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米国で再燃する「銀・商」分離見直し論と「ILC」問題

2017年12月号

NRIアメリカ 金融研究室長 吉永高士

米国では一般事業会社による銀行保有につき、日本よりも総じて厳しい制限や禁止政策を長らく続けてきたが、フィンテック企業の台頭も相俟って、その見直しを求める声が民間のみならず一部金融当局者のなかからも強まっている。今日に至る「銀商」分離議論の歴史的経緯を敷衍するとともに、今後の展望を占う。

銀・商分離政策全体に遡り議論が再燃

 米国の一般事業会社グループは、日本と異なり、銀行を保有することができない。例外的に、製造業者や小売業者がクレジットカード発行等に限定した特別目的銀行を設立でき、また2000年代前半までは「産業銀行」(通称Industrial Bank、制度上の正式業態はIndustrial Loan Company。以下ILC)と呼ばれる特殊形態の銀行の保有は可能であったが、後者についてはその後の立法措置による禁止措置(※1)や新規認可の停止措置により、新規設立や買収が止んだまま今日に至る。

 ところが、2017年6月にオンライン学資ローン貸付を中核事業とするソーシャルファイナンス(SoFi)社が、また同年9月にモバイル決済や中小企業向け貸付を主業務とするスクエア社がそれぞれILC設立認可を申請し、それをきっかけに、「銀・商」分離政策に関する議論が再燃し始めた。両社ともに時価総額10億ドル(約1,100億円)を超えるフィンテック業界の“ユニコーン”(傑出した勝ち組)の一角を占めることで知られている(※2)。ただし、現在の議論の構図は、新興フィンテック企業が伝統的銀行分野も含む事業多角化戦略を進めるなかで銀行形態の選択による収益機会を取り込むことの是非を巡る、単純かつごく最近の動きに限定されたものではない。むしろ、これまで、歴史的に何度も浮上しては、金融危機等の影響もあり議論が尽くされないままに結論が先送りされてきた、一般事業会社グループによる銀行保有の本来的ありようという根源的テーゼにまで遡り是非や可否を問うものである。

 以下では、ILCによる銀・商兼営と分離政策の仕組みと、禁止措置の歴史的経緯を敷衍するとともに、今後の議論の行方とインパクトについて展望したい。

親会社が銀行持株会社法の適用を受けないILC制度

 ILCとは、ユタやコロラドなどの州法に基づき設立されている州法銀行の一形態である(※3)。州金融当局と連邦預金保険公社(FDIC)の監督と預金付保制度下におかれるものの、親会社は1956年銀行持株会社法(BHC法)に基づくFRBによる監督を一定の条件下で免除される。

 ILCの起源は、銀行アクセスのない労働者層への与信を行うことを謳い1910年にバージニア州で設立された貸付・信託会社(※4)に遡る。しかし、ILC形態による銀行事業の存在感が高まったのは、一般事業会社グループ等(※5)による銀行保有が禁止されたBHC法成立以後である。それ以前に傘下で銀行事業を運営していた自動車メーカーや家電メーカーなどを含む一般事業会社グループは銀行子会社がILC形態をとることにより銀行事業を継続でき、かつBHC法に基づく親会社へのFRBによる監督も免除された。さらに、1987年競争力平衡銀行法により、BHC法の適用を免れるILC設立の要件規程が確立されたことで(※6)、一般事業会社などによるILC設立が90年代から2000年代前半まで相次いだ。米国内の製造・小売業者だけでなく、日独の自動車メーカー系や米国証券会社系によるものも含め、50社以上のILCがその時期に設立されている(※7)。この間、1999年金融サービス改革法では、金融持株会社傘下での銀行と証券会社と保険引受会社の兼営を認める一方で、貯蓄金融機関制度を用いた一般事業会社と銀行の資本系列化を封じたが、ILC形態による銀行事業制度はそれをも潜り抜け生き残った。

 潮目が変わったのは全米最大の小売業者であるウォルマートがILC免許申請(※8)を行った2002年以降である。最大手小売業者の銀行業進出を警戒する中小銀行経営者らが各地で地元選出の連邦・州議会議員に強力なロビイングをかけたことも奏功し、認可権を持つFDICは2005年にモラトリアム宣言を発した。これにより、一般事業会社によるILC許認可審査を一時停止し(※9)、ウォルマートも2007年に申請を撤回した。さらに、2008年の金融危機を受け成立した2010年金融規制改革法がILCの新規認可を3年間禁止したことで(※10)、「銀・商」分離を巡る議論は凪状態に陥った。2013年のILC認可再解禁からSoFiによる新規申請までにはさらに約4年を要した。

銀・商分離の規制緩和に寛容気味の当局者発言も

 ILCを通じた銀行事業認可申請の再開について、2つの観点で考察したい。1つはフィンテック企業による申請の意味である。1990年から金融危機直前の2007年まで年平均130件を越えていた米銀の新規設立数(ILC含む)は激減し、2013年以降の直近5年間も計4件にとどまる中、SoFiやスクエアなどフィンテックの成功組が銀行事業新規参入に名乗りを上げることに違和感はない。むしろ、印象深いのは、ILC認可申請をしたフィンテック企業では、銀行免許がなくても可能な貸付仲介や代理形態での決済類似・周辺サービスの提供だけに満足せず、銀行免許なしには取り込めない付加価値(※11)の内製化やクロスセル機会を追及し始めたという点だ。これは一方的な銀行市場の侵食というより、銀行側もフィンテック企業と同じサービスを追随し提供していくことで、両者の商品・サービス範囲の収斂に繋がると考えられる。

 もう1つは、一般事業会社による銀行保有のありように関する議論の行方についてである。2010年以前の議論においては、ILCへの規制が通常の銀行に対するものに比べ緩やかに過ぎるとか、ILC経営が一般事業会社グループの都合に振り回され(機関銀行化)不健全化し金融システム全体のリスクを高めるとする反対意見が銀行業界関係者を中心に語られ、水掛け論に陥ることが多かった。

 これらの反対論には誤解に基づくものも含まれていたが、最近の議論では、ILCは通常の州法銀行と同等の州当局やFDICによる検査と監督を受けており、グループ内の一般事業会社やその顧客に対する与信や条件設定においても通常の銀行と同様の規制や監督を受けているという事実(※12)は正しく認識されてきている。さらに直近では、米国金融当局トップの中にさえ、銀・商分離が米国独特の奇異な政策であるとして、その存続のあり方に疑問を呈する声が出てきたのも大きな変化であり(※13)、今後はより精緻化された議論の展開が期待される。

 米国における銀・商分離政策の行方は、他国の関連政策にも影響を与えていく可能性がある。深刻な人口減少問題による成長制約に直面する日本においても、米国事例が単なる「頭の体操」を超えた次元で銀行経営モデルのオプションとして参照される日が超長期的未来にはありうると、個人的にはみている。

1) SoFiでは2010年10月に、無関係の理由による経営幹部退任などもあり、ILC申請を撤回。
2) スクエアの2017年11月3日の時価総額は141億ドル。未上場のSoFiの推定時価総額は45億ドル。
3) 他にミネソタ、ネバダ、ハワイ、インディアナ、カリフォルニアなどにも同様の州法がある。
4) モーリス・プラン・バンク。
5) 同時に、一般事業会社以外にも保険引受会社グループや証券会社グループ等による銀行保有も制限。
6) 同法ではBHCの適用を受けずにILCを保有できる要件として、(1)ILCの総資産が1億ドル以下であること、(2)ILCが要求払預金を取り扱わないこと、(3)1987年8月10日以前にILCが現行保有者に買収済みであること、のいずれかを満たすことを条件付けた。
7) GM、GE、ターゲット、BMW、トヨタ自動車、メリルリンチ、モルガンスタンレー、リーマンブラザーズ、ゴールドマンサックスなど。
8) 当初は銀行手数料の節減のためカリフォルニア州で中小銀行の買収とILC転換を目指したが、同州議会による州法改正で頓挫。その後に、自前設立を他州で目指したが、FDICの新規認可停止で再び頓挫。
9) その後も2008年1月まで更新延長された。
10) ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーなどは傘下ILCを通常の銀行に業態転換させることでFRBの流動性供給が受けられる銀行持株会社となったが、1999年GLB法に基づく銀行保有は従来から可能であった。
11) 低コスト預金の市場金利との利ザヤや銀行間手数料の社外流出抑制、クレジットカード発行など。
12) 連邦準備法23条(a)および(b)に基づく親子間貸付への制限や優遇条件の禁止や親会社の取引先への与信制限、大口融資規制、優越的地位の濫用の禁止ほか。
13) キース・ノレイカOCC長官代行による2017年の一連の講演や専門誌・紙インタビューでの発言など。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
専門:米国金融経営調査

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