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脳とコンピュータをつなぐ

2017年10月号

小粥泰樹

BMIとは人の能力を補ったり、拡張したりすることを目的として、人の脳とコンピューターを接続することである。医療分野では四肢麻痺患者のリハビリやALS患者の意思疎通の支援を目的として早くから研究されてきた。

しかし、2017年になって、テスラCEOのイーロン・マスク氏が侵襲型(脳にチップを直接埋め込むタイプ)のBMIを4年後を目処に実用化させると宣言したり、IT大手のFacebookがその研究機関で非侵襲型BMIによってテキスト入力を可能とする装置の開発を進めていると発表したことにより、大いに注目を集めるようになった。これまで遠い将来の話だと思っていたことが急に身近に感じられるようになり、BMIがもたらす新たな可能性や脅威について、ウェブ上でも活発に議論がなされている。

 しかし、脳の一部を電子部品で置き換えたり、脳を外部ネットワークに直接接続する世界、即ち「電脳」の世界に思いを廻らせるとしたら、日本のアニメを参考にしない手はない。例えば、筒井康隆氏原作で2005年にアニメ映画化された「パプリカ」では、BMI技術を応用して患者の夢へ医師が潜入し、心療カウンセリングを実施する技術が可能という設定になっている。この技術の誤用によって夢と現実の境目が曖昧になったり、第三者による脳内への侵入を許すような問題を浮き彫りにしている。また、ハリウッド映画「マトリックス」が参考にしたと言われる「攻殻機動隊」では、電脳社会について更に広範かつ深遠なる考察が加えられている。例えば、脳内情報の一部又はすべてを外部記憶に転送したり、逆に外部情報を脳内に取り込むことも可能となる想定の下、生物としての身体や脳が衰えてきたら脳内情報をロボットへ移管して「生き延びる」選択を可能たらしめたり、言語情報のダウンロードによって一瞬で外国語をマスターできるという夢のような世界が描かれている。その一方で、ネットワークで相互に繋がった脳の間ではテレパシー交信が当たり前となり、強いハッキング能力を持つ人物は他人の脳を乗っ取って自由自在にコントロールできる、という話も登場する。利便性と脅威の双方について分かりやすい形で表現されており秀逸である。

 さて、このような世界が本当に現実のものとなるのであろうか。イーロン・マスク氏の4年後という言葉に対しては懐疑的な者が多い。技術的に困難なだけでなく脳内にチップを埋め込むことに対する抵抗感が障害になるという見方である。しかし、どうであろう。将来、中学受験の時に楽できるという触れ込みで乳児の頭に小さなチップを埋め込む技術が喧伝されたとしたら、多くの親が飛びつく可能性があるのではないだろうか。意外にアニメの世界の到来は近く感じられる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

okai

小粥泰樹Yasuki Okai

NRIホールディングス・アメリカ
社長

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