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雲行きが怪しくなった仮想通貨とブロックチェーン

2018年4月号

理事 楠 真

FinTechブームの中でとりわけ注目されたビットコインとブロックチェーン。しかしビットコインなど仮想通貨には様々な問題点が指摘され、まさにそれが顕在化したのが2017年であった。ブロックチェーンも金融システムの変革に必要不可欠という訳ではない。雲行きはとても怪しくなってきた。

FinTechブームとビットコイン

 筆者は2年前に「FinTech2.0金融とITの関係がビジネスを変える」(※1)と題する著書を上梓した。当時、米国におけるFinTech関連のベンチャー投資は2兆円を上回り、FinTechはまさにブームとなっていた。ブームのなかでもとりわけ注目されていたのがビットコインとブロックチェーンである。ビットコインはサトシナカモトといういまだに正体不明の人物が書いた論文をベースとして作られた仮想通貨で、ブロックチェーンはビットコインを実現するテクノロジーである。

 ビットコインとブロックチェーンが注目された背景は大きく3つある。第一に各国政府による規制やSWIFTなど、既存の金融システムに縛られない自由な取引が可能だということ。第二は膨大なコストのかかる既存金融システムと無縁なインターネットをベースとしているので取引コストがケタ違いに安くなると考えられたこと。そして第三は独自の為替レートを創出して、急速に値上がりしていったことである。

 FinTechブームのさなか、金融やFinTechの専門家を何度も訪問してインタビューを実施した。直前に日本でマウントゴックス事件(※2)が発生して時価が暴落したこともあり、ビットコインに対して否定的な見解を述べる専門家がほとんどであった。しかしブロックチェーンについては別で、「ビットコインと切り離した技術としてのブロックチェーンには、インターネットと同じくらいの技術的可能性がある」という専門家も多かった。

 ブロックチェーン技術の応用を業界全体で進めるための活動がいくつも生まれたのはそのためだ(※3)。ビットコインの仕組みとして作られたブロックチェーンの考え方は斬新で、これまでの金融システムとまったく異なるアーキテクチャーだったため、複雑な銀行システムや金融機関同士の取引システムをこのアーキテクチャーで作り直せば、膨大なビジネスチャンスが生まれるはずだと考える有識者は多かったのだ。

仮想通貨の問題点

 ビットコインやその親戚の派生通貨の持つ問題点については早くからいろいろな指摘がなされている。『ブロックチェーン技術の未解決問題』(※4)は実務家からの視点で仮想通貨の問題点を、その後に起きた問題を含め、ほとんどすべて指摘している。ブロックチェーン技術はビットコインを取引するための技術だが、仮想通貨の取引はブロックチェーン技術だけで完結するわけではない。証券取引のために取引所と証券会社があるように、仮想通貨の取引についても投資家が取引するためには証券会社に相当する組織が必要となる。そしてその組織は通常の証券会社と同様、顧客の権利保護のためにセキュリティ対策を施したり、マーケット情報を提供したりしなければならない。それらの付帯的な機能はブロックチェーンと何の関係もないが、仮想通貨取引を安全で全うなものにするにはとても重要な機能だ。そして金融取引では予想もつかない事態に直面することがある。悪いやつはいつの時代にもいるし、彼らは金融システムの弱い部分を狙って悪事を働くのが常道なのだ。だから証券マーケットでは取引所そのものよりも、証券会社の機能にはるかに大きなコストがかかっている。

2017年の仮想通貨

 2017年は仮想通貨が再び脚光を浴び、そして大きな節目となる年となった。同年4月に施行された改正資金決済法により、仮想通貨が日本ではじめて決済の手段として法的に認められた。仮想通貨をモノの取引として考えれば、取引には消費税を支払うことが求められる。しかし改正資金決済法によって決済手段と認められたことで消費税を納税する義務は正式になくなった。それを契機としてビットコインに対する投資ブームに火がついた。NEMの流出事件で有名になったコインチェックも改正資金決済法の施行前後に仮想通貨取引のサービスを開始した。2017年を通じてビットコイン価格は10倍以上に値上がりし、そして年末に暴落したのだ。

 値上がりするビットコインに対して金融専門家の見方はいたって冷淡なものであった。多くは、これまで繰り返されてきたバブルと全く同じことだと指摘した。2017年末には米SECがビットコインのETFとしての上場を承認しないということが伝わり、仮想通貨への熱は急激に冷めた。各国の通貨当局はビットコインに対してネガティブなコメントを繰り返した。ネガティブなトーンは徐々に増していき、2018年になると「ビットコインは通貨ではない」(MN連銀、カシュカリ総裁)(※5)、「ビットコインは通貨として失敗した」(イングランド銀行カーニー総裁)(※6)と断定的な言い方へ変化していった。

 仮想通貨の取引をサービスする仮想通貨取引所で様々なトラブルが相次いだこともネガティブなインパクトを及ぼした。2017年12月に韓国のビットコイン取引所、ユービットが北朝鮮によるハッキングとみられる被害によりビットコインを失って倒産した(※7)。翌18年1月には日本の仮想通貨取引所、コインチェックから580億円相当の仮想通貨NEMが流出した(※8)。相次ぐ仮想通貨取引所のトラブルはかねてから懸念されていた「未解決問題」が顕在化したに過ぎないとの見方もある。いずれにせよ仮想通貨が金融システムとしては極めて未成熟な段階にあるとの指摘は否定できない。

ブロックチェーンの将来

 「仮想通貨は将来性がない。だがブロックチェーンは別だ」と言っていた専門家はどうなっただろうか。そう思って、最近、何人かに同じことを質問してみた。その中の一人はこんな回答をしてくれた。「ブロックチェーン技術をいろいろな金融システムに適用する検討をしたことは本当に良かった。コンピュータの能力が足りない時代に作られた古い仕組みがいくつもブラックボックスとして残されていることがわかったからだ。こうした古い仕組みを作り直すことで金融システムを抜本的に変えることができる。米国金融業界はそのために積極的に動いている。だが、そこでブロックチェーン技術を使うかどうかは別の問題だ。何もあんな突飛な仕組みを使わずとも、便利な技術がいくらでもあるからだ」。

 ビットコインとブロックチェーンの雲行きはとても怪しくなってきたのだ。

1) 楠 真「FinTech2.0金融とITの関係がビジネスを変える」(2016年、中央経済社)。
2) 日本のビットコイン取引所であるマウントゴックス社が2014年にビットコインの紛失によって倒産した事件。同社は当時世界最大のビットコイン取引所であった。
3) たとえばゴールドマン・サックスなどが中心となって生まれたR3というコンソーシアムには三菱UFJファイナンシャルグループやみずほファイナンシャルグループも参加して、さながらブロックチェーンの護送船団のような活動となった。「三菱UFJがブロックチェーンの国際団体に加入。国内でも関連サービスが相次ぎ登場」(2015.10.22、日経BP社ITPro)。
4) 松尾、楠、崎村、佐古、佐藤、林、古川、宮澤「ブロックチェーン技術の未解決問題」(2017年、日経BP社)。
5) カシュカリ米MN連銀総裁「ビットコインは通貨ではない、目新しいおもちゃ」フィスコ、2018年2月9日。
6) 「ビットコイン、通貨としておおむね失敗=英中央銀行総裁」(2018年2月20日、ロイター)。
7) 「ハッキングに北朝鮮の影」(2018年2月28日、日本経済新聞)。
8) さらに、同じく日本の仮想通貨取引所、Zaifでは2月に取引システムのトラブルが発生した(https://jp.reuters.com/article/zaif-system-troubleidJPKCN1G50AT)。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

楠 真Shin Kusunoki

理事

注目ワード : ブロックチェーン

注目ワード : 仮想通貨

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