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新しい保険ITプラットフォームを打ち立てる衆安保険・衆安科技

2018年2月号

NRI IT Solutions America, Pacific Branch, General Manager 南本肇

グローバルで保険テクノロジーを牽引する存在として「衆安保険」が注目を集めている。また、衆安保険の躍進と並行して、「衆安科技」が、保険商品を短期間に市場投入できる保険ITプラットフォームを着々と築きあげている。保険システム開発の観点でも、衆安保険・衆安科技から目が離せない。

フィンテック・トップ5に3年連続で選ばれた衆安保険

 KPMGと豪H2 VENTURESが毎年発表している「Fintech 100」で、中国の「衆安保険」(衆安在線財産保険)が3年連続で5位以内に選ばれ話題になった(※1)。衆安保険は、2013年にアントフィナンシャル、中国平安グループ、テンセントの発起により設立された、インターネット専業の損害保険会社である。2017年9月には、香港取引所に株式上場を果たした(調達額は1500億円を超える)。同社は、「インシュアテック(フィンテック×保険)」の世界的トッププレイヤーとして成長を続けている。

 同社が最初に一般消費者向けに投入した商品は返品送料保険である。これは、ネット取引サイトの淘宝網(タオバオ)などで商品を購入する際、商品が思った通りの内容・品質でなかったために返品する場合の返送料金を補償する保険である。この保険が、中国Eコマースの成長と相俟って急激に普及し、同社の急成長を支えてきた。

 図表は、衆安保険の保険料収入の月次推移である。2013年11月の創業から一貫して業容を拡大し、足元では月間100億円の水準を突破した(※2)。同社は、返品送料保険のほかにも、「フライト遅延保険」や「スマホ破損保険」などの商品を次々に投入し、取り扱いを増やしている。

 たとえば同社のフライト遅延保険は、一般に公開されているフライト運航情報と連携して、一定時間以上の遅延が発生した場合に、契約者自身が請求手続きをせずとも自動的に保険金が振り込まれることで人気を博している。中国では、フライトが頻繁に遅延するなか、不平をもつ乗客で空港が混乱に陥り、社会問題にまでなっていた。現在は同保険の普及により、遅延保険金がもらえることで不平を表明する人が減り、トラブルが沈静化したといわれる。衆安保険のフライト遅延保険は、社会課題の解決につながっているともいえそうだ。

 同社の商品は、医療保険領域にも広がってきている。その中には、スマートフォンで毎日の歩数を測定して翌月の保険料に反映する医療保険や、血糖値測定器を用いて糖尿病患者の保険金を計算する商品もある。これまで衆安保険は、日常消費・ファイナンス・航空旅行・健康・自動車保険の5大分野において300以上の保険商品を投入してきた。将来は生命保険への参入も計画している。

 衆安保険は、上記のような消費者にとって利便性の高い保険商品を短期間に次々に自社サイト上にて取り扱い、さらに、契約者ニーズや保険金支払い状況の変化をみながらダイナミックな改良を頻繁に繰り返している。

頻繁な保険商品投入を第一優先とするシステム開発

 では衆安保険はどのように多数の商品をすぐに市場に投入し、また、高頻度で改良できるのか。同社担当者へのヒアリングによると、衆安保険は、これまでの保険会社における開発手順とは全く異なるやり方でシステム開発を行っている。

 保険会社が新商品を開発する際は、まず商品担当者がビジネス要件をまとめ、それをシステム担当者に伝えて、その商品を実現するシステムを企画・開発するやり方が一般的であろう。そこでは、ビジネス要件を第一優先としてシステム開発期間を見積もるが、往々にしてユーザー部門の想定より長い期間が必要だと判明する。開発期間を少しでも短縮するために商品担当者とシステム担当者の激しいせめぎ合いが見られることも多い。

 これに対し、衆安保険では、短期間に商品を投入・改良することの優先度が極めて高い。そこで、ビジネス企画の段階から、商品担当者とシステム担当者が同一チームで検討する。短期間で商品投入・改良ができるシステムのあり方を同時並行的に検討しながら、商品開発が行われるという。そこでは、システムが簡単になるように商品性をあえて制限することもある。また、システムを作る際には、他の商品の開発にも転用できるよう、汎用性・拡張性を強く意識している。

衆安科技が示す新しい保険システム開発のありかた

 衆安保険は、上述の過程で開発してきたシステム群を、すぐに商品を市場投入できるような保険ITプラットフォームとして整備した。そして、このプラットフォームを一般企業に利用してもらうことを主目的とする100%出資子会社「衆安科技」を2016年に設立した。

 衆安科技が提供する保険ITプラットフォームでは、保険商品を構成するシステム部品が取り揃えられている。衆安科技と提携したパートナー企業は、このプラットフォーム上でシステム部品を組み合わせることにより、自社サービスの中に簡単に保険サービスを組み込める。衆安保険(衆安科技)は、自らを「Leader in Global Insurance Technology」と標榜しており、この保険ITプラットフォームの利用促進により、伝統的な保険会社とは違った保険サービスを多数生み出そうとしている。

 現時点では、衆安科技が提供する保険ITプラットフォーム上で複雑な商品性を実現するのはまだ難しいようである。しかし、システム部品が充実してくれば、いずれ複雑な商品も作れるようになっていくと考えられる。衆安科技は、プラットフォーム上の利用者を増やしてシステム部品を充実させ、さらにプラットフォーム利用者を増やすエコシステム確立を狙っているのではないか。そして衆安科技の保険ITプラットフォームは、保険に関わるあらゆるデータを集積し、人工知能を用いたビッグデータ分析により、さらに優れた保険サービスを生む基盤に発展していく可能性を有していると筆者は見る。

 日本の保険会社や保険ITベンダーが今後もより効率的な保険サービス提供を目指すうえで、衆安保険・衆安科技のアプローチに学ぶ点も大いにあるだろう。それには、たとえば衆安科技のプラットフォーム上で保険商品を開発してみるといった具体的な取り組みが、一つの有力な進め方になるのではないだろうか。

 (執筆協力:未来創発センター上級コンサルタント 李 智慧)

1) 同社は同ランキング2015年版にて第1位、2016年版にて第5位、2017年版にて第2位を維持している。
2) 毎年11月に保険料収入のピークが見られるが、これは中国で一斉にネット上のセールが盛り上がる「独身の日(11月11日)」を反映している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

南本 肇

南本肇Hajime Minamimoto

NRIシリコンバレー拠点
(NRI IT Solutions America, Inc. Pacific Branch)
General Manager

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