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FRBのバランスシート縮小効果の再検討

2017年10月号

未来創発センター 戦略企画室 上級エコノミスト 佐々木雅也

FRBのバランスシートの縮小がようやく始まるが、この数年間で新興国やユーロ圏の経済環境が改善しており、新興国の通貨安やドル高といった金融市場の混乱が再び起きるかどうかについては一考の余地がある。

ようやく始まるFRBのバランスシート縮小の影響は

 2013年5月にFRBが債券購入額の段階的縮小を示唆したことから始まった同行の金融政策の正常化。FRBはそこから足掛け4年余りでようやく、大きく膨らんだバランスシートの縮小にまで漕ぎ着けようとしている。

 だが、FRBによる金融政策の正常化の進展は、それに伴う副作用と表裏一体である。正常化の最初の段階である2013年には、米国の長期金利が2%手前から3%にまで急上昇したことで株安や新興国の通貨安などが起きた。そして、次の段階として米政策金利の利上げが意識され始めた2014年の後半には、今度は米ドルが急上昇して米国経済減速の一因となった。

 そのため、今回、FRBがバランスシートの規模を本来の姿に戻していく過程では、これらと同じことが金融市場に起きるのではないかと懸念する向きがある。

 FRBが2013年12月に実施を決めた量的緩和の縮小と今回のFRBのバランスシートの縮小は、需給面から長期金利の上昇要因になるという点では一致している。

 量的緩和の縮小とは、長期国債などFRBが保有する債券の残高の増加ペースを徐々に落としていき、最終的には残高が一定になるようにするというものである(※1)。これは、それまで購入意欲が非常に強かった大口投資家が徐々に購入を控え始めるようなものであり、債券市場の需給軟化につながる。

 その後は、同行が保有する債券の残高が変わらないようにするために償還を迎えた債券と同じ金額をそのまま別の債券に再投資をしていたが、今回、FRBがバランスシートの規模を縮小させていく際には、FRBが再投資に回していた金額を少しずつ減らしていく(※2)。すると、その分だけFRBから債券市場に投資される金額が減ることになるので、やはり債券市場の需給バランスは悪化することになる。

見逃せない新興国やユーロ圏経済の環境変化

 しかし、FRBのバランスシートの縮小が長期金利に上昇圧力をもたらすとしても、他の市場にも前回と同じ副作用をもたらすかどうかについては、一考の余地がある。新興国や為替といった他の市場の環境が4年前と現在とで全く同じ状況であるとは限らないからだ。

 例えば、2013年ごろの新興国は、インドやインドネシア、ブラジルといった国々を中心に経常赤字が拡大しているところが多かった(図表)。これらの国々では、リーマンショック以降に実施された拡張的なマクロ経済政策によって内需が過熱気味となり、輸入が大幅に伸びた一方で、輸出は先進国の景気低迷や中国経済の減速によって伸び悩んでしまったからだ。

 経常赤字が膨らんだ新興国は、赤字の拡大分だけ海外から資金を調達する必要に迫られるが、量的緩和で新たな投資先を求めていた金融市場にとって、経常赤字国の存在は投資先として好都合だった。だからこそ、量的緩和の縮小期待によって米長期金利が上昇したときに、資金が米国に逆流して通貨安になってしまったわけだ。

 ところが、図表にあるように、その後のインドやインドネシア、ブラジルは、通貨安に対抗するための金融引き締めで経済が減速し、それに伴って経常赤字も縮小している。ということは、これらの国々は数年前よりも海外からの投資資金に依存しなくてもよくなっており、今回はその分だけ、米長期金利上昇の影響を受けにくくなっていると考えられる。

金融政策の副作用とトランプ政権の綱引きに?

 同じような環境変化は為替レートについても言える。2014年当時、為替市場で米ドルの最大の取引相手であるユーロは、同圏の景気の低迷が今よりも遥かに深刻であった。そこでユーロ圏の中央銀行であるECBは同年6月にマイナス金利政策を導入したが、その後も、同行が量的緩和政策を導入するのではないかという思惑が市場に広がっていた。このように、当時の米欧の金融政策のベクトルは明らかに逆方向を向いており、これがドル高・ユーロ安の大きな原因となった。

 ところが、現在のECBはその後導入した量的緩和政策の縮小を模索している段階であり、金融政策のベクトルの向きは、米国とは大きく変わらなくなっている(※3)。だとすれば、ドルの為替レートはECBによる量的緩和政策の縮小をめぐって揺れ動きはするものの、ドルが急上昇する可能性は、2014年当時ほどは高くないと見るほうが妥当なのではないか。

 だからといって、世界経済が米国の金融政策正常化の影響を全く受けないというつもりはない。図表にあるように、同じ新興国でも、フィリピンはこの間に輸入の急増によって経常収支が悪化しており、足元では米国の長期金利の動向により左右されやすい環境になっている。今は経常赤字が縮小している新興国でも、今後、景気の回復によって再び経常赤字が膨らんでいくことがあれば、これらの国々の為替レートはアメリカの金融政策の動向により敏感に反応することになるはずだ。

 また、米国やドイツなどの商業用不動産市場や一部の国の株式市場では価格の上昇が続いているが、これは低金利の状態が長らく続くことが前提になっている。だからこそFRBやECBは資産バブルのような状況を回避するべく、金融政策の正常化を急いでいるわけだ。もしもFRBのバランスシートの縮小開始によって長期金利が大きく上昇し、それにともなって金融環境が悪化した場合には、価格が割高になっているこれらの資産市場にも影響が出てくることになるだろう。

 一方で、金融政策正常化によるドル高の進展は、貿易不均衡の是正を目指すトランプ政権にとっては逆風となる。場合によっては、トランプ政権側からドル高に対する懸念が示されてFRBとの対立色が強まり、市場が不安定になる危険性があることも考慮しておくべきだろう。

1) FRB は2013年12月まで政府機関債やMBS(住宅ローン担保証券)の残高が毎月400億ドル、長期国債の保有残高が毎月450億ドルずつ増加するようにこれらの債券を購入していた。FRBはその後、段階的にこれらの購入額を減らしていき、2014年10月末からは保有残高が一定になるように、償還分を再投資するようになった。
2) FRBは2017年6月にバランスシート縮小の具体的な手順を公表している。それによると、縮小開始当初は、米国債で毎月60億ドル、政府機関債やMBSで毎月40億ドル、計100億ドルを上限に再投資をやめる。その後は3ヵ月ごとに、米国債で毎月60億ドル、政府機関債やMBSで毎月40億ドルずつ再投資をやめる金額の上限を引き上げていき、最終的には米国債で毎月300億ドル、政府機関債やMBSで毎月200億ドルを上限にして再投資をやめることで、FRBのバランスシートを縮小していく。例えば、米国債への再投資をやめる上限が月300億ドルに達しているときに、ある月の米国債の償還額が500億ドルあったとする。この場合、FRBは償還を迎えた500億ドルのうち300億ドル分は再投資をすることなくそのまま回収し、残りの200億ドルだけを米国債に再投資することになる。
3) ECBが8月17日に公表した7月のECB理事会の議事要旨によると、ECBは量的緩和縮小への思惑が市場に広がったことで急激に進んだユーロ高を懸念している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

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