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中央銀行発行デジタル通貨の可能性

2017年10月号

NRIアメリカ 主任研究員 西片健郎

Bitcoinを始めとする仮想通貨への大きな注目を背景として、各国の中央銀行においても中央銀行自らが発行するデジタル通貨の研究が進んでいる。

中央銀行の間で関心が高まるデジタル通貨

 2015年にイングランド銀行が中央銀行発行デジタル通貨の研究を重要テーマとして位置づけた(※1)ことを始めとして、各国の中央銀行で中央銀行が発行するデジタル通貨の研究が進んでいる(※2)(※3)。

 一般に、中央銀行発行通貨は、中央銀行のバランスシートにおける負債であり、銀行券と当座預金の二つに大きく分類される。中央銀行発行デジタル通貨も同様に中央銀行の負債であり、かつ電子的な決済手段であると考えられる。

 こうした動きの背景には、昨今のBitcoinを始めとする非中央集権型の仮想通貨とそれを支える技術に注目が集まっていることがある。非中央集権型の仮想通貨は、銀行などの決済業者を迂回して既存の金融システムの外側で電子的な決済が行える点に最大の特徴がある。物価の安定と金融システムの安定を目的とする中央銀行は、金融政策を始めとする様々な手段を通じて目的の達成を目指すが、仮に中央銀行を介さない非中央集権型の仮想通貨が本格的に民間の決済手段として普及した場合、それらの中央銀行の持つ手段の影響力が弱まる可能性がある。従って、中央銀行が仮想通貨やそれを支える技術の動向を注視するのはもちろんのこと、対抗策としての中央銀行発行デジタル通貨について研究を進めることは、当然の成り行きと考えられる。

中央銀行発行デジタル通貨の論点

 日本銀行のレポート(※4)によれば、中央銀行がデジタル通貨を発行することの一般的なメリットは、ユーザー利便性の向上、金融政策の有効性の確保(※5)、通貨発行益減少の防止など(※6)に大別されるとしている。一方、課題として、中央銀行デジタル通貨が一般の個人にも広く供給されるとした場合、民間銀行預金からデジタル通貨への資金シフトが起こり民間の資金仲介が縮小する可能性があることや、デジタル通貨の口座をどの主体(個人、金融機関など)に提供するべきかという問題、デジタル化された決済情報を中央銀行がどのように扱うべきかといった問題などが挙げられている。イングランド銀行では、中央銀行によるデジタル通貨の発行がマクロ経済に与える影響に関する研究(※7)などにも取り組むと共に、関連する研究テーマを公開している(※8)。

 それでは、中央銀行は自らデジタル通貨を発行するべきなのだろうか。また、発行するとすれば、その通貨はどのような要件と機能を満たすべきなのだろうか。カナダ銀行は、この問いのガイダンスとなるフレームワークを提供している(※9)。

 このフレームワークでは、中央銀行がデジタル通貨を発行するべきかという問いに対して、必然性と経済合理性がある場合に限り、発行を検討する意味があるとしている。特に、中央銀行によるデジタル通貨発行の必然性の条件として、第一に、決済システムの効率化等の目標が民間決済サービスでは実現できないこと、第二に、デジタル通貨の発行以外に効果的な手段がないことを条件としている。デジタル通貨の発行に必要な投資額と得られるメリットを経済合理性にもとづいて判断することも当然要求される。

 また、中央銀行がデジタル通貨を発行する場合の満たすべき要件と機能については以下のような項目が挙げられている。まず要件については、決済システムの効率化、デジタル通貨の普及、AML(anti-money laundering)をはじめとする規制要件などが考えられる。こうした各要件に対して、匿名性、利用上限額、取引手数料、ユーザーインタフェース、対応するデバイスの種類、流通チャネル、取引の認証方法、決済スピードなどの観点から、どのような機能が求められるかの検討が必要となる。例えば、デジタル通貨の普及という要件に対しては、手数料が安く決済が高速で様々なデバイスから利用できる、という機能が求められる。

 また、これらの機能を適切に設計していくことで、トレードオフの関係にある要件をバランスさせていくことが重要である。トレードオフの例として、通貨の匿名性を向上させることは、利用者に安心感を与えデジタル通貨の普及をもたらす一方、犯罪や租税回避などが増え社会的コストの増加に繋がる可能性がある。

 カナダ銀行は、2017年7月に開催されたP2PFinancial Systems International Workshop(※10)において、このフレームワークの応用研究として、ベンチマークとなるデジタル通貨の具体的な要件と機能を想定し、そこから導き出されるインプリケーションを紹介している。例えば、現金をモデルとしたデジタル通貨を発行した場合のインプリケーションとしては、通貨発行益、金融政策、金融システムへの影響は軽微である一方、基本的な金融サービスへのアクセスが困難な人々にもサービスが提供しやすくなるという、金融包摂(financial inclusion)に資するメリットと、地下経済取引の拡大を促進するデメリットが指摘されている。また、本研究の結論として、決済システムの効率化、もしくは競争の促進を除いては、中央銀行がデジタル通貨を発行する積極的な理由は見当たらないとしている。そしてデジタル通貨の発行は非常に難易度の高い問題であり、中央銀行は慎重かつ段階的に調査研究を進めていくべきであると締めくくっている。

次世代金融システムの探求の始まり

 冒頭に述べたように、中央銀行の関心の高まりの背景にはBitcoinを始めとする仮想通貨の台頭がある。より大きな視点で見れば、既存の金融システムの外側に新たな金融システムを作り出そうという仮想通貨の動きと、これに対して既存の金融システムを自ら変革しようとする中央銀行によるデジタル通貨発行という二つの動きがあるともいえる。

 通貨は金融システムの根幹であるが、その通貨の歴史は技術イノベーションや社会環境による変化の連続である。現在の中央銀行を中心とする通貨と金融システムの歴史もたかだか数百年程度とさほど古い物ではなく、現在起きている技術イノベーションや社会環境変化により、近い将来大きく姿を変えたとしても何ら不思議ではない。そうであるなら、今、次世代の金融システムを我々が望む形でデザインできる千載一遇の機会が到来している、と言えるのかもしれない。

1) Bank of England, “One Bank Research Agenda”, Discussion Paper, February 2015
2) ほかにブロックチェーン・分散型台帳技術の応用に関する研究にも関心が高まっているが、本稿では中央銀行発行デジタル通貨を取り上げる。
3) 各国の中央銀行の取り組みについては以下参照。国際通貨研究所「中央銀行によるブロックチェーン技術を活用した資金決済システム構築やデジタル通貨発行への取組み」2017年5月。
4) 日本銀行「中央銀行発行デジタル通貨について」2016年11月。
5) 仮想通貨の利用が拡大し、中央銀行発行通貨の利用が縮小すると、金融政策の有効性が低下する。中央銀行が自らデジタル通貨を発行することで、この事態を防ぐことが可能になるとの主張である。また、中央銀行発行通貨のデジタル化により、マイナス金利の金融政策が可能になるとの主張もある。
6) 中央銀行発行通貨のシェアが小さくなると、通貨発行益が減少する。中央銀行自らがデジタル通貨を発行することで、これを防止できるとの主張である。
7) John Barrdear and Michael Kumhof, “The macroeconomics of central bank issued digital currencies”, July 2016
8) http://www.bankofengland.co.uk/research/Documents/onebank/cbdc.pdf
9) Ben S. C. Fung and Hanna Halaburda,“ Central Bank Digital Currencies: A Framework for Assessing Why and How”, November 2016
10) P2P金融システムをテーマとして、学者、金融当局、実務家、スタートアップ企業などが集まり、研究成果発表やディスカッションを行うワークショップ。2015年から毎年開催。今年度は、中央銀行発行デジタル通貨、P2Pレンディングなどが主なテーマであった。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

西片健郎

西片健郎Takeo Nishikata

NRIアメリカ
主任研究員
専門:金融先端技術の調査研究

注目ワード : 仮想通貨

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