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データガバナンス・ラウンドテーブル開催報告

2017年10月号

金融デジタル企画一部 羽生恵令奈

野村総合研究所は、本年2月より3回にわたり、NRIデータガバナンス・ラウンドテーブルを開催した。本ラウンドテーブルは、金融機関のデータ管理体制について、金融機関のデータ管理担当者が抱える様々な問題意識や今後の方向性を議論し、業界全体の認識および意識の向上を目指した情報発信を行う場として設定したものである。

金融機関のデータ管理高度化に共通する悩みとは

 金融危機以降、バーゼル委員会による「実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則」(BCBS239、以下、諸原則)(※1)をはじめとして、金融機関のデータ管理高度化が求められており、日系金融機関のチーフ・データ・オフィサー(Chief Data Officer、CDO)およびデータ管理部署(Data Management Office、DMO)(※2)は日々模索しながら対応を進めている。その中で、多くの担当者は共通する問題意識や課題を抱えている。

 具体的には、「諸原則(BCBS239)遵守という規制対応の範囲を超えてデータ管理の重要性が組織内で認知されにくい」「データ管理の実効性を高められる組織体制の構築に苦労している」「データ管理を経営管理と連携させる枠組みの構築に苦労している」などの声に代表されるように、データ管理の必要性や重要性を他の事業部門や管理部門に理解してもらい、協働して議論を進めることに困難を感じる、との発言や、経営層の理解を得るための名案が見つからない、といった声が多く聞かれる。そこで、データガバナンス・ラウンドテーブルを開催し、「なぜデータ管理の高度化が必要か?」に係る問題意識や課題について、エンティティを超えて意見交換を行い、また広く公表することで、それらの声を業界全体のものとして共有し、各金融機関におけるデータ管理高度化を後押しすることを目指した。

 ラウンドテーブルでの議論には、金融機関として、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友トラスト・ホールディングス、農林中央金庫、大和証券グループ本社にご参加いただいた。三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループは、グローバルなシステム上重要な銀行(Global Systemically Important Banks、G-SIBs)(※3)、三井住友トラスト・ホールディングス、農林中央金庫、大和証券グループ本社は国内のシステム上重要な銀行(Domestic Systemically Important Banks、D-SIBs)(※4)にそれぞれ指定されており、諸原則(BCBS239)の遵守が強く求められている。

 議論をより発展的なものとすべく、各種データ規制の専門家として法律事務所の弁護士、管理会計やコーポレートガバナンスの専門家として大学教授、更に、データに係る業界団体の代表の方々にも外部有識者としてご参加いただいた。

 また、バーゼル銀行監督委員会による「実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則の取組みに関する進捗状況」が2017年3月に公表されたことを受けて、第2回には金融当局関係者にも特別ゲストとしてご参加いただいた。

 以下、各回で議論された論点を整理・報告したい。

広がりを見せるデータガバナンス対象領域

 第1回では、『データガバナンスがカバーすべき範囲』について取り上げた。

 現状は、諸原則(BCBS239)遵守を目的に、リスクデータ領域を中心としたデータ管理の高度化が進められている。それに留まらず、中長期的な視点から整備後のデータをどの様に活かしていくかを念頭におきながら、どこまでをデータガバナンスの対象範囲と考えるべきか、について話し合われた。

 各金融機関とも、今は優先順位を付けながらリスクデータを含めた経営情報を整備している状況にあるが、整備対応が完了した後には、高品質なデータをビジネスに活用し、持続的な成長と企業価値向上に資するようにすることを考えていかなければならない、との意識が高く、RegTech、FinTech、AIなど新しい技術の活用に向けた取組みを視野に入れていることが判った。さらに、規制強化が進むアンチマネーロンダリング(Anti-Money Laundering、AML)や顧客確認(Know Your Customer、KYC)等のコンプライアンス分野、EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、GDPR)(※5)といった個人情報保護なども視野に入れた対応が必要との認識を共有した。

 その中で、「諸原則(BCBS239)以降、次々と導入される新規制には対応せざるを得ないが、放っておくと個別対応になりがちで手間とコストがかかる」、「個別規制を超えた枠組みでデータ整備を考え、効率的に対応していかなければ、他のグローバル金融機関に競争力で差をつけられてしまう」との懸念が聞かれた。

 データ管理の高度化を進めるにあたり、データガバナンスの取組みに対する理解、言い換えれば、データ管理の必要性および重要性を個別エンティティ内で幅広く理解してもらうために、データ責任者としてのCDOやガバナンスの担い手であるDMOがどのような役割を果たすべきか、について活発な意見が交わされた。あるべき姿として、連携がスムーズでないと指摘されることが多い、事業部門とIT部門の間を繋ぐ役割が期待されている、という意見があった。また、経営層にデータ管理についての認識を持ってもらうためにはデータ文化を醸成していかなければならず、それに向けた働きかけが求められているとの見解で一致した。

 経営層の認識向上については、日本は欧米に比べて単一文化・単一思考の傾向が強く、それほど証拠や証跡を用いなくても意思疎通がしやすい土壌があり、それ故にデータに裏付けされた経営判断がされにくいのではないか、との指摘もあった。データガバナンスの導入が、規制対応やリスク管理といった、やらねばならない「守り」の対応としてだけではなく、収益管理やマーケティングなどの「攻め」に繋がり、経営ビジョンの実現に資するものであると、経営層に理解してもらうための働きかけも必要、という認識も見られた。

データガバナンス高度化実現に向けた環境作りとは

 第2回は、第1回で議論されたデータガバナンスの対象範囲を前提として、データ管理の高度化実現にむけてどのようなことに取り組むべきか、どういった体制が求められるか、について議論が行われた。

 諸原則(BCBS239)で求められているリスクデータだけでなく、財務やコンプライアンス等も含む広範な範囲を検討していく必要性が確認されたが、すべてに等しく対応するのは非常に困難であることから、データの重要性に応じた高度化の基準設定が必要との意見が聞かれた。また、多くの関係部署と協働していくことが求められ、それぞれの役割を整理していくことも必要になることから、高度化実現に向けては、経営層がデータ管理の重要性を理解し、正しいデータの維持・管理にコミットし、関連部署を牽引することが重要だ、との認識に至った。

 経営層からの理解を得るには、CDOやDMOが、経営判断にあたって必要となるデータを的確に把握し準備・提供できる体制を構築することが求められる、との指摘があった。自身の判断が正確なデータで裏付けされ、当該データが直ちに提示可能となることで、経営層は自信を持って決断できることとなり、データ管理の重要性や必要性に対する理解が進むと考えられるからである。

 そうした体制の構築には、データ生成プロセス(入力から加工の状況)の可視化を実現し、データの正確性を担保することが重要になる、との意見が多かった。そのためにはデータ定義の一元化やディクショナリ作成など、実務面での具体的な対応が必要となるが、この点では現状あまり進展がないように見受けられる、との問題意識が聞かれた。理由の一つとして、金融機関にそうしたノウハウがあまりないことが挙げられた。欧米では、金融機関の間でデータ管理にかかる情報交換・情報発信を行う場が多く見られ、ノウハウの蓄積に貢献している。日本でも本ラウンドテーブルのような場を積極的に活用し、業界やエンティティを超える汎用的な部分については情報を共有することで、データガバナンス高度化を効率的に促進していけるのではないかという提案があった。

 一方で、個別金融機関の競争力にかかわる部分については、独自戦略に基づいて高度化を進めるのが望ましいとの指摘もあり、二元論で対応すべきという見解に至った。

ガバナンス体制を支えるデータ人材

 第3回は、データ人材をテーマとし、データ利活用の観点から求められるスキルを持つデータ・プロフェッショナルをどのように育てていけばよいのか、を中心として議論を行った。

 第2回で取り上げたデータ管理体制の構築にあたっては、それを支えるデータ人材が不可欠である。その認識に基づき、データアナリストやデータサイエンティストをどのように確保・育成していくか、が論点となった。また、今後の利活用などのデータ戦略に沿って、今あるデータをどう保持すべきかという観点でデータ・モデリングや管理体系を考えられる人材も重要という意見も聞かれた。

 大きな問題として認識されたのは、日系金融機関はリスク管理やシステム構築などについて外部人材を使う割合が高く、内部にノウハウが残りにくいことであった。また、外部人材は金融機関の実務経験が乏しいケースが多く、ビジネスとIT双方のナレッジを持ち合わせる人材が内部・外部ともに少ないことも指摘された。

 データサイエンティスト協会では、データサイエンティストを、「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」の3つのスキルを持ちあわせるプロフェッショナル、と定義している。また、このスキルセットを持つ「棟梁」レベルの人材が、現状の日本市場では非常に少ないことを指摘している。

 日系金融機関における人材育成は、これまでゼネラリストを指向していたが、今後は専門人材もキャリアパスとして考えていくべきではないか、との意見が多く出た。しかし、データエンジニアリング等のスキルをもった人材を採用した場合でも、ローテーションを前提とした現状の人事システムでは、そのまま専門分野を強化していくことは困難ではないか、との懸念も聞かれた。

 また採用についても、これらスキルセットの素養を持つ人材は、金融機関ではなく、データ分析に専念できる企業への就職を選択することも多く、既にそういった企業間では人材争奪が始まっている。内部育成を目指すという声も複数の参加者から聞かれたが、ビジネスの理解は不可欠であるため何らかのローテーションは必要との意見もある。全体としては、専門分野を強化しつつ、ビジネスとITの双方を理解するブリッジ人材として育成できるよう今後検討していかなければいけない、との見解で一致した。

データ文化の醸成を目指して

 3回の議論を通じて、データ文化の醸成が大きな目標として掲げられた。参加者からは、こうした文化は関連する施策等を通じて徐々に理解が深まっていくものであり、時間をかけて引き続き取り組んでいく、との決意が聞かれた。また、今後の方向性として、規制対応および事業継続・収益拡大に向けた利活用を想定し、広い視点でのデータ整備および管理の高度化を検討していくべきだ、ということが確認された。

 同時に、上記の実現に向けては経営層による理解とコミットメントやリーダーシップが不可欠であり、CDOやDMOからの働き掛けが重要になる、との認識で一致した。経営層には「経営判断上、このデータが必要だ」と明確に指示できるような「データに基づいた経営のプロ」を目指してもらうべきだ、との意見も聞かれ、働きかけを通じたインセンティブ付けが期待される。

 データ人材の採用および育成にかかる検討は、現状の人事制度に大きな影響があると想定される。ここでも経営層の理解とコミットメントやリーダーシップは不可欠であり、データ文化の醸成が求められるだろう。外部人材を含め、データ・プロフェッショナルが少ないと言われる現状を踏まえ、「エンティティの内外を問わず、業界全体で人材のエコシステムを作っていきたい」との意見も聞かれた。

 最後に、「データ利活用はアイディアを持つ現場単位で進むことが多く、一方でデータ管理は全社的に組織横断で行われる。データガバナンスの世界とは、この縦・横で通す軸が異なる点をどう管理するのかということではないか」とのコメントがあり、どちらの軸にも必要な“データ品質管理”を核として検討していくのが良いだろう、との見解で一致した。

 本ラウンドテーブルでは、データ文化、関係部署との役割分担および連携、データ人材、経営層による理解とコミットメントやリーダーシップなどの事項がエンティティを超えた課題として共有され、大きな方向性を導き出すことができた。データ管理高度化への取り組みが先行する欧米金融機関でも、データガバナンスのあり方は未だ定まっておらず、その範囲や方法については議論が交わされている。最近では、守りとしてのデータ管理が一段落し、攻めとしての利活用への取り組みが進んでいるが、その中ではデータ品質に問題がありデータ管理を見直さざるを得なかった、という話も聞かれる。データの正確性という点では日系金融機関の方が秀でているとも感じられ、それを活かしたガバナンスの形があるのではないだろうか。本ラウンドテーブルの議論でも懸念されていたように、数多くの規制が施行されて事業環境が大きく変動する中、正確性を損なわない範囲で一元的なデータ管理をどう効率的に実現するか、に向けた検討はますます重みを増してくる。データを事業資産として攻めにも守りにも使いこなせるスキーム確立にむけた検討を深めていきたいと思う。

1) 実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則(BCBS239):バーゼル銀行監督委員会が2013年1月に公表。銀行のリスク管理実務と意思決定プロセスを向上させるため、銀行のデータ集計能力と内部のリスク報告実務を強化することを企図したもの。
2) チーフ・データ・オフィサー、データ管理部署:金融機関等のデータガバナンスやデータ管理について管理責任を持つ経営幹部、およびそのスタッフ部署を指す。データ管理戦略の策定、データ品質やデータ処理プロセスに関する方針策定などを組織横断で推進する役割を担う。
3) 金融安定理事会(FSB)の選定に沿って、自己資本比率規制に関する告示(1柱)に基づき、グローバルなシステム上重要な銀行として金融庁が指定。
4) 金融安定理事会(FSB)の選定に沿って、自己資本比率規制に関する告示(1柱)に基づき、国内のシステム上重要な銀行として金融庁が指定。
5) 個人データ(personal data)の処理と移転に関するルールを定めた規則。1995年から適用されたEUデータ保護指令(Data Protection Directive 95)に代わり、EU加盟諸国に対する法規制として2016年4月に制定され、2018年5月に施行予定。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

羽生恵令奈

羽生恵令奈Elena Habu

金融デジタル企画一部
上級コンサルタント
専門:投資銀行事業の調査

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