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人口動態の変化と不動産市場の調整圧力

2018年1月号

未来創発センター 戦略企画室 上級エコノミスト 佐々木雅也

生産年齢人口の変化と不動産価格の調整には関連性があるという見方がある。その立場からすると、不動産市場に不均衡が蓄積しているマレーシアや生産年齢人口のピークが過ぎた東アジアの動向に注意しておく必要がある。

不動産の供給過剰に直面するマレーシア

 2017年の世界経済はかなり久しぶりに安定した状態を保ってきたが、そのなかでも、比較的良好だった地域の一つが東南アジアである。その一角を占めるマレーシアは、輸出に加えて民間消費も堅調で、2017年第3四半期の実質GDP成長率は前年同期比でプラス6.2%となった。この伸び率は2014年第2四半期以来、およそ3年ぶりの高さである。

 ところが、この数字を発表したマレーシア中央銀行は、この成長率を発表したのと同じ報告書(※1)のなかで、同国の不動産市場に強い警戒感を示している。同報告書によると、同国の不動産市場は、住宅だけでなく商業用不動産でもかなりの供給過剰になっているという。

 この報告書によると、2017年第1四半期時点での住宅在庫は13万690戸と、2004年から16年までの平均在庫戸数(7万2239戸)の倍近くに急増している。このうち、49.1%が50万マレーシア・リンギット(※2)(以下RM)以上の物件である。

 仮にその50万RMの物件を住宅ローンで購入するとした場合、金融機関の審査に通るには月額9000RMの所得が必要になるという。ところが、マレーシア統計庁によると、2016年の同国の家計所得の中央値は月額で5228RMしかない。中央値とは家計の所得分布のなかでちょうど真ん中に来る値のことだから、ここ数年の住宅価格の高騰によって、住宅がマレーシア国民にとっていかに手の届きにくいものになったかが理解できる。

 同じような供給過剰は、オフィスビルや商業複合施設でも起きている。先述の報告書によると、2016年の1人あたりの小売業の床面積は、香港で3.6平方フィート、シンガポールでは1.5平方フィートなのに対し、マレーシアでは既に4.9平方フィートに達している。ところが同国では、2021年までに相当な数の商業複合施設が増える予定であり、同市場の供給過剰はより一段と深刻になると見られる(※3)。

人口動態と不動産価格の関連性

 不動産市場の需給バランスや価格の動向は、規制や金利、海外からの投機資金といった様々な変数によって動くが、その要因の一つとして、人口動態の変化に注目する向きがある。なかでも、人口全体のなかに占める生産年齢人口の割合がピークを迎えると、その前後に不動産価格のバブルが起きやすいとされている。

 身近な例として、日本の人口全体に占める生産年齢人口(15から64歳)の割合と、全国の住宅地の実質地価の推移を比べてみると(図表1)、地価が上昇から下落に転じる時期と、生産年齢人口比率が上昇から下落に転じる時期が確かに似通っている(※4)。

 また、欧米やアジアの主要な国々・地域で1980年以降に絞って生産年齢人口の比率がピークをつけた年を列記してみると(図表2)、2000年代の世界的な住宅バブルで大きな影響を受けたアメリカやイギリス、スペイン、アイルランドはいずれも2008年のリーマン・ショックの前後でピークをつけている(※5)。

 国のなかで若い労働力が増え続けている間は、住宅などへの需要も増え、不動産市場に対する上向きの見方も続いていくが、次第に人口の構成が高齢化していくと、不動産への需要もそれに伴って弱くなる。特にこのようなトレンドの屈折点付近では、それまでは通用した強気の見方が実際の需要の変化をなかなか受け付けず、価格や需給バランスの調整が大きくなりやすい。

アジアの不動産市場の注意点

 実は、冒頭で触れたマレーシアは、図表2や3にあるように、同国の生産年齢人口比率はごく近い将来の2019年にピークを迎える。もっとも同国の場合は、同比率がピークをつけた後も当面はほぼ横ばいで推移し、生産年齢人口の絶対数も2047年まで増え続けると見られるが、先述のような不動産市場の不均衡の拡大と人口動向の変化の時期が重なっている点には警戒を要しよう。

 さらに、中国や韓国、台湾といった東アジア諸国・地域の生産年齢人口比率は、2010年から2014年の間にピークをつけており、その後の低下ペースも図表1の日本と同じようにかなりの急ピッチなものになる。

 今のところは、これらの国や地域で大きな不動産価格の調整は起きてはいないし、図表2で示した同比率の既ピークを迎えた国や地域の全てで、深刻な不動産価格の大きな調整が起きたわけではない(※6)。

 しかしながら、金融政策や規制の強化など、何か別の要因でこれらの国々の不動産市場に調整圧力がかかり始めたときに、その裏で進んでいた人口動態の変化が価格の調整をより深いものにし、日本のように金融システムの不安定化などに波及してしまう危険性がある点には、注意を払っておくべきだと思われる。

1) Bank Negara Malaysia,“ Economic and Financial Developments in the Malaysian Economy in the Third Quarter of 2017,” November 17, 2017.
http://www.bnm.gov.my/index.php?ch=en_publication&pg=en_qb&ac=169&en&year=2017
2) 1RM=27.5円として計算すると、50万RMは日本円で1375万円になる。
3) マレーシアの不動産市場で特に注視すべきは、マレー半島南端にあり、シンガポールの対岸に位置するジョホール州の動向だろう。文中で触れたマレーシア中央銀行の報告書によれば、同国の住宅在庫の27%はジョホール州に集中しており、複合商業施設の床面積も、同州では2021年までに既存の床面積の1.5倍にまで拡大する見込みとなっている。
4) 図表1にあるように、1970年前後においても、実質住宅地価が1973年に、生産年齢人口の比率は1969年に一旦ピークをつけており、この差は4年しかない。
5) 図表2では、最近の不動産価格の上昇との関連性との議論に絞るため、1980年以降に限った生産年齢人口の比率のピークを示しているが、国際連合の統計で遡れる1950年からの推移で見ると、イギリスやスウェーデンでは、図表2にある年よりも1950年のほうが生産年齢人口の比率が高い。
6) 各国の不動産市場は住宅ローンの形態や規制、商慣習、地理的条件などで大きな違いがある。また、2010年代以降は、世界的な低金利傾向に加え、中国など国外からの不動産需要が増加しており、これらの要因が折り重なって、国・地域ごとで人口動態と不動産価格との関連性に違いが生まれていると見られる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

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