年比65.9%の増加、年末残高は2兆688億元である(※2)。貸出資産担保証券(貸出ABS)の発行額は5,977億元(同52.9%増)、残高は9,132億元(※3)、企業資産担保証券(企業ABS)の発行額は7,968億元(同70.3%増)、残高は1兆829億元である。

 最近の特徴として、中国政府の政策に合致したものが増加したり導入されたりしていることがある。

 第一に、政府が重視する金融包摂(※4)の分野である。企業ABSを見ると、少額貸出と売掛債権を原資産とするABSの発行がそれぞれ2,680億元(同269%増)、1,353億元(同53.0%増)と増加している。背景には、EC大手のアリババ系の螞蟻金融(アントフィナンシャル)等による少額貸出の増加やサプライチェーン金融の発達等がある。2018年に入っても、新エネルギー車(NEV)のBYD、スマートフォンの小米(シャオミ)等、中国経済の新たな成長点となるメーカーのサプライチェーン金融ABSが証券取引所での発行に向けて動いている(※5)。

 貸出ABSにおいても、個人向け住宅ローンを原資産とするABSが1,708億元と前年比22.3%増加しているほか、消費者ローンと信用カード貸出を原資産とするABSがそれぞれ837億元(同1285.6%)、653億元(同366.4%)と急増している。

 第二は、地方政府の資金調達に関する分野である。2017年は、PPPプロジェクト(官民協力プロジェクト)を原資産とするPPP資産ABSが銀行間市場、証券取引所でともに初めて発行された(通年で286億元)。

 PPPプロジェクトは、地方政府の財政難を緩和するために民間資本(社会資本(※6))の活力を利用してインフラ等を建設することが本来の趣旨であるが、実際には、一部の地方政府が民間側の出資に対してウラで元本収益保証をするなど、事実上の地方政府の資金借入れの道具に変質している。地方政府融資プラットフォームで問題となった地方政府の隠れ債務の問題が再燃していることになる。このため中央政府は、情報開示等の規制が比較的整備されたABSでの資金調達を推進している。

 第三は不動産分野で、不動産投資信託(REITs)が額は少ないながらも発行されている(89億元)。また、中国政府が不動産価格高止まりによる住宅問題を抱える大都市を中心に賃貸住宅市場の育成・発展に取り組む中で、賃貸住宅を原資産とするABSも発行され始めた。

 第四は、銀行の不良債権処理の分野である。不良債権の資産証券化は、政府の不良債権処理策の一つとして2016年に再開され、2017年も130億元発行された。

正規の資産証券化業務を推進

 今後については、「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」の正式発表が注目される。指導意見の草稿(17年11月発表)は、金融機関の発行している資産管理商品に対する規制を厳しくするもので、シャドーバンキングを抜本的に取り締ることが期待されている。

 指導意見の趣旨の一つは規制回避のためにこれまで行われてきた複雑で不透明な資産管理業務のリスクを抑制することである。したがって金融当局の規則に基づいた資産証券化業務は、今後、推進されるとみられる(※7)。

 当然のことながら非正規の資産証券化は取締りの対象となる。これまで、不動産企業や地方政府のプロジェクトに複雑な方法で迂回融資を行うシャドーバンキングにおいて、信託商品等を利用した事実上の資産証券化が発達してきた。既に、このような非正規資産証券化に対する取締りは進みつつある。

 例えば、2018年に入って、貸出資産や資産管理商品を原資産とする資産証券化商品を銀行間市場や証券取引所市場以外(場外)で発行することにより、銀行が(本来の銀行貸出を)オフバランス化して自己資本比率規制を回避するといった行為等を、厳しく取り締まる方向が打ち出されており、いわゆる場外ABSは今後難しくなると思われる(※8)。

 また、上述したように最近急速に増えている少額貸出のABSについても、原資産の少額貸出を行っている螞蟻金融等の少額貸出会社のレバレッジ比率が高くなっていることに対して当局の指導が入っており、今後は伸びが鈍化する可能性もある(※9)。

 このように政府は、新たなリスクの発生を回避しながら、証券化業務を正規ルートへ回帰させようとしている。

1) それぞれ銀行業監督管理委員会(2018年3月に保険監督管理委員会と統合され銀行保険監督管理委員会)と証券監督管理委員会の管轄下にある。
2) 中国中央国債登記結算公司「2017年資産証券化発展報告」。
3) この他、銀行間市場ではABN(資産担保手形)も575億元発行されている。
4) ファイナンシャル・インクルージョン。従来、資金調達難に直面していた個人や小企業などへの金融サービス提供を目指す。
5) 報道(2018年3月20日 21世紀経済報道)による。
6) 中国の場合、国有企業も参加するので社会資本とも言う。
7) 指導意見草稿では、金融管理監督部門が公布した規則に基づいて展開する資産証券化業務には、指導意見は適用されないとある。
8) 銀行業監督管理委員会「銀行業市場の混乱取締りの深化に関する通知(2018年1月)。
9) 証券化により原資産をオフバランス化する基準が明確でないという問題があり、規定の充実が待たれる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健

神宮健Takeshi Jingu

NRI北京
金融システム研究部長
専門:中国経済・金融資本市場

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