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信用のプラットフォーム「芝麻信用」

2017年10月号

ビジネスIT推進部 上級研究員 柏木亮二

急速にキャッシュレス化が進む中国における決済プラットフォーム、アリペイが提供する「芝麻信用」は、中国の新たな社会インフラとして存在感を増している。個人の様々な行動履歴に基づいた信用スコアは、金融の領域にとどまらずシェアリングエコノミーなどの新たな経済を支えるインフラとなっている。

急速に進展する中国のキャッシュレス化

 2004年にサービスを開始したアリペイ(支付宝、Alipay)は、2009年にアリババプラットフォーム上でモバイル決済アプリの提供を開始した。2016年には1.75億件/日の決済を処理したが、うち60%がモバイル上で行われた決済である。アリペイのユーザーは、2017年6月時点で5.2億人で、2016年の年間決済総額は約187兆円にものぼり、ユーザーの決済額平均は日本円で約32万円に達している。

 アリペイの決済領域も飛躍的に拡大している。当初のEC決済から始まり、その後QRコードを活用したモバイル決済の登場により、物販や飲食などのリアル店舗にも拡大し、今では街の屋台でもQRコードによる決済が利用できるまでになっている。さらに納税や各種公的支払い(交通違反金の収納も可能)や、年金授受、電話料金など各種公共料金の支払い、列車や飛行機、レンタカー、ホテルなどの予約・支払い(デポジット機能も含む)、個人間の中国版お年玉「紅包(ホンバオ)」や慶弔金などの授受、個人間での金銭の貸し借り、割り勘などにまで利用できる、まさに「現金」をほぼ完全に代替したといえる水準に達している。

個人の行動データに基づく信用スコア「芝麻信用」

 アリペイの付帯機能として、2015年に個人の行動データを元にした「芝麻信用(Zhima Credit)」サービスが始まった。スコアリングには以下のような項目が利用されていると言われている。

  • アリペイでの支払い履歴
  • 個人の学歴や職歴
  • マイカーや住宅など資産の保有状況
  • 交遊関係など

 芝麻信用にはアリペイ上の決済情報だけでなく、アリペイを運用するアリババグループのSNSサービスなどでの人間関係のデータも含まれている。また、学歴や保有不動産などのアリペイ上で把握できない項目はユーザー自らがオプトインによる入力で情報を提供している。

 芝麻信用は350点から950点の範囲で信用スコアを算出する。この信用スコアは以下の5つの領域それぞれの指標を総合的に計算して点数化したものである。

  1. 身分特質(ステイタスや高級品消費など)
  2. 履約能力(過去の支払い履行能力)
  3. 信用歴史(クレジットヒストリー)
  4. 人脈関係(交友関係)
  5. 行為偏好(消費面の際立った特徴)

 信用スコアは上から、950~700が「信用極好」、699~650が「信用優秀」、649~600が「信用良好」、599~550が「信用中等」、549~350が「信用較差(やや劣る)」と分類されている。正確なスコアリングの分布は公表されていないが、550から699の範囲に大半が分布すると推計されている。

芝麻信用のスコアに応じて特典が受けられる

 ユーザーはこのスコアリングの点数によって様々な特典が受けられる。特にスコアが高く「信用がある」とみなされるユーザーは、生活上の様々なメリットを享受できる。その中の一つに、レンタルなどのデポジットの多くが不要になるというメリットがある。中国では公共サービスも含め、デポジット(事前預託)が必要なサービスが大半である。レンタカーなどのレンタルサービスをはじめ、例えば病院での診察や、公共図書館での本の貸出にもデポジットが必要である。芝麻信用の信用スコアが高いユーザーはこれらのデポジットが不要になる。病院などの料金の後払いも可能で、また、最近中国の大都市で爆発的な人気を誇るシェアサイクルなどのデポジットも不要となる。当然ながら、アリペイを提供しているアントフィナンシャルグループの提供する金融商品で金利優遇などのサービスも享受できる。変わったところでは、ある得点以上の会員しか参加できない婚活サイトなども登場している。

芝麻信用のビジネスモデルの強み

 芝麻信用のビジネスモデルには他社が容易に真似できない強みがある。まず評価の具体的基準を公表する必要がないという点があげられる。決済履歴だけでなく、多用なデータを活用してスコアを算出するため、特定の行動が信用スコアにどのように反映されているのかがわかりにくい。そのためユーザーは生活全般を律することが求められる。また、信用度のスコアが上がるとメリットが大きいので、「自分は好条件」と思っている人ほど積極的に利用・入力する傾向がある。良質な顧客層を探さなくても、向こうから来てくれるのである。

 一方で、スコアの低い顧客層向けのサービス提供も可能である。クレジットヒストリーを改善するための少額ローン提供や行動改善マーケティングなどによって、スコアを上昇させたいユーザーのニーズを取り込んでいる。

信用のプラットフォームとなった芝麻信用

 芝麻信用の信用スコアは外部企業も活用可能である。利用する事業者は、個人情報へアクセスすることなく、また自社による追加分析なしで良質な顧客層へのアクセスを確保できる。

 この芝麻信用はシェアリングエコノミーの活性化にも寄与している。先程のシェアサイクルでのデポジット免除のような活用以外に、特にP2P型のシェアリングエコノミーの「評価システム」として活用され始めている。例えば民泊のマッチングプラットフォームであるAirbnbは、アカウント登録の際に芝麻信用のスコアを参照するようになっている。シェアリングエコノミーの中でも特に個人対個人(P2P)の取引では、お互いの信頼関係の構築が決定的に重要である。あらゆる行動を補足して評価する芝麻信用では、容易にスコアを操作することはできない。このため、芝麻信用は信用できる「評価システム」として機能し、シェアリングエコノミーを活性化させている。

 日本でも民泊の規制緩和が行われるなどシェアリングエコノミーの機運が高まっている。筆者は中国のキャッシュレス決済と信用のプラットフォームは、日本のシェアリングエコノミー発展に貴重な示唆を与えてくれていると考えている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

柏木 亮二

柏木亮二

ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:IT 事業戦略分析

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