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求められる一億総株主化

2018年1月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

日本の個人金融資産構成は長年にわたって預貯金に偏っており、欧米諸国に比べて非効率な運用が常態化している。これまで政府・金融庁が資金シフトを促す様々な施策を講じてきたが、今後は、そうした方向を更に進めて「一億総株主」の社会を実現しなければならない。

現預金に偏る個人金融資産

 日本銀行の統計によれば、2017年6月末時点(速報ベース)の日本の個人金融資産総額は1,832兆円に達している。その51.5%は現金・預貯金で占められ、株式や投資信託など証券投資の割合は17.2%にとどまる。

 こうした預貯金など投資リスクを伴わない金融商品に偏った日本の個人金融資産構成は、ここ20年以上ほとんど変わっていない。この状況は、欧米諸国とは大きく異なっている。

 例えば米国では、1995年に個人金融資産総額の39.4%を占めていた株式や投資信託の割合(年金等を通じた間接保有分を含む)が、2016年には46.2%に達した。この間の株価上昇を反映して、個人金融資産総額も大きく増加している(図表参照)。

 日本ではバブル経済の崩壊に伴って国内取引所上場企業の株価が長期間にわたって低迷する一方、経済のデフレ傾向が定着した。他方、預金金利は、バブル末期の引き締め期には定期預金金利が6%に達しており、その後も1990年代前半までは1~2%程度で推移、2000年時点でも0.2%を上回る水準にとどまっていた。日本の個人金融資産構成の偏りは、かつては、必ずしも非合理とは言い切れないものだったのである。

 しかし、最近では、好調な企業業績を背景に株価が上昇し、20数年ぶりにバブル崩壊後の高値を回復するに至っている。政府の経済政策、とりわけ上場企業のガバナンス改革などに対する海外機関投資家の支持も株価を支える。一方、日本銀行の異次元金融緩和で、預貯金の金利はほぼゼロに等しい状態が続く。

資金シフトは切実な課題

 こうした中で、金融庁は「貯蓄から資産形成へ」というスローガンを掲げ、個人金融資産の現預金からリスク性投資商品へのシフトを促そうとしている。そうした姿勢は長年にわたって一貫している。

 金融・資本市場の機能を強化して銀行貸出など間接金融に過度に依存する金融構造を変革するという目標は、1980年代半ばに着手された金融制度改革に既にみられた。その狙いは高度成長から安定成長への移行という日本経済の構造変化に合わせて、社会のリスクが銀行セクターに集中する金融構造を変えるというものであった。そこでは産業構造の変化をリードする新しい分野に挑むベンチャー企業への資金供給といった観点が重視されることが多かった。

 これに対して最近では、個人金融資産の効率的な運用という側面が強調される。その背景には、日本が超高齢化社会に向かうなかで、財政の持続可能性という観点からは年金や医療、介護といった社会保障給付の伸びの抑制や削減が求められるという現実がある。

 財政の破綻を避けながら国民の生活水準を維持するには、老後の生活への備えについて、現役世代の自助努力をより多く求めることが不可欠である。個人資金のリスク性資産へのシフトは、かつてないほど切実な課題となっている。

一億総株主へ

 そこで政府は、金融庁を中心に、個人の投資収益を一定限度まで非課税とするNISAや積立NISA、個人向け確定拠出年金制度iDeCo(イデコ)といった税制面の措置を拡充し、その普及啓発に努める一方、投資信託などを販売・組成する金融事業者に対しては、顧客本位の業務運営を確立するよう求めている。

 コンピュータによる分析に基づいた資産配分をアドバイスするロボアドバイザーのサービスや家計管理ソフトと積立投資を結び付けるサービスなど、いわゆるフィンテックの活用についても、同じような観点から環境整備が進められている。

 今後は、これらの諸施策を一層推進するとともに、すべての国民が日本企業への投資家となる「一億総株主化」を促すことが必要である。

 これまでの施策は、リスク分散や投資効率といった観点から入門商品としての投資信託に焦点が当てられがちであった。それは理論的には正しいが、日本証券業協会による投資未経験者を含むアンケート調査では、投資信託よりも株式の方が認知度や基本的な仕組みに対する理解度が高いという結果もある。近年では、東証が投資単位の引き下げに取り組んできたこともあり、株式投資に対する敷居は低くなっている。

 もはや株主=資本家と労働者が階級対立する時代ではない。国民すべてが株主となり、企業収益向上の果実を享受できる社会を実現しなければならない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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