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氷上のフォーミュラワン

2018年2月号

金島一平

第23回冬季オリンピックが2月9日に開幕する。日本人選手のメダル獲得が期待される競技も多く、しばらくはテレビから目が離せない日が続きそうだが、いま、世界の名立たる企業が熱い視線を向ける競技がある。そりに乗って氷の張ったコースを滑走しタイムを競う競技、ボブスレーだ。

 ボブスレーはアルプス地方が起源といわれ、1924年の第1回冬季オリンピックから正式種目となっている歴史をもつ競技だ。選手がそりを押して加速し、長さ約1.3kmのコースを一気に滑り降りる。最高速度は時速140kmにも及び、氷上のフォーミュラワン(F1)と称される。選手の技量が問われることはもちろんだが、そりの性能が勝敗を左右すると言われており、いまや、独BMW、伊フェラーリ、英マクラーレンなどの自動車メーカー、さらには米NASA、英空軍などがスポンサーとなり、激しい開発競争が繰り広げられている。

 世界でグローバル企業や政府系組織が先端技術開発にしのぎを削る中で、日本では東京都大田区の町工場が力を結集して作り上げた「下町ボブスレー」が知られている。この地域には古くから金属加工を得意とする中小企業が集まり、小惑星探査機はやぶさの部品や新幹線・リニアモーターカーの部品製造など、厳しい要求水準をクリアできる世界トップクラスの技術力を有してきた。しかしながら海外生産へのシフトなどを背景に、昨今は工場の数が減少の一途を辿っており、何とか技術力を世界に発信したいとの思いからプロジェクトがスタートした。

 実はこのプロジェクト、ボブスレー開発は皆経験がなく、たまたま区の職員が図面を持ち込んだことがきっかけだったそうだ。それにも関わらず、世界のライバルに匹敵するそりを作ることに成功した背景には、各工場が互いに得意とする技術を持ち寄り連係することで、難しい製品でも短期間で作り上げる「仲間まわし」という地域特有のネットワークがある。このネットワークを活かして、1号機の設計図完成から実機完成までをわずか1カ月で成し遂げることができた。また、トライ&エラーを繰り返しながら選手の意見に合わせた細かな調整に応じられることが大きな強みになっているそうだ。

 システム開発の現場でも、近年急速に変化する利用者ニーズに応えるために、従来のウォーターフォール型開発から、短期間の反復開発を進めていくアジャイル型開発への変化が求められている。日本のものづくりにおける一つの成功事例として下町ボブスレーの取り組みに学べることは多いだろう。

 この下町ボブスレー、今回の大会では日本代表チームのそりには選出されなかったものの、ジャマイカ代表に選ばれたことで初めて五輪にデビューする予定だ。その滑りに大いに期待したい。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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金島一平Ippei Kanashima

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