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共同化は地域金融機関の活力アップに繋がるのか?

2017年11月号

金融ITイノベーション事業本部 事業企画室 上級研究員 川橋仁美

米国のコミュニティ・バンク業界では、金融危機後の規制強化や低金利環境下での利ざや縮小を受け、ここ数年、新しいタイプの共同化が進展しており、金融監督機関もそれを支援している。共同化は、わが国の地域金融機関にとっても戦略の重要な選択肢である。真に銀行の競争力の強化に繋がる共同化を推進することが重要である。

専門人材の共同化が進む米国

 わが国の金融業界では、共同化と言えば、システム開発・運用の共同化が代表的なものであるが、米国のコミュニティ・バンク業界では、ここ数年、専門人材の共同化(collaboration)が進展している。専門人材とは、専門知識を有するだけでなく、その実務への適用に長けた人材を指す。なお米国の金融監督機関である通貨監督局(以下、OCC)(※1)によれば、コミュニティ・バンクとは、「地域社会にフォーカスした国法銀行(※2)及び連邦貯蓄組合」を指し、わが国で言えば地域銀行に当たる。

 既に米国の複数の州でITやコンプライアンスなどの分野で専門人材を共同化する取り組みが進んでいる。共同化の形態には、1)複数の銀行が共同で専門人材を雇用するもの、2)ある銀行が専門人材を雇用し、他行にサービスを提供するものなどがある。何れも1行では人件費が高く雇用することができない高い専門性を有する人材を安価で雇用あるいは利用できるというメリットがある。

 その一方で、人材の共同化には同時に複数の銀行で当該専門人材が必要な事象が生じた場合に、時間をどう配分するかなどの課題点も指摘されている。しかし銀行の場合は、専門人材が必要な事象は共通しており、現実には時間を取り合うことはないようだ。例えば、コンプライアンスの場合、ある銀行で発生した事象は、他の銀行でも発生する可能性があるため、当該事象への対応に使った時間やその成果は他の銀行のためにもなる。また単独の銀行ではそれほど生じないコンプライアンス事象も、複数の銀行による共同化であれば事例も集積され、有効な対策を立てることも可能となる。IT分野でも、銀行が満たすべきシステムの安全性基準は同じであること、技術活用の対象となる業務やサービスの同質性が高いことが専門人材を共有化するメリットに繋がっている。

コミュニティ・バンクの共同化を支援する米国金融当局

 コミュニティ・バンクが専門人材の共同化を推進する背景には、幾つかの理由がある。まず金融危機後の規制強化により法令遵守のための費用負担が増大したこと。第二に、金融危機後、世界的に低金利環境が続き、銀行の収益を圧迫していること。第三に、もともとコミュニティ・バンクは、大手銀行に比べて経営資源が限られており、顧客が期待する競争力のある商品やサービスを提供することが難しいという課題を抱えていることである。

 更に、OCCが共同化を積極的に支援していることもコミュニティ・バンクが積極的に取り組む理由の一つとなっている。OCCには、多数のコミュニティ・バンクから「収益をあげ、銀行としての使命を果たすために何をすべきか」、「現在の経営環境で持続可能な銀行の規模やビジネス・モデルとはどのようなものか」という悩みが寄せられていた。OCCは2015年1月、こうした悩みに対する解決策の一つとして、経費削減や専門性の活用を目的とした共同化に関する論文を公表した(※3)。本論文は、現行の法的な枠組みの中で可能な限りの共同化を促進することを企図している。

 OCCによれば、米国のコミュニティ・バンクの共同化には、1)用具やサービスの共同購入、2)後方事務あるいはその他のサービスの共同化、3)専門人材(個人及びチーム)の共同化、4)サービス組織の共同所有、5)災害時の影響を軽減する合意への参加、6)商品やサービスの共同開発や提供などがある。わが国の地域銀行でも類似の取り組みは見られるが、大きな違いは、OCCは共同化を「他の銀行との関係を伴うもの(※4)」と定義し、外部サービス提供者へ業務を委託するアウトソーシングとは区別して、推進している点にある。

 OCCがコミュニティ・バンク同士による共同化に積極的な理由は、地域住民や地域経済にとってコミュニティ・バンクが重要であることは勿論であるが、それが将来のコミュニティ・バンク業界の活力を強化する可能性があることにある。例えば、ある銀行が特定分野で質の高いサービスを提供する専門性を有するならば、当該サービスを他行に提供することにより規模の経済性を追求することができる。一方、専門性が不足している銀行にとっては、高い専門性を有する銀行とパートナーシップを結ぶことにより、限られた経営資源を自行の得意分野に効果的に投資することができる。OCCは、このようにサービスを提供する銀行と利用する銀行の双方にメリットのある共同化を推進することが業界全体の活性化に繋がると考えている。コミュニティ・バンクの中には、共同化だけでなく同時にアウトソーシングも積極的に進め、コア業務に経営資源を集中投資するところも出てきている。

共同化を成功させるためには何が必要か

 OCCは、共同化にはリスクが伴うが、銀行の経営陣が実効性の高いガバナンスを行うことで共同化を成功裏に進めることができると考えている。むしろ銀行が専門性のない業務に自前で取り組むことにはリスクがある。OCCは、わが国の金融監督と同様に、共同化に際しては、十分なデューデリジェンスを実施することや、共同化開始後は、当該業務を行内で行う場合と同様の実効性の高いリスク管理を行うことを銀行に求めている。加えてOCCは、コミュニティ・バンクに対し戦略計画を十分に練ることを求めている。これは、考え抜かれた戦略計画が銀行の意思決定の基盤となり、銀行の競争力を担保するという理由による。銀行のビジョン、使命そして戦略と一貫性がある共同化だけが、銀行の競争力の強化につながるということなのである。図表は、OCCが示した共同化を成功に導くための要件である。

 現在わが国の地域金融機関が抱えている課題は、米国のコミュニティ・バンクと共通する点が多い。幅広い分野における共同化は、わが国の地域金融機関にとっても重要な選択肢の一つである。単なるコスト削減ではなく、真に銀行の競争力の強化に繋がる共同化とは?という視点が欠かせない。

1) Office of the Comptroller of the Currency
2) 国法銀行法にもとづいてOCCより認可を受けた銀行。
3) Office of the Comptroller of the Currency “An Opportunity for Community Bank:Working Together Collaboratively”(「コミュニティ・バンクにとっての好機:共同化すること」), January 2015
4) involves a relationship with another banking institution

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

川橋仁美Hitomi Kawahashi

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:内外金融機関経営、ALM、リスク管理

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