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個人の資産運用への影響力を高める確定拠出年金

2018年3月号

金融ITイノベーション事業本部 事業企画室 上級研究員 金子久

確定拠出年金はそれを利用する人の資産運用に対する考え方に影響を与えている。確定拠出年金の利用者と運用残高の着実な拡大が予想されるなか、同制度以外の資産運用サービスにおいても、長期運用の視点が求められるようになるはずだ。

利用者と資産規模が着実に拡大する確定拠出年金

 2001年10月よりわが国に導入された確定拠出年金(以下、「DC」)は、個人向けビジネスを考える金融機関にとって重要性を高めている。それは、一に加入者が急増しているためだ。17年1月に対象者が大幅に拡大した個人型(iDeCo)では、加入者は1年間で倍以上に増え、17年末には74万人に達している。企業型においても、制度創設以来、年40万人のペースで増加してきた加入者数が、今年度は既に50万人近く増えており、着実に拡大している。この結果、DC加入者は個人型と企業型の合計で710万人を超えている(図表1)。このほか、掛金の拠出を止め運用を行う運用指図者も、現役世代だけで約40万人いるとみられ、60歳未満のDC利用者は750万人に達することになる。これは20~59歳の12%の人がDCを利用していることを意味する。

 投信ビジネスとしてもDCは無視できない存在になりつつある。DCにおいて投信を保有する人は加入者の6割弱と見られ、大凡400万人がDCを経由して投信を保有していると考えられる(※1)。当社のアンケート調査によると60歳未満の株式や投信等の有価証券保有者は800万人程度(※2)と見られるため、有価証券保有者の半数に匹敵する人がDCを通じて投信を保有していることになる。また、DC制度で保有されている投信の金額は17年末時点の推計で6.3兆円に迫り(※3)、ETFを除く追加型株式投信の1割近くまでシェアを拡大している。

資産運用に対する意識を変える確定拠出年金

 DCは利用する人の資産運用に対する考え方に影響を与えていると考えられる。17年3月に野村総合研究所が実施した現役世代の資産運用の取組状況に関するアンケート調査を基に、企業型DC加入者とDC非加入者で資産運用に対する考え方や取り組みがどのように異なるかを見てみたい(※4)。企業型DCは投資教育の強制力の点で個人型DCと異なっているが(※5)、個人型でも同様の教材が加入者に配布されており、加入者に知識取得の機会が提供されている。このため、DC非加入者との比較では、個人型DC加入者も企業型加入者と程度の違いはあっても似たような傾向を持つと想定される。

 企業型DCでは、投資教育が実施されていることもあって、資産運用に関する基礎知識を身に付けている加入者は多い。図表2は5問の金融クイズ(※6)の全問正解者の割合を比較したものだ。全問正解者の割合は、企業型DC加入者では35%に達したのに対し、DCに加入していない会社員や公務員の場合は25%に満たなかった。DCは投資に関心を持たない人に対しても資産運用の知識を高めている様子が窺える。図表2では、投資に対する経験や関心別に分けて比較しているが、投資経験も投資への関心もない人(図の右端)でも、企業型DC加入者はDCに加入していない会社員や公務員に比べ、全問正解者の割合が高い傾向が確認できる。

 また、アンケートの中で、DC以外で資産運用を行う際、長期的な目標を持って行っているか、短期的な目標を持って行っているかについて聞いたところ(※7)、企業型DC加入者はDC非加入者に比べ長期的な目標を持って資産運用を行っている人の割合が高い傾向があった。さらに、DC以外の資産運用において、資産分散を意識するかについて聞いたところ、企業型DC加入者はDC非加入者に比べ、明らかに、資産分散を意識して運用を行う人の割合が高かった。

 企業型DC加入者は投信の選択基準も非加入者と異なる傾向が確認できた。DC以外で投信を購入する際に、何を考慮するかについて聞いたところ、企業型DC加入者はDC非加入者に比べ、「過去の運用成績」、「運用管理費用(信託報酬)」、「投資信託の投資対象」、「運用スタイル(インデックスファンドかアクティブファンドか)」を意識する人の割合が高い傾向があった。

 このように企業型DCの加入者は長期にわたる資産運用に必要不可欠な基礎知識を身に付けており、その知識を制度外の資産運用でも活用しようとしている人が多い。

DCの普及により「長期的運用手段」とみなされる投信

 野村総合研究所が行ったDCに関するいくつかの調査を総合すると、DC加入者は、今後しばらくの間、企業型と個人型の合計で年間50~60万人増のペースで拡大し、5年以内には1千万人に届くと予想される。DC加入者の増加と共に、「投信は長期の運用手段」という認識が広がっていくことは間違いない。これは現役世代に限った話ではない。今後60歳を迎える人に占めるDCの利用者の割合が徐々に高まるためだ。

 投信が、「短期の利殖のための金融商品」というイメージから変わっていくことによって、今までとは異なった性格の資金も流入してくることになるだろう。それと同時に、金融機関に求められるサービスも変わってくる。顧客はコストの高いファンドやテーマ型ファンドを敬遠する傾向が強まり、一方で資産配分のあり方等について関心を高めることが考えられる。

 国の財政状況からみてDCの拠出上限引き上げが米国ほど許容されないわが国の場合、DC制度が投信マーケットの拡大を牽引することは考え難い。ただ、DCの経験を通じて人々が求める投信のイメージが変わることで、間接的にマーケットの拡大に作用していくことになろう。

1) 企業型の場合、元本確保型商品が100%である加入者の割合は43.5%(投信を少しでも保有している加入者の割合は56.5%)(「2015年度決算 確定拠出年金実態調査結果(企業年金連合会)」)といわれている。従って企業型(加入者641万人(2017年11末現在))だけでも、360万人近い人がDCの中で投信を保有している
と考えられる。
2)「 NRI生活者1万人アンケート(2015年)」より推計。
3)「 確定拠出年金統計資料(運営管理機関連絡協議会)」とDC向け専用投信の動向を基に野村総合研究所推計。
4)「 企業型DC加入者の資産運用に関する取組状況調査」(野村総合研究所、2017年3月)。このアンケートでは、企業型DC加入者と、企業型や個人型DCに加入していない民間企業の会社員、公務員を対象に資産運用に対する考え方や行動の違いを調査している。
5) 企業型DCでは導入企業に投資教育の実施を努力義務として課しているため、概ね全ての事業所で導入時教育は実施されている。
6) アンケートでは①金利の意味、②複利の意味、③インフレの定義、④リスクとリターンの関係、⑤分散投資の意味の理解を確認するために5問の金融クイズを行った。
7) 本問の選択肢は、「長期的な運用目標を持っている」、「長期的な運用目標はないが、短期的な運用目標を持っている」、「特に運用目標は設定していない」、「資産運用には、興味がない」。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金子久Hisashi Kaneko

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:個人金融マーケット調査

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