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英国リテール資産運用業界のオープン・アーキテクチャ化

2017年11月号

証券グローバルプロジェクト室 上級コンサルタント 島田裕貴

英国における投資プラットフォームは、リテール資産運用業界の重要なインフラに成長した。この変化は、金融商品提供者と販売チャネルの系列を打破するオープン・アーキテクチャ化が成功したことを意味しており、リテール投資家へ大きな便益をもたらしている。

リテール金融資産の78%を管理するプラットフォーム

 英国のリテール資産運用業界では、長くIFA(独立ファイナンシャル・アドバイザー)が重要な販売チャネルの役割を果たしてきた(※1)。2000年代に入り、大手金融機関の資産運用ビジネスへの参入やインターネットを通じたダイレクト販売の拡大による競争激化に伴い、IFAは規制コンプライアンスや業務インフラを自前で維持することが難しくなった。そこで、ファンドスーパーマーケットや保険会社などが母体であるプラットフォーム事業者へそうした業務を委託するようになっている。2016年末時点で、プラットフォームは英国のリテール投資資産の78%、5,920億ポンドを管理するまでに成長した(※2)。

 IFAの委託を受けるプラットフォーム事業者とはどのようなものか。まず、金融機関ライセンスを保有し、保険、年金、株式や債券、投資信託といったIFAが取り扱う金融商品について、口座開設手続き、金融商品の取引仲介、決済やポートフォリオ管理といった業務を担う。一方、IFAは顧客から受け取る資産管理手数料の一部を、資産残高に応じてプラットフォームに支払う。ファンド販売を例にとると、IFAはプラットフォームが運営するウェブサイトにログインし、顧客に代わってファンドの買い注文を入力する。その後は、システムが取引金額の算出、取引情報のファンドマネージャーへの伝達、顧客ポートフォリオの更新、入出金処理等を自動で行う。

規制改革がもたらしたオープン・アーキテクチャ化と資産管理手数料の低減

 プラットフォーム業界が急速に存在感を増したのは、IFA間の競争激化に加え、2012年、当時の英国FSAが導入したリテール金融商品販売制度改革(Retail Distribution Review:RDR)によるところが大きい。

 RDRにより、IFAが投資信託会社や保険会社等の商品提供者から販売リベートを受け取ることが禁止され、IFA、プラットフォーム、商品提供者各々が受け取るフィーを公開することが原則となった(※3)。当時、IFAはその独立性を謳いながらも収益は商品提供者からのリベートに依存しており、他方、商品提供者はIFAの囲い込みを進めていた。顧客にとっては、IFAが最適な金融商品の組み合わせを提示しているのか不透明な状況だった。RDRは商品提供者とIFAの系列関係を打破するオープン・アーキテクチャ化を促し、顧客にとって透明性の高い環境をもたらすための規制改革であった。

 RDRを契機として、IFAは一任勘定取引(ラップ口座等)からモデルポートフォリオの提供まで、顧客セグメントに応じサービスメニューの刷新を行った。商品提供者からもIFAからも独立しているプラットフォームは、こうした新たなサービスメニューに対応した顧客管理システムや、規制に準拠した手数料管理機能など、RDR対策サービスを次々に打ち出すと共に、系列を超えた商品ラインアップの充実を図ることで、IFAからの支持を集めていったのである。

 RDRによって促された競争の行き着く先は、誰もが予想したとおり、手数料水準の劇的な低下であった。ここに興味深いデータがある。

 英国FNZ社(※4)によれば、2005年に顧客がIFAに支払っていた資産管理手数料は中央値で260bp(ベーシスポイント)であったが、2016年には158bpと4割近く低下している(図表)。これを①IFAに支払われる資産管理フィー、②運用会社の信託報酬、③プラットフォームの利用手数料、の別にみると、特に③プラットフォーム利用手数料が6割近く減少している。

 これは、プラットフォーム事業者間の競争が激化するにつれ業務の効率化とコストの適正化が図られ、同時に、IFAからのアウトソースが拡大することにより、規模の経済が働いていることを示している。まさに、手数料の低下はオープン・アーキテクチャ化がもたらした副次的な産物であった。

寡占化が進むプラットフォーム業界の今後

 現在、プラットフォーム業界の競争は新たなフェーズに入り、規模の追求と寡占化が進んでいる。元々、IFAやその顧客は、ニーズに応じて複数のプラットフォームを活用してきた。これまで、その重要な選定基準としては、①ウェブサイトの使いやすさ、②取扱商品の豊富さ、③管理委託フィーの適正さなどがあったが、これらの差異が小さくなる一方で、最も重要な基準としてサービスの安全性、例えばプラットフォーム事業者の財務健全性が問われるようになってきている(※2)。

 このため、2017年1月に最大手ファンドスーパーマーケットCofundsの買収を完了した大手保険会社Aegonのケースにみられるように、資本力を背景としたM&Aによる資産獲得とサービスラインアップの拡充が、大手プラットフォーム事業者にとり競争の力点となろう。2016年末時点で、プラットフォーム業界は大手10社が約89%の資産を管理するまでに寡占化が進んでいる(※5)。

 今後、規制当局であるFCAは、英国リテール資産運用業界にとって重要なインフラとなったプラットフォームに対して、競争を阻害する系列関係がないか、投資判断に資するサービスを提供しているか、サービスに見合った手数料体系を提示しているか、といったレビューを行い、リテール投資家にとって望ましい環境構築を促す構えである(※2)。

 最後に、翻って我が国のリテール資産運用業界の現状はどうであろうか。金融庁は、金融機関等による顧客本位の業務運営(フィデュシャリー・デューティー)の確立に当たって「商品・サービスの手数料水準やリスクの所在が顧客に分かりにくい」という課題を示している(※6)。この点に関し、英国資産運用業界におけるオープン・アーキテクチャ化とプラットフォーム事業者間の熾烈な競争が、個人投資家の支払う手数料を低減し投資商品へのアクセスを容易にしている状況は示唆に富むと考える。

1) IFAは、例えば投資信託販売では、9割以上のシェアを占めるとされる。地域の家庭と密接に結びついていた保険の外交員が、保険以外の金融商品の販売を始めたのがIFAの起源と考えられている。
2) 職域制度下の資産を除く。IFAを通さない個人によるプラットフォームの直接利用を含む。出所:“Investment Platforms Market Study Terms of Reference”, July 2017, Financial Conduct Authority
3) 参考:“ Retail Distribution ReviewPost Implementation Review”, 16 December 2014, Europe Economics
https://www.fca.org.uk/publication/research/rdr-post-implementation-review-europe-economics.pdf
4) FNZ UK Ltd. プラットフォーム会社に対しITとオペレーションサービスを提供する企業。(https://www.fnz.com/
5) 各社ウェブサイトなどより野村総合研究所調べ。
6) 金融庁「平成28事務年度 金融行政方針 主なポイント」(2016年10月)のP5。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

島田裕貴

島田裕貴Hiroki Shimada

証券グローバルプロジェクト室
上級コンサルタント
専門:金融機関のビジネスIT戦略

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