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中国における金融リスク防止策の強化

2018年1月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

中国政府は、シャドーバンキングや地方政府の隠れ債務という従来から指摘されてきた金融リスクの防止に向けた動きを強化しており、中国経済のリスクを判断する上で評価できる。

シャドーバンキングの抜本的な解決に向けた動き

 中国政府は、シャドーバンキングと地方政府債務への取締りをさらに厳しくしている。

 2017年11月17日、中国人民銀行、銀行業監督管理委員会、証券監督管理委員会、保険監督管理委員会、外為管理局は連名で「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」の草稿(パブリックコメント募集用)を発表した。これは、シャドーバンキングの中核をなす銀行のオフバランス理財商品(資産運用商品)を始めとする各金融機関の資産管理商品に対する抜本的なリスク防止対策であり、草稿ながら注目に値する。

 主に規制回避に使われてきた銀行による迂回融資は、2010年頃から、規制強化とイタチごっこを繰り返してきた。その結果、迂回融資のチェーンは長くなり複雑化した。業態別縦割り行政の中で規制アービトラージが見られ、金融業態を跨いで資金が流れる中、当局によるリスクの把握は難しくなった。

 草稿を見ると、まず、資産管理業務は金融機関のオフバランス業務であり、投資家がリスクを負うことを確認している。金融機関は元本や収益を保証してはならず、違法な元本保証等は罰せられることになる。背景には、足元で銀行のオフバランス理財商品に関して、販売した銀行が最終的に責任を取るだろうというモラルハザードが社会全体にはびこっていることがある(※1)。

 次に、従来の業態別規制と機能別規制(同じ機能の商品には同じ規制を適用)の結合の方針が示されている。それに伴い資産管理商品の類型に基づいた統一的な監督管理基準が制定される。機能別規制の基礎となる商品の分類は、募集方式と投資先の二つの次元でなされる。前者は公募と私募、後者は固定収益類・エクイティ類・商品とデリバティブ類・混合(バランス)類に分類される(※2)。

 主な規制の内容を見ると、第一に、資産管理商品の資金の他の資産管理商品への投資は一層のみとされる(公募証券投資基金への投資は除く)。つまり、資産管理商品の組み込みは二階建てまでとなる。

 第二に、公募商品等での仕組み債の利用が禁止される。私募商品で仕組み債を作る場合も、優先部分と劣後・中間部分の比率が商品種類毎に規定される。

 第三に、商品の種類毎に統一的な負債比率(総資産/純資産)が設定される(例えばオープン型公募商品の場合140%等)。ルックスルーの原則が適用され、投資先の資産管理商品の総資産も計算に含められる。

 これらは、新規制が入るたびに規制アービトラージが働き迂回融資チェーンが長くなり、その過程で仕組み債やレバレッジが利用されてリスクが増大してきたことに対する措置である。これらの措置のためには、業態を越えた資産管理商品全体のデータベースが不可欠であり、人民銀行を中心に統一的な報告制度が確立される。

 第四に、各資産管理商品はそれぞれの勘定で管理することが確認されている。これは、資金プール、つまり複数の資産管理商品の資金をドンブリ勘定で運用することによる期間ミスマッチやポンジースキーム化等のリスクを防ぐためである。

 第五に、資産管理商品の資金を非標準化債権類資産に投資する場合、限度額管理、流動性管理等の標準が定められる。非標準化債権類資産とは、簡単に言えば銀行間市場や証券取引所等で取引されていない資産で、例えば不動産プロジェクトに対する収益受益権など、シャドーバンキングにおいて重要な役割を果たしてきた。

 そして、金融機関は、資産管理商品の管理費収入の10%をリスク準備金として積まなければならない(※3)。資産管理商品の信用リスクは投資家が負うので、これはオペレーション上の損失に対する準備である。

 草稿では指導意見を完全に実施する期日は2019年6月30日とされ、それまでは過渡期となる(※4)。規定を一気に満たす場合に生じかねない混乱を避けるためである。

 今後、パブリックコメント募集を経てどのような正式意見が発表されるかに注目する必要があろう。

地方政府の隠れ債務問題

 ここ数年、地方政府の財政負担軽減のためにPPP(Public Private Partnership、官民協力モデル)の活用が促進されてきたが、足元ではPPPが新たな隠れ地方債務の温床になっている(※5)。インフラ建設等を実施するPPPに資本参加する民間側(「社会資本」と呼ばれる(※6))に対して、地方政府が投資元本や収益をウラで保証する場合がある。社会資本側の出資はリスクのある株式のはずだが、実態的には地方政府の債務となっている(※7)。また、社会資本側の企業が銀行融資を受けて行う建設プロジェクトに対し、地方政府が「政府サービス購入」の名目で資金を払い、地方政府が銀行融資を返済している場合もある。

 こうした状況の中、地方政府の隠れ債務問題に対する取締りとリスク防止策が強化されている。

 2017年5月に財政部等6部門は、地方政府によるPPPや政府出資基金等を利用した事実上の借入の禁止、社会資本側の投資元本に対する保証や最低収益の承諾の禁止を確認する通知を発表した。6月にも、財政部は政府サービス購入の名目での違法な資金調達を禁止する通知を発表している(※8)。

 さらに11月、財政部は新たな通知を出し、商業不動産開発など本来民間が行えばよいプロジェクトや、地方政府の社会資本への支払いが業績評価にリンクしていないプロジェクトを今後PPPとして認めないとした。既存プロジェクトについても、▽プロジェクト評価がないものや財政能力に欠けるもの、▽地方政府側が社会資本の投資元本を保証しているものやリターンを承諾しているもの、▽地方政府およびその部門がプロジェクトの債務に対して担保を提供しているもの、などを整理するとした。各省の財政部門は、2018年3月末までに整理を行い、財政部に状況を報告することになっている。

 なお、PPPに関するリスク防止の点からは、同じく11月に、国有資産監督管理委員会が、中央国有企業(※9)のPPP業務のリスク管理コントロール強化に関する通知を発表している。中央企業のPPPプロジェクトへの投資に上限を設ける他、他の投資家の出資に対する中央企業による担保提供や収益保証を禁止するものである(※10)。

 このように当局がシャドーバンキングと地方政府債務問題という中国金融の2大リスクの抑制に向けてさらに一歩踏み出している点は、中国リスクを判断する上で評価できよう。

1) 銀行が商品販売時にリスクをきちんと説明してこなかったこともある。
2) 私募商品に関連して、適格投資家についての定義もある(世帯の金融資産500万元以上等)。
3) あるいは、規定に基づきオペレーショナルリスク準備資本を積む。
4) 過渡期においては既存の資産管理商品が徐々に満期を迎えるのを待つ一方、指導意見の規定に合わない新商品を発売しない形で指導意見を実施する。
5) 地方政府の隠れ債務は15年末で35兆元近いとの報道もある。
6) 中国では「Private」側に国有企業等が含まれるため「社会資本」という言い方が使われる。
7) なお、社会資本には、銀行のオフバランス理財商品の資金も多く入っている。シャドーバンキングと地方政府債務の問題は関連していることがわかる。
8) 5月「地方政府の借入・資金調達行為のさらなる規範化に関する通知」、6月「地方による政府サービス購入の名目での法律・規定違反の資金調達を断固として制止することに関する通知」。各省は、前者の通知については8月末まで、後者については10月末までに違反行為の調査と是正結果を財政部に報告する。
9) 中央政府が管理監督する国有企業。
10) この部分は各種報道に基づく。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健

神宮健Takeshi Jingu

NRI北京
金融システム研究部長
専門:中国経済・金融資本市場

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