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コーポレートガバナンス・コード3年目の企業の状況

2017年11月号

金融デジタル企画一部 上級研究員 三井千絵

コーポレートガバナンス・コードが導入されて3年目、今企業はこれをどのように受け止めているのか。野村総合研究所では本年7月、アンケート調査を行った。コードは“機関投資家と企業の対話”を求めているが、それはすべての企業が実施するには無理があるかもしれない。

 企業のガバナンスの向上による日本経済の活性化を目指し、コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)が導入されて3年目となった。コードの導入後、「企業は確実に変わってきた」という声が聞かれる一方、「総務部、SR(シェアホルダー・リレーション)(※1)部等ではコードが求める対応はできてきたが、それをIR活動等へまだうまく繋げられていない企業が少なくない」というIRコンサルタントの指摘もある。

 企業は実際、コードをどのように受け止めているのか、野村総合研究所は上場企業に対しアンケート調査を実施(※2)、コードへの取組みの満足度、関心のあるトピック、今後強化するべき点、IR/SR活動で専門サービスに充当した予算や体制等を調査した。その結果からは、機関投資家との対話によるガバナンス向上というコード設定のシナリオがあてはまらない企業も少なくなく、限られたリソースで自社に合った取組みを模索しているようにみられた。

大型企業に集中する機関投資家向け対応

 アンケート結果は大型企業(時価総額2,500億円以上(※3))、中型企業(2,500億円~500億円(※4))、小型企業(500億円以下(※5))で分類し、IR等への取り組みや体制をみた。

 関心のあるトピックとして、「機関投資家による企業との対話」を挙げる企業はすべてのグループで最も多かった。しかし、議決権行使に関する対応や機関投資家向けIRに費用を当てているのは、大型企業に偏っている。議決権行使結果のシミュレーションや、パーセプションスタディ(※6)に予算を充当している企業の割合は、中型グループ以下では急減している。これは機関投資家が投資する企業が大型企業中心となっているから、とも考えられる。海外機関投資家がパッシブ運用で一般的に用いる海外の株価指数では、採用される日本企業は時価総額上位数百社であり、セルサイドのアナリストレポートがカバーする範囲とも一致している。GPIFは最近ESG関連指数の採用を発表したが、その対象はやはり上位数百社だ。そのせいかESGや統合レポートの作成に取り組んでいると回答したのも、大型企業に集中していた。

中小型企業では個人投資家に対する取り組みが中心

 中型企業以下はIR/SR活動の体制も十分とは言えないようだ。大型企業では大半が3人以上の体制を整えているのに対し中小型企業では多くが2名以下である(図表1)。予算規模も大型企業では9割超がIR等向けの外部サービスに200万円以上の予算を確保しているが、小型企業ではその割合は半数に満たない(図表2)。大企業では8割が「既にコードへの対応はできている」と答えているが、小型企業でそう回答したのは半数以下だ。しかし今後IR/SRの予算を増やしたいという回答が他より多かったのは小型企業であった。

 中小型企業の場合、相対的に個人投資家向けの対応に割く予算が多い。特に「説明会」に予算をあてており、従来型の“発信”のようなIR活動にはリソースを割いている。ある外資系運用会社のマネージャーは「日本の中小型株市場は、浮動株も少ないなど売買もしづらく、中小型を運用対象とする機関投資家の数も限られてしまいがち」と、“機関投資家不足”を課題視している。そのため、中小型企業が、コードの求める持ち合い解消をしようとすれば、その受け皿は個人投資家が主とならざるを得ないだろう。ある上場企業の社外役員は「コードが導入され、投資家が確実に“ものを言う”ようになった。企業は自社のファンとなる投資家を増やすしかない」という。そうなると機関投資家でなくても、自社の長期の成長を信じ、売らない投資家(=個人)を増やすことに、持てるリソースを集中するしかないのではないだろうか。

ガバナンスの改善とコードの役割

 以上のように、コードが導入されても、時価総額上位数百社を除く多くの企業は限られた予算と人員でIR/SRに取り組んでいる。また、コードが機関投資家との対話を求めても、機関投資家が十分にいる企業は限られ、中小型企業は個人投資家中心の対応となっている。しかし、そういった企業数は3,000社を超える。実際は日本の市場ではマジョリティである。

 現在コードが求める対応で、すべての企業にとって効果が期待できる対応策はあるのだろうか。IR支援を広く手掛ける、時価総額は小型に分類される企業の経営者は、「結局は有価証券報告書のような制度書類をしっかり作ることが、実は“対話”なのではないだろうか」と述べる。確かに制度書類の作成プロセス自体、良質なガバナンス体制を必要とするし、投資家が企業分析に利用するデータサービスの情報源にもなっている。まずは比較性の高い制度開示の質的向上が、第一歩かもしれない。

 コードも導入後3年目に入り、近いうちに改定の議論も出てくるだろう(※7)。しかし今後もコードを全企業に適用していくのであれば、中小型企業にとってのガバナンスの向上にはどのようなシナリオがあるのかを示し、それに対応したことが確実に企業のメリットになると感じられる、そのようなコード設計も必要なのではないだろうか。その際、個人投資家との対話でガバナンスを向上させるモデルケースも考えられるべきではないか。また同時に、コード導入の目的が日本経済の活性化なのであれば、中小型企業でも機関投資家と対話ができるよう、機関投資家が投資しやすい中小型株式市場への整備といった議論もあわせて必要といえるだろう。

1) 議決権行使、株主総会等の業務に特化した部署として、最近、シェアホルダー・リレーション(SR)部門を設置する企業がある。
2) アンケートは全上場企業を対象とし、回答数は約430社であった。回答企業を全上場企業の時価総額別分布と比較すると、時価総額1000億円を中心にそれより大きい企業は実際の分布より回答数がやや多く、それより小さい企業は回答数がやや少なかったが、ほぼ全時価総額にわたって収集できた。
3) 7月上旬の時価総額では、上位約430社。アンケート回答企業では、83社。
4) 7月上旬の時価総額で500億は上位約1200位。回答企業では106社。
5) 7月上旬の時価総額で上位約1200位以下。回答企業では240社。
6) 認識度調査:機関投資家が自社をどのように見ているか、第三者の調査会社に委託しアンケートやヒアリングを行うこと。投資家にどのようにメッセージを発信するべきかといったIR戦略で活用されている。
7) 執筆は9月末。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

三井千絵

三井千絵Chie Mitsui

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:財務データ、企業開示等

注目ワード : コーポレートガバナンス・コード

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