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注目される英国の運用コンサルティング市場調査の行方

2017年12月号

金融ITイノベーション事業本部 事業企画室契約研究員 國見和史

英競争・市場庁(CMA)が、年金基金などが利用する運用コンサルティングサービスの市場で競争を阻害する問題がないか検証を進めている。調査の結果によっては、手数料やパフォーマンスの透明化、競争入札の実施などが促進され、市場のダイナミクスが大きく変わる可能性もある。

 英国の競争監督機関、競争・市場庁(CMA)は、年金基金などの機関投資家が利用する「運用コンサルティング(IC)」と「フィデューシャリーマネジメント(FM)」サービスの市場において、競争を阻害する問題がないか本格的な調査を開始した。金融行為監督機構(FCA)の市場調査委託を受けたもので、一年半以内に最終報告を行うことが義務付けられている。

 ICサービスとは、年金などの機関投資家に対して、投資戦略、政策アセットミックス、運用マネジャーの選択などに関する助言を提供するサービス(※1)である。英国では年金のトラスティー(理事)が、投資について適切な助言を取得し考慮することが義務付けられており、大半のDBスキームがこうしたサービスを利用している。一方、FMサービスは、投資家の指定するガイドラインなどに基づき、投資家の代わりに資産配分やファンドの選択について意思決定を行い実行するサービスである。運用を業者に任せトラスティーは監督に集中できるため、近年、利用が増えており、ほぼ半数のDBスキームが何らかの形で利用しているとの調査結果もある(※2)。

CMA調査の出発点となるFCAの関心

 今回FCAがCMAに市場調査依頼を行ったのは、同機構が一昨年から実施してきた資産運用マーケットの包括的な調査(※3)の中で、機関投資家市場に大きな影響を与える運用コンサルタントのサービスについて競争上の懸念が浮かび上がってきたためである。運用コンサルタントの主たる顧客は年金基金で、大半はDB年金である。英国ではDB年金の閉鎖が進行しているが、依然資産は1.8兆ポンドに及び(※4)、運用コンサルタントの助言が及ぼす影響は非常に大きい。にもかかわらず、アセットアロケーションの助言など、彼らの多くのサービスはFCAなどの規制対象となっていない(※5)。

 CMAが9月に公表した論点説明(※6)では、今後の議論の出発点として、FCAの問題意識を反映した論点が多く取り上げられた。FCAが調査報告で明らかにした問題意識で特に興味深いのは、1)サービスの利用者である年金トラスティーが経験、能力、情報面で脆弱な立場にある、2)ICとFMの兼業など垂直的統合モデルが利益相反をもたらしている、というものである。

 1)について、FCAはまず、年金トラスティーがコンサルタントの判断に大きく依存していると指摘した。調査結果では3分の1のトラスティーが、コンサルタントにめったに異論を唱えないと回答しているという。 また、ICサービスの助言やFMサービスは特に質の評価が難しいとしている。これらのパフォーマンスはさまざまな要因で左右される上、比較可能なデータも限られるためである。コンサルタントはさまざまな形でアドバイスの評価を試みているが、標準的な手法は確立しておらず、特にアセットアロケーションの助言は適切な評価が難しい。そのため、顧客のリクエストに対する対応の質やスピードといった分かりやすいサービス面での評価が重視される傾向にあると分析している。

 さらに、契約した運用コンサルタントの変更率が低いと指摘する。調査結果では、9割の機関投資家は過去5年間コンサルタントを変えていない。コストが理由というわけではないが、入札手続きにかかる時間やリソースは妨げになっていると感じているという。

 一方、2)について、FCAは、ICサービスを提供するコンサルタントが、他にもっと適切な選択肢がある可能性があるのに自社の製品やサービスを推奨することに懸念を示した。中でもFCAが懸念したのは、コンサルタントが自社のFMサービスを推奨するケースである。コンサルタントの影響力は強く、ある調査では年金トラスティーらの3割以上が、「FMのマネジャーには既にサービスを受けている運用コンサルタントを指名したい(指名した)」と回答している2)。FMサービスの業者選定に競争入札の実施率が低いことも懸念材料となった。

注目される市場改善策の行方

 CMAの論点説明では、純粋な仮説としながら現時点で考えられる改善案も幅広く示された。たとえば、上記のFCAの問題意識を受けて、1)運用コンサルタントの手数料やパフォーマンスを比較しやすくする(例えば、業界標準の開示テンプレートを開発して、それに基づき顧客への情報の提供を義務付ける)、2)IC、FMサービスの入札実施を促す(例えば、入札を義務化する。標準的な入札文書を導入する)、3)コンサルタントの利益相反に対応する(例えば、ICからFMにサービスを移行する場合、コンサルタントに対して両者の違いを顧客に明確にするよう求める。FMサービス調達に入札を義務化する)といった案が挙げられた。

 こうしたFCAの問題意識やCMAの論点設定を、サービスの利用者である年金基金は概ね支持している(※7)。すでにコンサルタントとの関係を点検する意向の基金も少なくないようだ(※8)。もともと多くの基金はコンサルタントのサービスを高く評価しているが、コンサルタントの自社FMサービス提供に伴う利益相反には根強い懸念がある。実際にコンサルタントが自社サービスを強く推奨してきたケースもあったという。

 一方、こうした改革が実施された場合に最も影響を受けると考えられる大手運用コンサル会社も、市場改革に完全に後ろ向きなわけではない。運用コンサル大手3社(※9)がFCAに提出した改善策(※10)は、前述のFCAの問題意識に広く対応したものであった。大手3社の一つ、Aon Hewittは、「年金のトラスティーのコンサルタント評価能力は低い」、「ニッチ分野のコンサルタントが事業を他分野に拡大するための障壁は高い」といったFCAの見解に反論しながら、業界標準のパフォーマンス開示など、顧客への情報提供に改善の余地があるとの認識を示す。

 こうした状況を見るとFCAの問題意識はかなり共有されており、今後の議論では、認識された問題にどこまで踏み込んだ措置を取るべきかが争点となるかもしれない。たとえば、ICとFMサービスの利益相反に対する改善策について、Aon Hewittは、新たな措置を導入するなら目的に釣り合ったものとし大手業者だけを狙い撃ちせず市場全体に適用すべきと主張し、兼業禁止、どちらかの事業の売却といった厳格な措置を警戒している。

 CMAでは、関係者の意見や年金トラスティーに対する調査などをもとに来年7月に暫定報告を公表する計画である。CMAの結論によっては、コンサルタント市場の競争をめぐるダイナミクスは大きく変わる可能性もあり、今後の行方が注目される。

1) 今回のCMAの市場調査では、雇用主(企業)に対するDBやDCのスキーム設計や導入に関する助言も「ICサービス」として調査の対象に含められている。
2) Aon Hewitt, “Fiduciary Management Survey 2017”
3) 「資産運用市場調査(Asset Management Market Study)」と称して、2015年11月に開始。昨年11月に中間報告、今年6月に最終報告を公表した。
4) The Investment Association, “Asset Management in the UK 2016-2017”。なお、英国の職域年金(DB+DC)の資産合計は2.2兆ポンド。
5) FCA は資産運用市場調査の報告に基づき、運用コンサルタントなどによるアセットアロケーションの助言を同機構の管轄下に置くよう財務省に勧告することを検討している。
6) CMA, “Investment Consultancy Services and Fiduciary Management Services: Market Investigation: Statement of Issues”, 2017
7) 例えば、英年金基金団体PLSAによるCMAの論点説明に対するコメント。
8) SEI社が今年6、7月に実施した調査によれば、DB基金の半数以上が運用コンサルタントとの関係を再評価することを計画していると回答したという。
9) Aon Hewitt、Mercer、Willis Towers Watson の3社。FCAでは、運用コンサルティングサービス市場におけるこの3社の市場シェアをおよそ6割と推計し(2015年の収益ベース)、「集中度が比較的高い」と懸念していた。
10) 今年2月、CMAへの市場調査委託の代替案として、8つの改善策からなる「約束(undertakings in lieu)」をFCAに提出した。しかしFCAは十分に包括的な解決策か確信を持てないとして、9月にこの提案を棄却しCMAへの市場調査委託の実施を決定している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

國見和史Kazushi Kunimi

金融ITイノベーション事業本部
金融イノベーション研究部契約研究員

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