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米国におけるオンライン・レンダーの動向

2018年3月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 嶋村武史

優れたUI・UXや革新的な与信モデルを売りに米国においてオンライン・レンダーの融資額が急拡大している。与信モデルについては批判もあるが、外部との提携等を通じて改善する動きが見られる。更に、本業で獲得した情報を転用して融資事業を行う新しいレンダーの動きも注目を集めている。

 近年、米国においてオンライン・レンダーの存在感が着実に高まっている。オンライン・レンダーとは、融資申込プロセスをオンライン化し、基本的にパソコンやスマホで融資申込プロセスが完結するレンダーを指す。主に消費者及び中小企業向けの無担保ローンを手掛けており、LendingClub(※1)やOnDeck(※2)がその代表である。

 米国におけるオンライン・レンディングの市場規模は急拡大している。図表の通り、2011年には約5億ドルに過ぎなかった融資額が、2015年には約227億ドルと4年で40倍以上に増加したと推計される。LendingClubの不祥事(※3)が明らかになった影響もあり、2016年は伸び率が鈍化したものの、着実に融資額が増加している。

オンライン・レンダーの与信審査の特徴と評価

 急拡大の背景にはデジタル化の進展や金融危機後の金融機関の役割変化等の外部環境変化の他に、オンライン・レンダーの革新に拠る部分も大きい。店舗を持つ必要がないためコスト面での優位性があることに加えて、他のFinTechスタートアップと同様にUI・UX(※4)に対する意識が高いことも顧客の利用を後押ししている。更に、オンライン・レンダーは与信審査の革新も主張する。オンライン・レンダーの与信は、各種情報を独自のアルゴリズムを使って分析し、融資の可否の判断や金利・融資金額等の条件を迅速に決定するものである。ソフト情報に基づいた所謂リレーションシップ貸出(※5)ではなく、ハード情報に基づくトランザクション貸出(※6)に分類される。

 トランザクション貸出自体は新しいものではなく、その一類型であるクレジット・スコアリング貸出(※7)は米国において90年代から大手行を中心に広がっていった。しかし、オンライン・レンダーは、従来のスコアリング貸出と比べると幾つかの面で進化しており、これまで借入れができなかった層も含めて迅速に貸出を行うことが可能になったと主張している。

 まず、審査モデルの高度化である。従来のスコアリング貸出では、比較的モデルの構造が直感的で分かりやすいロジスティック回帰モデルを活用するケースが多い。これに対して、オンライン・レンダーの多くはロジスティック回帰モデルを複層化したイメージのニューラル・ネットワーク等を活用し、モデルの予測能力がより高まっているとしている。

 また、審査に活用する情報の範囲の広がりも挙げられる。米国における従来の中小企業向けスコアリング貸出においては、事業に係る情報よりもオーナーの信用情報を重視してきた。これに対して、近時台頭しているオンライン・レンダーは、オーナーの信用情報に加えて、物流・決済情報、キャッシュ・フロー等の財務情報、口コミサイト等のソーシャル・ネットワーク上の情報等、より幅広い情報を与信審査に活用している。

 しかし、必ずしもオンライン・レンダーの与信審査の優位性に関する評価が定まっているわけではなく、幾つかの批判にさらされている。まず、モデルがブラック・ボックス化しており、透明性が損なわれているとの批判がある。また、ソーシャル・ネットワーク情報の活用が革新の一つとして強調されるケースが多いが、現時点ではそれほどモデルの説明力向上に寄与していないとの批判がある。更に、ほとんどのオンライン・レンダーが金融危機以降の緩和的なクレジット・サイクルしか経験しておらず、ダウン・サイクル時のモデルの有効性は未知数であるとの意見も根強い。加えて、中小企業向け融資に関しては、現時点では金利が年利40-50%程度と高く、融資条件面で不満を持つ企業の割合が高い。

近時のオンライン・レンダーの動向と新しい動き

 上記のようなオンライン・レンダーの与信審査への批判がある中、金融機関との提携を通じてモデルの精度を向上させる試みも行われている。その典型はOnDeckとJP Morganの提携である。OnDeckにとっての提携の利点の一つは、JP Morganが保有する顧客のキャッシュ・フロー情報等へアクセスし、モデルの精度を上げることである。OnDeckに対する顧客からの信頼性の向上も利点として挙げられる。JP Morganにとっては、戦略的に拡大したいスモール・ビジネス向けの融資のデジタル化を低コストで迅速に実現できる点が利点となる。

 更に、非金融の事業会社と提携するケースも出ている。例えば、GoogleやAlibabaはLendingClubと提携し、同社のパートナー企業やサイト利用企業向けに融資プログラムを提供している。GoogleやAlibaba独自の情報を活用し、審査精度を向上させているものと推察される。

 加えて、従来融資業務を行ってこなかった業者が、本業で得た情報を活用してオンライン・レンディング業務に乗り出すケースも出ており、新しい動きとして注目されている。その典型例として、Amazon Lendingが挙げられる。これはAmazonの販売サイトの出展業者に対して短期融資を行うプログラムであり、Amazonが把握できる出店業者の売上情報や業者に対する顧客レビュー等の分析を活用しているとみられる。サービスを開始した2011年から2017年までの累計で30億ドル超の貸出を実行している。Amazon以外でもPaypalやSquare等の決済業者がアカウントを有する企業向けに融資サービスを提供している。これらの決済業者は決済サービスから取得する取引履歴や関連する財務情報を独自に分析することで、他のレンダーに対する差別化を図っている。

 LendingClubやOnDeckといったオンライン・レンダーが効率性やUI・UXで伝統的な銀行との差別化を図ってきたが、AmazonやPaypalは更に情報面での強みを活かしている。即ち、本業で獲得した顧客の事業に係る情報を転用し、金融サービスに繋げていることが差別化要素になっている。金融機能を担う鍵が情報とその活用にあることに鑑みると、これらのプレイヤーが本業を拡大し、情報がプラットフォーム上に蓄積されるにつれて、金融サービスの提供者としての存在感が高まってくるのではないか。

1) 2007年に創業、2014年に上場した米国最大手のマーケットプレース・レンダー。マーケットプレース・レンダーとはオンライン・レンダーの一類型で、貸手と借手の資金ニーズをマッチングし、貸出を行う業者の総称。
2) 2007年創業、2014年に上場。小売店やレストラン等のスモール・ビジネスに融資を行うバランスシート・レンダー。バランスシート・レンダーとはオンライン・レンダーの一類型で、レンダー自身が資金を調達して貸出を行う業者の総称。
3) 約2,200万ドルの融資債権を不適切に投資家に売却したため、共同創業者等が辞職に追い込まれた。
4) ユーザー・インターフェース及びユーザー・エクスペリエンスの略称。
5) 金融機関が顧客との長期的な関係に基づき事業の成長性や経営者の資質といった企業が持つ定性的な情報(ソフト情報)を蓄積し、この情報を基に貸出を行うこと。
6) 企業の財務情報や担保価値等、定量的に把握可能で、第三者に対して立証可能性の高い情報(ハード情報)を基にした貸出形態。
7) 借手の信用リスクと関係が深い諸変数を用いた計量モデルにより借手の信用力を表すスコアを推定し、これに基づいて融資実行の可否や契約条件を決定する貸出形態。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

嶋村武史

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

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注目ワード : FinTech(フィンテック)

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