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金融ITフォーラム報告

2018年2月号

佐々木雅也, 富永洋子, 國見和史

野村総合研究所(NRI)は2017年11月16日、「金融デジタルトランスフォーメーションに挑む」をテーマに「NRI金融ITフォーラム2017」を開催した。

 「デジタル化」の波は、いまや社会の隅々にまで到達し、既存のモデルや思考・行動は、根本からの変革を迫られている。それが「デジタルトランスフォーメーション」である。とりわけ、デジタルと親和性の高い金融ビジネスでは、業界の壁を越え、新しい感覚と発想で様々な試みが進められている。NRIは、デジタルトランスフォーメーションがもたらす新たな世界を、皆様とともに作り上げたいと考えている。その一環として、2017年の「金融ITフォーラム」では、NRIのデジタルトランスフォーメーションに対する取り組みをメインに紹介した。

 ここでは、基調講演、特別講演をお引き受け下さった大和ハウス工業 代表取締役会長兼CEOの樋口武男様、PwCあらた監査法人 パートナーの辻田大様、日本テレワーク協会 専務理事の中山洋之様、野村アセットマネジメント ポートフォリオマネージャーの宮崎義弘様の講演を紹介するとともに、野村総合研究所 チーフエコノミストのリチャード・クーの講演を報告する。

先の先を読む経営 創業者石橋信夫に学ぶ
大和ハウス工業株式会社 代表取締役会長兼CEO 樋口 武男氏

 大和ハウス工業は1955年に創業された。それから62年、創業時2,700万円程度だった売上高は連結で3兆7,500億円となっている。これだけ規模が大きくなったのは、創業者石橋信夫のリーダーシップのもとで幅広い事業領域をもつことができたからである。当社には住宅会社というイメージがあると思うが、戸建て住宅の売り上げは全体の10%強に過ぎない。創業者精神を受け継ぎ常に新しい領域を取り込み変革を遂げてきた。

 こうした変革は創業者のアイデアから生まれている。石橋は世の中の動きをよく見て変化の先を読み、新しい事をやる「創意工夫」の人であった。現場に足を運んで、現物を見て、そこから発想を得る。あるいは人の言葉など、常に周りのものからヒントを得ていた。家を建てるには土地が必要だと、大和団地株式会社を設立。車社会が到来すれば、郊外型の店舗が広まるとみて、流通店舗事業を開始。病院建設を機にその周辺事業を興すためシルバーエイジ研究所を設立する。このように、最初の商品、パイプハウスを端緒に倉庫や住宅の建築、宅地開発、流通店舗、リゾート、健康、環境・・と次々に事業を拡大してきた。事業を開始するに当たっての判断の基礎となったのは、「世の中の役に立ち、多くの人に喜んでもらえるか」ということである。お金が儲かるか、ではない。

 現在創業60年余りの当社は、創業100年で売上10兆円という目標を持っている。これは創業者の夢でもある。これを達成するためにも、今後やっていかなければならないのは一層の海外進出である。今はまだ17カ国30拠点、売上も2000億円程度だ。日本は人口が減少してきているが、海外の市場はまだまだ拡大する。伸び代がある。ただ、海外事業は請負事業だけではうまくいかない。販売する商品が必要である。その開発のためにもベンチャーへの投資を行っている。ベンチャー投資の判断基準は、目に見える「商品」と、「この人なら大丈夫か」という“人”の判定である。“人”への投資とも言える。海外事業でも現地の企業と組んでビジネスを行うが、こうした投資や提携では、双方が良い条件にならないと事業がうまく行かない。相手の立場を考え、たてることが必要だ。

 世の中はどんどん変化している。その中で、今までのやり方、従来型の発想をしていたのではダメだ。これからの変化を考えながら新規の事業や新商品を開発しなければならない。その際の基礎になるのも「多くの人に役立ち、喜んでもらえるか」ということだ。

 将来にわたって企業を育てていくには、人を育てなければならない。そこで重要なのは、創業者のDNAを伝えていくことだ。当社の考え方の根本が変わってはいけない。創業者石橋信夫の改革の精神をずっと引き継いでいくことが必要だと考えている。

「顧客本位の業務運営に関する原則」とそれを取り巻く海外規制動向
PwCあらた有限責任監査法人 第三金融部(資産運用)パートナー 辻田 大氏

 金融庁は2017年3月、「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表した。この原則に取り組むとき、資産運用会社は当局の2つの問題意識を理解すべきである。

 1つは、投信販売の現状への疑問である。テーマ型や毎月分配型など、投資家が十分理解した上で販売されているのか疑問視する。もう1つは、販売会社と運用会社の関係。特に両者が系列関係にある場合、顧客との利益相反について懸念を示す。こうした問題意識を念頭に、1)本当に顧客にふさわしい商品が販売されているか、2)そうした商品を現場に届けるガバナンス体制やビジネスモデルが確立されているか、3)運用力をもっと強化できないか、自問すべきだろう。

 海外に目を向けると、顧客本位の市場を目指す取り組みは世界中で進展している。

 米国労働省による新しいフィデューシャリーデューティー(FD)規則は、2017年6月に部分適用が開始された。ベビーブーマー世代の大量退職をふまえ、年金口座から個人退職勘定(IRA)への移管に関するアドバイスに規則を適用するため、FDを課される「フィデューシャリー」の定義が拡大された。

 新規則に対応し、金融機関ではビジネスモデルを変えつつある。1)取引ベースから残高ベースへ手数料のシフト、2)商品ラインナップの削減、商品手数料の低下、3)顧客のセグメンテーション化の進展(資産規模の小さい顧客のロボアドバイザーへの誘導など)、といった動きが見られる。また、新たに開発された、すべてのファンドで同一の販売手数料、12b-1手数料を課す「Tシェア」にも注目が集まっている。

 欧州の第二次金融商品市場指令(MiFID II)では、2つのテーマが注目される。一つは、誘因規制である。販売会社が「独立した」投資アドバイスを顧客に提供する場合、ファンドからバックリベートを受け取ることが禁止された。英国、オランダではバックリベートを受け取らない業者も出てきたが、独仏などではもともと販社が独立しておらず、あまり変化は見られない。

 もう一つは、プロダクトガバナンスの強化である。販売会社だけでなく商品組成会社(運用会社)にも適合性原則遵守の責任を負わせる。組成会社は想定する投資家層などを販社に伝える一方、販社は想定通り売られたかなどの情報を組成会社に提供する義務を負う。

 こうした顧客本位の潮流は、不可逆なメガトレンドである。したがって冒頭の「顧客本位の原則」にも、コンプライアンスとしてではなく、ビジネスモデルを見直しそれをいかにマーケティングするかという視点で取り組むべきだろう。

金融ビジネスにおける「働き方改革」の成功要件~テレワークで働き方を変える~
一般社団法人日本テレワーク協会 専務理事 中山 洋之氏

 ワークスタイルの変革が日本の重要課題となっている。少子高齢化や人口減少に対処するためだけでなく、企業にとっても、人材の獲得・維持、生産性の向上など様々な観点から、全社で取り組む経営戦略上の課題となっている。中でもテレワークは、「多様な人材、多様な働き方」を実現するための有効な方法論である。

 テレワークは、ICTを活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方と定義される。働く場所がオフィスに加え、在宅、モバイル、サテライトオフィスに広がる。企業にとっては、上記の生産性向上や人材確保に加えてBCP対策、グローバル対応、オフィスコストの削減などの効果も期待できる。

 2016年の調査では、テレワーク制度導入企業は全体の16%。米国の85%と比べると低いが、ここ2、3年で導入企業は急増した。背景の一つは、ICTの急速な進化。リモートアクセスやコミュニケーションのツールが安価で利用可能となり、やる気があれば制度を導入できる環境は整った。もう一つの背景は、政府の強力な推進もあってテレワークへの関心が高まったこと。政府では、「テレワーク月間」、セミナー、表彰、助成金などさまざまな促進策を実施する。2017年からは毎年7月24日を「テレワーク・デイ」と称し、東京オリンピック会期中の混雑を予想して全国で一斉にテレワークを実施する運動を展開している。

 テレワーク導入には、労務管理、執務環境、情報通信システムの整備が必要となる。しかしどれもハードルはそれほど高くない。週に1、2日程度なら労務管理制度の変更はほとんど不要で、まずやってみることで課題が見えてくるだろう。

 それではテレワーク導入に向けて大事なことは何か。先進的導入事例から得られた4つのカギとなる要件を指摘したい。1つめは、「経営トップの強力な支援を得る」。2つめは、「対象者の拡大」。育児・介護に限定すると利用は進まないので、できるだけ一般の社員まで拡大した方がよい。3つめは、「中間管理職にも体験してもらう」。抵抗勢力ともいえる中間管理職に自ら実践してもらうと理解を得やすくなる。そして4つめは、「仕事のやり方を変える」。テレワークではどこでもオフィスと同様に働けるように仕事のプロセスを見直すことも大事で、ペーパーレスは必須となる。

 最後に、テレワークの導入について厚生労働省では「テレワーク相談センター」のホームページで情報提供を行うとともに、電話相談や労務管理専門家の派遣を無料で行っている。総務省には、ICTの専門家を無料で派遣する制度もある。ぜひ活用して欲しい。

AIによる株式売買判断支援の事例~自然言語分析の活用~
野村アセットマネジメント株式会社 ポートフォリオマネージャー 宮崎 義弘氏

 野村アセットマネジメントは野村総合研究所と共同でAI技術の1つである「自然言語分析」を用いた株式売買判断業務支援システムの実証実験を実施した。

 ポートフォリオマネージャーの仕事はアナリストレポートやメール、ニュースなど大量のテキストデータを処理することから始まる。テキストに溺れているとも言える状況だ。「これらを先に読んで要約してくれるアシスタントがいたら」というのが最初の発想である。

 今回実証実験を行ったシステムは、アナリストレポートやニュースなどについて、ポジティブ度が高い文書はプラス、ネガティブ度が高いものはマイナスの数値でスコア化する。スコアの絶対値が高いものなど、投資判断に影響を与えそうな文書を判別することで、業務の効率化に寄与することを目指している。また関連情報を幅広く見るため連想検索機能も実装した。

 システムでは、ポジティブ/ネガティブのスコアとともに、1年前のスコアや過去6ヶ月のスコアの変化などのサブ指標と、記事の要約が表示される。実際に利用する際は、スコアおよび要約とレーティングの整合性をチェックする。スコアがポジティブなのに売り推奨になっているものなど、整合的でないものには何かがあるはずで、そうしたレポートを優先的に見る。また時系列でみて中立からスコアが継続的に上がって(下がって)いるものなども注目して見ている。

 レポートの定量化によって、アナリストの傾向を見ることもできる。ずっと強気あるいは弱気のアナリストを見分けることも可能だ。さらに、スコアを継続的にみることで、レポート内容の小さな変化やメッセージを捉えられると考えている。投資判断は変えていないのにスコアが変化している場合などから、収益率の予測等に繋げられる可能性もある。人間では見つけられない運用機会をAIを利用して機械が発見する、ということも将来的には可能になるかもしれない。

 今回の実証実験では、大量のレポートを短時間に処理するという業務効率化の目的を達成できた。1日4~5時間かかっていた情報収集業務が2~3時間に短縮され、非常に助かっている。課題は、まだポジティブ/ネガティブの分類が難しいものがあることだ。主語がはっきりしないものや短文などは苦手なようだ。また連想検索をどう利用していくかという点も研究を要する。

 AIを用いた実証実験では、目的を明確にしゴールを実現可能なものに設定することが肝要だ。AIの限界を見極めて、精度を常にウォッチするなど、モニタリングの仕組みや体制も必要である。

トランプ政権の誕生と戦後レジームの見直し
株式会社野村総合研究所 主席研究員 チーフエコノミスト リチャード・クー

 トランプ氏が米大統領に当選してちょうど1年になるが、メディアの報道を見ていると、この間は混乱ばかりが広がっているように見える。しかし、米中西部などトランプ氏に投票した人々から見ると、同氏は、貿易や金融の自由化による米経済の成長から取り残された不満を代弁してくれる貴重な存在であり、この点をトランプ氏は巧妙に突いて当選した。

 こうした米政治の変化は、金融市場において、特に為替レートに影響を与えている。米ドルは当初、同国の金融政策の正常化に伴ってドル高方向に進むと見られていたが、実際には大きく動いていない。トランプ大統領は同国の貿易不均衡の是正を重要視しており、いつ同大統領の矛先が為替レートに向かうのかが読みきれないからだ。

 そのトランプ大統領が掲げる経済政策のうち、インフラ投資や税制改革は今の米経済に合っている。企業は本来ならカネを借りる側にいるはずだが、今の米国では、バブル崩壊後の日本企業と同様に、低金利下でも貯金をしている。

 日米などの先進国の企業がカネを借りなくなったのは、バブル崩壊後のバランスシート調整だけでなく、先進国が新興国に追われる経済になったことで資本のリターンが低くなったことが大きい。すると、先進国内では民間の投資が少なくなり、それに伴って自ずと長期金利が低くなる。

 このため、新興国に追われるようになった先進国では、バランスシート不況に陥っていなくても、金融政策の効果が弱くなり、代わりに、政府による財政政策の役割が大きくなる。その場合、政府は低下した長期金利よりも高いリターンが得られるプロジェクトを見つけることが求められる。政府がそのような案件に投資をしていけば、一時的には政府債務が増えても最終的には国民の負担にならないからだ。

 その一方で、先進国の中央銀行は今後、従来の経済学の発想で供給してしまった過剰準備を如何にして回収するかが大きな課題になる。米国の中央銀行であるFRBはこの10月から量的緩和の縮小を始めたが、FRBの保有債券が償還を迎えた時にFRBが再投資をしないと、政府はその分の借換債の資金を民間から新たに調達する必要がある。

 金融市場の多くはまだこのからくりに気づいておらず、結果的に何も起きない可能性もある。しかしながら、今述べたように、量的緩和の縮小時にはその国で実質的な新規国債の発行が増える点には注意をしておくべきだろう。

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※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

富永

富永洋子Hiroko Tominaga

金融ITイノベーション事業本部
金融イノベーション研究部契約研究員

國見和史Kazushi Kunimi

金融ITイノベーション事業本部
金融イノベーション研究部契約研究員

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