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投信は家計金融資産の増大に貢献しているのか

2018年2月号

金融ITイノベーション事業本部 事業企画室 上級研究員 金子久

資本市場の収益率や投信自体の収益率に比べ、投信の投資家が得ているリターンは低い。投信マーケットの成長のためには、投信会社が投資家リターンに注目し、その向上のために努力することが大切だ。

投信の投資家リターンは低い

 多額の運用資金を保有する退職世代の増加を背景に2000年代中頃まで急拡大した日本の個人向け投資信託は、それ以降成長が鈍化しているようにみえる。近年では、資産価格の上昇により残高は微増となっているものの、資金流出が止まらない(※1)。この間NISAの創設やiDeCoの拡充などの制度的支援を受け、投信保有は若年層を中心に広がっているものの、マーケット全体の拡大を牽引するには至っていない。

 個人向け投信が持続的な成長軌道に回帰するためには何が必要だろうか。様々な指摘が可能だが、投信を保有することによるリターン(いわゆる投資家リターン)の向上が何よりも重要だろう。今までの投資家リターンは明らかに低いのだ。直近の20年間に投資家全体が追加型株式投信(除くETF)を保有したことによる損益を計算したのが図表1だ。期初と期末の評価時価及びその間の買付額や売却額、分配金額から投資家リターン(金額ベース)を計算すると約20兆9千億円となる。また、販売手数料を仮に各投信の目論見書に記載されている上限率を基に計算した場合(すなわち、実際よりもやや多めに販売手数料を見積もった場合)、20年間の投資家リターン(金額ベース)は11兆8千億円ほどに留まる。これらを金額加重収益率に換算するとわずか年率1.3~2.4%である(※2)。これは、投信の一般的なベンチマーク指数から想定される収益率(※3)(年率4.9%程度)と比較して2.5%以上低い。さらには、信託報酬などの運用コストを考慮したファンドリターン(時間加重収益率)(年率3.2%)よりも0.8~1.9%低いことになる。

投資家リターンを高めるために

 それでは投資家リターンはどのように高めることができるであろうか。以下では、投信の投資家の収益率を決める要素を3つに分解し、対策を考えてみたい。

 第一の要素は投資対象市場の収益率に起因する部分で、投信を組成する投信会社が担うものだ。投信会社は期待収益率の高い、また従来の投資対象との分散投資効果が見込まれる資産クラスや投資手法を探求し、投資家に投資手段を提供することが求められる。株式のパッシブファンドの場合には、投資先に企業価値の向上や持続的成長を促す、いわゆるスチュワードシップ責任を果たすことも投資対象市場の収益率を中長期的に拡大する方策といえる。

 第二の要素は投資対象市場の収益率とファンドの収益率の差に起因する部分である。この部分も投信会社に責任がある。ファンドの収益率を高めるためには、投信会社は真に投資対象の価値を見抜く能力を付け、ベンチマークを上回る高いリターンを提供することが必要だ。このほか、ファンドの運営を効率化し、信託報酬などの低減を図ることも、第二の要素に起因する収益を高めることになる。

 実は第一や第二の要素については、現在でも、投信会社はそれなりに努力を払って、収益率の向上のための対策を取っている。例えば、投信会社では個々のファンドの運用成績とベンチマークの変化率について様々な分析やそれに基づく管理を行い、ファンドの運用成績がベンチマーク指数の変化率より少しでも高くなるよう努力を重ねている。問題は、第三の要素に関わる部分であろう。

 第三の要素はファンドの収益率と投資家リターン(収益率)の差に起因する部分である。この部分は一義的には投資家自身や販売会社に責任があるが、投信会社も一定の責任を果たすことが期待される。追加型株式投信の主要な分類ごとに、投資家リターンを表す金額加重収益率とファンドリターン(時間加重収益率)を比較すると、投資家リターンの方が低いものが多い(図表2)。投資家リターンの方がファンドリターンより年率0.5%以上高いのは海外株式パッシブのみなのに対して、投資家リターンが年率0.5%以上低いのは国内株式アクティブなど6分類に及んでいる。このようになる理由としては、保有期間が短いことや投資家の購入売却のタイミングが悪いこと(※4)などが考えられる。このためファンドの時間加重収益率が高かったとしても、投資家の実際のリターンが低くなることも十分あり得る。従来、投信会社も販売会社も、投資家リターンがファンドの収益率を大きく下回ることをあまり問題視してこなかった。投資家リターンの向上には投資家の売買タイミングを適正にすることなどが必要となり、投信会社や販社はそうしたコントロールをしにくいというのが理由だろうが、果たしてそうだろうか。単純に販路や販売方法ごとに投資家リターンを計算し時間加重収益率と比較することにより、問題を抱える販路や販売方法を浮き彫りにできる。適正な販路や販売方法を相対的に重視していくことで、ファンド全体として投資家リターンの向上を図ることも考えられる。

 実は、筆者は以上の様な状況を14年前にも指摘していた(※5)。しかし現在に至っても状況は一向に変わっていない。これでは日本の投信が家計の金融資産の増大に十分貢献してきたとは言い難い。この状況を打破し、投信マーケットの更なる拡大を目指すには、業界関係者は従来の対策に加え、投資家リターンに注目し、その向上を図るために必要な方策をとっていくことが肝要だ。

1) 追加型株式投信(除くETF)の分配金による資金流出も考慮した資金流出入(設定-解約-償還-分配)は2011年以降の7年間では、2015年を除き流出超過が続いている。
2) 日次の設定額、推計販売手数料、解約額、償還額、分配額および残高のデータを基に金額加重収益率(内部収益率)を計算。
3) 1997年12月~2017年11月の投信の資産構成(平残の構成)は、トラックレコードが20年に満たない不動産投信を除くと、海外債券が51%、国内株式が25%、海外株式が21%、国内債券が3%であった。この配分を保つポートフォリオの収益率を代表的ベンチマーク指数を用いて計算すると年率4.9%となる。
4) つまり、基準価額の高いときに購入し、価額が下がった段階で損切りをする投資家が多い。
5)「わが国投信の投資家行動に関する定量的分析」(Fund Management 2004年新春号:野村アセットマネジメント)。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金子久Hisashi Kaneko

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:個人金融マーケット調査

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注目ワード : FinTech(フィンテック)

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