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人を強化する業務自動化-従業員価値向上という視点-

2017年11月号

NRIアメリカ シニアコンサルタント トリー・ヨシダ

RPAによる業務自動化への試みが徐々に広がりを見せる一方で、RPA導入によるコスト削減への期待は見直されつつある。しかし、RPAの特性を考慮するなら、コスト削減効果よりも従業員価値向上という視点に目を向けるべきである。

RPA導入で期待を下回るケースも

 将来的な効果の見通しが難しい様々なフィンテックの取り組みの中で、先ずはRPA(Robotics Process Automation)を活用した業務改革に着手してみようという金融機関は多い。米銀大手がバックオフィスのレコンサイル業務にRPAを適用して従業員を1,000人規模で削減する計画を発表するなど、華やかなニュースが目に付く上、他のフィンテック系の取り組みと比較してコスト削減という形で効果を説明しやすいからである。しかし、一部の先進的な金融機関から多くのフォロワーへとRPA導入の動きが拡大すると共に、思っていたほどコスト削減効果が見込めず期待はずれ、という声も聞かれるようになっている。実際、RPAプロジェクトの30~50%が当初期待を下回ったという報告もある(※1)。

 当初の期待を下回るケースが増えてきた理由としては、RPAを適用する業務の選定が不適切だと指摘されることが多い。規模の小さな業務は勿論のこと、手順やルールが複雑な業務もRPAの適用で大きなコスト削減効果は見込めない。実際、複雑な業務へ適用するとコスト削減効果が急激に悪化するという報告がなされている(※2)。また、例え単純な業務であっても、1人の担当者が受け持つ業務の一部に過ぎないケースも多く、人件費削減という形でのコスト削減効果には繋がり難いという事情もある。結果として、RPAによるコスト削減の候補として100以上の業務を検討したが、十分な効果が見込めると判断したものは10以下だったという話などもセミナー等で耳にする。RPAでコスト削減効果を上げたいと思っても、対象業務はかなり限られてくるということである。

 しかし、大きなコスト削減効果が期待できないから、という理由でRPAによる自動化の重要性が失われるものではない。通常の業務自動化と同様に、業務品質の改善や業務時間の短縮、更には人材等の経営リソースの効率的配分など、単なるコスト削減以上の効果があることは明白である。特に、RPAの良さの一つが抜本的な業務改革やシステム化を想定せずとも業務の自動化に着手できるという点にあることを思えば、RPAによる自動化が人件費削減に直結するというのはむしろ特別に恵まれたケースであるとさえ言える。コスト削減以外の効果に着目しなければRPA導入の意義付けが難しいという事実は、RPAの本質的な性質に由来していると考えられる。

従業員価値向上に注目したプロジェクト

 実際のRPA関連プロジェクトでもコスト削減以外の効果に着目したものが目に付くようになってきた。特に、従業員価値向上という観点をアピールしたプロジェクトは多い。従業員の単純業務に掛かっている時間を自動化で削減し、その余った時間を顧客対応等のより付加価値の高い業務へシフトさせるという発想である。

 例えば、英国で資産規模7位に相当するCo-operative銀行は、2005年というかなり早い時期にRPA導入をスタートさせたこともあり、単なる人件費削減をアピールするフェーズは終了し、従業員価値向上という視点に力点を置いている。具体的な例を挙げると、資金決済の業務プロセスにおいて、手作業で10分かかったものが20秒で可能となったり、1時間に12口座の締め処理が限界であったのが自動化によって200口座まで対応可能となるなどの効果が生まれた。こうして当該業務の80%が自動処理化されたのだが、従業員の全業務に占める当該業務の割合はそれほど大きいものではないため、人員削減という形での効果は決して大きくない。浮いた時間によって、従業員が顧客対応にどれだけ時間を多く割けるようになったか、顧客満足度向上に寄与したかどうか、を重視してRPA導入の効果を評価している。

 また、ドイツ銀行でも従業員価値向上という観点でRPAプロジェクトを走らせている。当行ではニューヨークにあるイノベーションラボが推進役となってトレードファイナンス業務や融資業務などの様々な業務を対象にRPAを導入している。最近、注目した業務の一つが融資関連業務の研修である。従来は研修に6ヶ月もの期間をかけていたが、本質的に人材回転率が高い融資ビジネスでは当初の研修コストが無駄になるケースも多かった。融資の業務プロセスを明確化し、社員からの問い合わせに自動応答するシステムとしてRPAを実装したことにより、研修を簡略化し大幅に期間を短縮することができるようになった。研修で足りない知識は自動応答システムで日々補うという形である。イノベーションラボのリーダーが「業務の自動化は人が業務ナレッジを管理する上で有効な補助手段となりうる」と述べているように、「人を置き換える自動化」ではなく、「人を強化する自動化」という考え方の重要性が強調されている。

 コスト削減に囚われないという意味ではスウェーデンのSEB銀行の例も面白い。SEB銀行は、顧客サポート業務を対象として従業員価値向上を狙っている。先ずは社内のITサポート業務において、パスワード再設定業務や社内システムの利用説明等の限られた単純業務でテスト導入した。従来は対応に1~2時間の待ち時間が発生し従業員の不満の原因となっていたが、自動化の結果IT部門へのコール数の約50%を人の介在なしに処理できるようになったという。その後社内利用における効果を確認した上で、外部顧客のサポートへ展開した。口座開設に必要な情報提供や、電子IDの発行、海外送金の方法に関する説明など、極めて単純ではあるが、それまで人が対応してきたことで無用に時間をとられていた業務を自動化し、効果を上げている。

人を中心にした業務再設計

 上述の例は、いずれもコスト削減という観点からの効果は大きくなく、従業員価値(あるいはそれを顧客側から見た顧客価値)の向上という視点を持ち込まないと評価され難いという点で共通している。こうした視点の変更をコスト削減効果をアピールできないが為の「言い訳」と捉えるべきではない。企業内に様々な形で存在するナレッジこそが企業の付加価値の源泉であると考えれば、業務の自動化を通じて企業の組織内ナレッジを如何に維持・向上させていくかという課題はもっと真剣に議論されてよい重要なテーマである。コスト削減の為の自動化が組織内ナレッジを固着化し、企業としての環境適応力や付加価値を削いでしまっている可能性もあるのだ。

 今、改めて人にしかできないことと機械にでもできることを問い直し、人中心の業務再設計を行うことが求められていると思う。

1) Lamberton, Chris, et al.“ Get ready for robots.”Ernst & Young, 2016
2)“ The Evolut ion From Robot ic Process Automation To Intelligent Automation.” Genpact, 2017

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Tory Yoshida

トリー・ヨシダTory Yoshida

NRIアメリカ
シニアコンサルタント
専門:イノベーション、IoT、フィンテック

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