1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. リテールビジネス
  6. 相続は金融機関にとってのビジネスチャンス

相続は金融機関にとってのビジネスチャンス

2018年2月号

リテールソリューション企画部 副主任コンサルタント 小野亜樹

相続は、金融機関にとって預かり資産の流出防止策を求められる重要な局面である一方、新規資産獲得の好機でもある。他社との差別化のためには、相続を受けた顧客への資産運用の提案や、生前贈与をはじめとする相続対策へのアドバイスがより重要となるだろう。

 相続資産規模の推計額は年間およそ50兆円(※1)で、高齢化を背景に今後も増加が見込まれる。国税庁の統計によると相続資産に占める金融資産の割合は約45%で、近年増加傾向にある。金融機関にとって相続を契機とした預かり資産流出の防止や新規資産獲得の重要性が増している。

 野村総合研究所は2017年6月、親から相続を受けた経験を持つ50~70代の子世代を対象に、インターネットアンケート調査およびインタビュー調査を実施し、相続前後の金融機関との取引状況や自身の相続対策への意識などについて調査した(※2)。

相続を機に流出しやすい現金・預金

 相続資産のうち、「有価証券」と「現金・預金(以下、現預金)」について、親が利用していた金融機関との取引状況をみると、有価証券を相続した人の26.6%、現預金を相続した人の45.2%は、親の金融機関から資産を別の金融機関などに移している(※3)。

 一般に、相続人となる子どもが相続前に親と同じ金融機関に口座を保有していると、資産流出を食い止める効果があるといわれる(※4)。今回の調査でもそれを裏付ける結果となった。有価証券の相続の場合、親の利用していた金融機関から資産を移した人の割合は、口座有り:16.4%、口座無し:41.8%となっている(図表1)。子どもが相続前から口座を保有していることが、預かり資産流出防止の上で重要であることを改めて確認できる。

 もっとも、現預金の相続では、相続前に口座を保有していてもなお、34.9%の人は親の金融機関から資産を動かしており、流出割合の高さが際立っている。

 現預金を別の金融機関に移した人は、移した先の金融機関から十分なサービスを受けているのだろうか。調査結果によると、別の金融機関に移した人のうち56.7%は相続が起きたことをその金融機関に知らせているが、半数以上は何の提案も受けていないと回答している。

 また、現預金を相続した人全体に対してその使途を尋ねたところ(※5)、平均して7割がそのまま貯蓄されていることが分かった。現預金をそのままにしている人に投資意向を聞くと、39.7%の人が相続した現預金で投資を行う意向を持っていた。このことから、潜在的に投資意向があっても貯蓄したままの状態にしている人が一定数存在すると推察され、金融機関が顧客ニーズを十分に酌めていない様相が浮かび上がってくる。

親からの相続は自身の相続を考える契機

 相続を経験した50~70代の子世代は、自身の相続についてどのように考えているのだろうか。自身の相続について考えている人は、全体の9割以上となった。考えるきっかけは、「父母からの相続(48.0%)」が最も多く、次いで「相続・贈与にかかる税制の改正(41.6%)」となっている。相続対策としてどのようなことを行ったかをみると、「家族との話し合い」や「相続税がいくらかかるかのシミュレーション」が多い(図表2)。また、保有金融資産の多い人ほど、相続対策の実施率が高い傾向がみられる。

 親から相続を受けた経験は、自身の相続への関心を高める大きな契機であり、税制改正がそれをさらに後押ししているといえよう。

金融機関に求められる対応

 以上の調査結果を踏まえ、金融機関は、顧客の相続に伴う資産移転に対してどのように対応していけばよいだろうか。

 第一は、相続を受けた顧客に対する資産運用の提案力の強化である。相続手続き時に得られる子世代の顧客情報を管理・分析して営業に生かすほか、定期的に顧客の取引状況にも目を配り、ニーズに沿った提案を行うことが望まれる。

 第二は、相続対策に関するアドバイスの強化である。その一環として金融機関の集約や資産の整理を促すことで、新たな資産の獲得を期待できる。実際、インタビュー調査でも「相続手続きの大変さを知って、資産を整理しておこうと思った」との声が聞かれている。また「生前贈与」は、孫世代以降の口座開設を促す上で有用であり、それがひいては、孫世代が相続を受ける際の資産流出防止策に直結する。保有資産の多い人ほどこうした相続対策のニーズが高いことは、金融機関にとって資産獲得の上でチャンスといえよう。

 このように、相続は見方を変えれば、顧客との関係強化や新たな資産獲得の好機と捉えることができるのではないか。

1) 出所:「2030年の金融の姿 社会構造の変化とイノベーションが与える影響」『知的資産創造』(野村総合研究所)2015年10月号。
2) アンケート調査では、父または母から相続を受けた経験があり、相続資産額(不動産を含む)が3,000万円以上(父母どちらか、または合計)かつ個人金融資産が1,000万円以上の条件を満たす全国の50~70代の男女1,700名からの回答を集計した。そのうち、10名を対象にインタビュー調査を行った。
3)「金融機関には預け入れなかった」、「すぐに使ってしまった」等を含む。
4) 出所:フィデリティ退職・投資教育研究所「相続人5000人アンケート調査」(2016年)。
5) 現預金を相続した1,075名に対し、相続した現預金を100とした時の使途の内訳を調査している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

小野 亜樹

小野亜樹Aki Ono

リテールソリューション企画部
副主任コンサルタント
専門:リテール金融

このページを見た人はこんなページも見ています