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食欲の秋に

2017年11月号

遠藤幸彦

ある日の夕食時。デザートのマロンケーキを食べるか食べないか。とても美味しそうだが、ウェスト周りのことを考えてパス。自分の意志の固さを褒め、一件落着。

 翌日の昼。サンマ定食を食べるか食べないか。脂ののったサンマは香ばしいが、その脂ゆえのカロリーを考えパス。これで一件落着・・・にはならない。どこが違うのだろうか。

 サンマ定食のようなメインの場合、何日もスキップするというわけにはいかない。本来の意思決定のあり方は、サンマ定食を食べるか食べないかではなく、刺身定食など他の選択肢との比較検討である。一方、メインの後のデザートをどうするかのような追加的な意思決定ならば、マロンケーキを食べるか食べないかという判断だけでも良い。基本的な栄養はメインで取れているという暗黙の前提に基づいているからである。

 ファイナンス理論によれば、投資の意思決定はNPV(正味現在価値)法に基づくべきとされる。投資によって将来生み出されるキャッシュフローを資本コストで現在価値に割り引き、それが投資額を上回ればGo、上回らなければNo Goという判断を下す。これはいわばデザートの意思決定法である。限界的な投資であって、実施してもしなくても事業構造は大きく変わらないような場合に単独で用いられる判断基準である。リアル・オプションやAPV法(修正現在価値:将来のキャッシュフローと節税効果を分解して評価する方法)などを補足的に用いるにしても、その基本的性格は変わらない。

 ところが、海外の大型企業を買収するときのような乾坤一擲の意思決定の場面でも、NPV法(あるいはより簡便な回収期間法など)が用いられ、リスクやリターンの観点からその是非だけが議論されることになりがちである。

 「ある案件を進めるか進めないかの議論は、同じコインの表裏であって、複数の選択肢を検討したことにはならない。」意思決定論を専門とする大学教授の指摘だが、現在の事業構造を大きく変えるような投資は、いわばメインに関する意思決定であって、本来であれば複数の選択肢の検討が不可欠になる。

 当然、他の買収候補なり自前の投資といった案を並列させれば複数の代替案の検討となる。しかも、①これらの手段によって達成しようとしている目標の確認(そもそも我々は何のためにこれらの投資案件を検討しているのか)や、②No Go(いずれの手段も取らない)も選択肢の一つとしてリスクやリターンの明示的な検討、が可能になる。また、従前には思いもよらなかった創造的な解決策を見いだすきっかけとなるかもしれない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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