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ロボットは“世界モデル”を獲得できるか?

2017年9月号

外園康智

ロボットが「部屋の片隅にあるボールを取ってこい」と命令されたとする。実行するには、ロボットの脳に「部屋・ボール・取る」といった記号からなる“世界モデル”を持たせ、記号「ボール」と実体「ボール」とをセンサー等によって対応付けることが必要だ。

 “記号”と実体とを対応付けることを、ロボット工学ではシンボルグラウンディング問題(記号接地問題)と呼ぶ。広く言うと、ロボットが記号(=それが表す概念)の“意味”を理解できるかを問う難問だ。例えば、ロボットに「○」がボールを表すと教えても、“ボール”の概念を理解していなければ無理だろう。また「3次元の物体で、丸く、転がるもの、サッカーで蹴るもの」と教えたとしても、野球のボールを“ボール”と理解するかは分からない。

 設計者からの教育ではなく、ロボットが“身体”を通した経験や学習から、自律的に記号の意味を獲得するアプローチがある。記号創発ロボティクスと呼ばれ、赤ちゃんの脳が世界を学ぶプロセスに似ている。脳に近いディープラーニングに、ボールやそれ以外の画像を学習させると図形の区別ができるようになり、ボールの意味を理解しているように見える。しかし、ディープラーニングがどう区別したかを自然言語で説明することは難しい。独自に見いだした、階層構造をもつ確率的な“特徴量”を使っている可能性が高い。このように、“記号”は、“世界モデル”内の他記号との意味関係を表すことはできるが、実体との接地には記号処理だけでは足りず複雑な“計算”が必要なのだ。

 数学における記号の扱いは明確だ。19世紀終わりに、ヒルベルトは「幾何学の基礎」の中で、点や直線、平面等の基本概念には定義を与えず「無定義用語」とした。それらの基本概念間で当たり前に成立する関係を公理とした。ここでは「直線と直線の交わる部分を点とする」の“点”を“りんご”に、“直線”を“レモン”に置換えても公理として成立する。つまり、数学記号に現実の実体との対応はなく、数学自体は公理から出発して定理を証明するゲームに過ぎない。

 金融の世界でみると、貨幣は実体経済に対する記号だが、金との交換保証を失ってからは、経済システム内の信用の中でシンボルグラウンディング問題を解決しているといえる。

 ところで、人間が宇宙を理解するというのは、何を意味しているのか?すべての現象を自然言語で表すこと、数式で表すこと。数学が記号ゲームだとしても、本当に宇宙自体とシンボルグラウンディングしていないと言えるのか?究極の問いに、神は答えてくれず、自ら学んでいくしかないのだろう。。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

外園康智Yasunori Hokazono

金融デジタル企画一部
上級研究員

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