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FinTech対応からデジタルトランスフォーメーションへ

2017年12月号

金融ITイノベーション事業本部 事業企画室 上席コンサルタント 五十嵐文雄

地域金融機関では、ここ1、2年FinTechとして様々な取り組みを進めてきたが、API提供にむけた整備などの目処も立ったことから、対応への一服感やFinTech疲れともいえる状態が見え始めている。だが、将来のビジネスを支えるデジタル世代顧客を取り込むためには、パーソナライズサービスを提供するための真のデジタルトランスフォーメーションが必要である。

地域金融機関における対応の現状

 金融機関における現在のFinTech対応は2014年後半ごろから始まった。地域金融機関の多くは、2015年から16年にかけフィンテック推進室などを設置しFinTechに関する情報収集を進める一方で、家計簿ソフトとの提携、APIの対応検討、ロボアドバイザーの導入、ブロックチェーン関連の共同研究への参加、法人向けにはクラウド会計との連携と、数多くの対応を進めてきた。さらに最近はAIやRPA(Robotic Process Automation)への対応も始めている。あらゆる地域金融機関が大きさの違いはあれ様々な取り組みを行っている。そうした中、メガバンクやネット系金融機関では依然対応を継続しているが、地域金融機関では終わりのない対応にややFinTech疲れや一服感が見られる。

 地域金融機関はFinTech対応を進めてはきたものの、現実に収益の柱となるのは非デジタル世代を中心にした顧客群(法人を含む)であり、そこへの対応を優先せざるをえない。収益性が低いデジタル世代(※1)を中心とした顧客群への対応はアプリやツールの提供という表面的な対応にとどまっているのが現状だ。

欧州銀行の取り組み

 欧州の金融機関も、店舗や紙を好む従来の顧客への対応を行う一方で、デジタル世代などデジタルを好む顧客へのサービス拡充を進めている。デジタル世代向けのビジネスは、新規参入組との激しい競争があり、かつ、収益性が低い顧客層が対象であることから、非常にコストにシビアである。従来のような自前の企画開発や人中心のセールス、巨大なIT構築ではコストが高く、デジタル世代に向けた取り組みには不向きである。そのため、従来のビジネスモデルを捨て、デジタルを活用した新しいモデルに転換(デジタルトランスフォーメーション)する必要があると欧州金融機関の担当者は述べている。また、デジタル世代の一部はすでに資産を持ち始めており、今のうちに取り込みを開始しなければ、一度離れたデジタル世代を取り戻すことは難しいという危機感がある。

 金融に限らず、デジタル世代への対応の鍵は「パーソナライズサービス」の提供である。これができなければ、個々人(個々の法人)に合った方法で付加価値の高いサービスを受けることに慣れたデジタル世代は取り込めない。以下では9月に訪問した欧州金融機関におけるパーソナライズサービス提供の取り組みを紹介する。

顧客分析の対象の拡大:パーソナライズサービスを行うにはデータを蓄積して分析し、顧客の特性をグルーピングした後、そのグループに適したサービスを提供し検証するというプロセスが必要である。従来は、チャネルごとに分断されたデータを繋ぎ合わせ、人手で特性を見つけ出していた。このため顧客の分析にコストと時間がかかり、富裕層など一部の顧客のみを分析の対象とするケースが多かった。現在は、より多くのデータをAIで分析し、全顧客を対象に短時間で数多くの顧客グループを作成することが可能となり、それぞれの顧客グループに合うサービスの開発を繰り返し行えるようになったとのことである。スペインでは農業従事者用、バカンスなどでの一時滞在者用、ミレニアル世代用など顧客の特性に合わせ銀行のブランドを変えている金融機関もある。

APIのチャネル化:金融機関以外の企業(FinTech企業、他業種の企業など)が自社のアプリを経由して金融サービスを提供するケースが増加している。以前であれば、金融機関は顧客に直接金融サービスを提供することを優先し、自前のアプリを開発したり、他社と提携する場合も個別に開発を行っていた。現在は、APIを活用することで顧客が普段アクセスするアプリから金融サービスを利用できるようにすることを積極的に推進している。APIの活用により、新たな顧客接点を開拓したり新しいアプリを開発するのに比べコストと時間を大幅に短縮でき、また特定の外部企業経由でサービスを利用する顧客の特性を把握することも可能となるとのことである。

 英国の銀行では、銀行が直接介在せず金融商品・サービスを提供する重要なチャネルのひとつとしてAPIを位置づけ、どういう顧客にどういう企業を経由してサービスを提供するか、またその企業とのシナジーは何か、などを専門に検討する部署を設置している。

対応顧客数の最大化:スペインの金融機関は店舗を維持しつつ、デジタルと人をミックスした対応を進めている。デジタルを活用することで、店舗でもコンタクトセンターでもSNSでも顧客に適した方法で誕生日のお祝いなどパーソナライズされた気の利いたメッセージを送ることができる。また、TV電話、チャットボットのほか、社外に持ち出せるタブレットを活用することで、担当者はどこででも顧客が必要とする時に顧客と対話することが可能となっている。店舗のアドバイザーやコンタクトセンターのオペレータも、デジタルを最大限に活用できる環境を整備することで、より多くの顧客と接し、個々人にあった対応を行うことができる。その結果、品質を落とすことなく担当一人当たりの対応顧客数を格段に高め、セールスの生産性向上、セールスコストの削減につなげることができるとのことである。

 顧客のデジタル活用が進めば進むほど金融機関では多くの情報・データが蓄積でき、またAIが学習を深めその能力が高まる。結果、マーケティング費用の軽減のほか、商品提供のヒット率が高まるという相乗効果も得られるのである。

FinTechからデジタルトランスフォーメーションへ

 金融機関は、今後減少する既存顧客への対応と将来拡大するデジタル世代への対応を同時に行わなければならないが、今後はデジタル世代向けの対応がより重要になる。デジタル化を前提に積極的にFinTech企業など外部の組織を活用し、より低コストで生産性の高い新しいビジネスモデルの割合を高めなければ、既存顧客の減少と共にビジネスも縮小する。一時的なFinTechブームではなく、将来のデジタル社会の金融を支える新しいビジネスモデルへの転換は、金融機関のトップが真正面から取組むべきテーマのひとつである。

 この流れは大手の金融機関のみでなく、比較的規模の小さい金融機関でも同様である。地域に密着しリソースが限られる金融機関の方が、他社と積極的に連携することで思い切ったデジタルトランスフォーメーションができるのかもしれない。何れにせよ、デジタル社会へ適合し自己変革ができた金融機関が将来生き残るのである。

1) デジタル世代:類似語としてデジタルネイティブ、ミレニアル世代などがあり定義はさまざまであるが、今回は1990年以降に生まれたインターネットやスマホを利用する世代とする。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

五十嵐文雄

五十嵐文雄Fumio Igarashi

金融ITイノベーション事業本部 事業企画室
上席コンサルタント
専門:国内外の金融サービスの調査、サービス企画

注目ワード : FinTech(フィンテック)

注目ワード : API

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