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中国における金融監督管理改善に向けた動き

2017年9月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

5年に一度の全国金融工作会議が7月に開催され、国務院金融安定発展委員会の設立が決まった。金融業態別の縦割り行政を改善し、金融商品・サービスの機能ごとの規制に移行することを目指すと見られる。一方、市場規律を働かせる環境を作ることも重要である。

限界が明らかな現行の金融監督管理体制

 5年に一度の全国金融工作会議(以下、会議)が7月に開催され、今後の金融行政の方針が打ち出された(※1)。

 この5年間を振り返ると、中国のインターネット金融元年と言われる2013年前後から、インターネット金融が大きく発展した。現行の規制体系の枠外にあるEコマースの会社等の金融部門への進出により、従来から弊害が指摘されていた金融業態別(銀行・証券・保険)の縦割り規制の限界はさらに明らかになった。

 例えば、2015年の株価の乱高下の背景には、インターネット金融を利用して、規制当局の目の届かないところで事実上の株式の信用取引が拡大したことがあった。こうした中で、今年の会議が金融監督管理のあり方についてどのような策を打ち出すかは、年初来市場で注目されていた。

 会議は、①金融は実体経済に貢献する、②金融リスクを抑制する、③金融改革を深化させるという3つの任務に言及した上で、重要原則として、金融が本源に回帰して経済社会の発展に貢献すること、金融市場・金融機関・金融商品体系を改善すること、監督管理を強化して金融リスクを防止・解消する能力を引き上げること、市場に金融資源の配分における決定的な役割を発揮させること、の4つを挙げた(※2)。

 上述の任務に沿って見ていくと、第一に、金融の本源回帰については、中国では間接金融の比重が高く、しかも、銀行が中小企業向け融資に積極的でないことが以前から問題となっている。加えて、過去数年は、規制回避や短期的な利益追求のために、銀行間で資金を回す「同業者取引」が増え、金融取引が実体経済から遊離していることも問題視されている。このため、会議は直接金融(資本市場)の発展をさらに促すと同時に、金融包摂(Financial Inclusion)を発展させ、小・零細企業や農業等への金融サービスを強化することを打ち出した。

 第二に、金融リスクの防止である。金融リスク防止は今年のマクロ経済政策運営の重点でもあり、会議は債務比率の引下げ、ゾンビ企業の処理、地方政府債務の増加のコントロール、インターネット金融に対する監督管理の強化等に言及した。

 なお、地方政府債務については、地方政府の隠れ債務問題が再び浮上している。民間活力利用や地方財政負担の軽減のために導入が盛んな地方政府のPPP(Public Private Partnership、官民協力モデル)において、地方政府が民間部門(国有企業を含む)に対して、裏で元本や利回りを保証している、つまり、事実上の地方債務が生じているケースが一部で見られている。

国務院金融安定発展委員会の設立

 第三に、金融改革の深化である。ここでは、国務院金融安定発展委員会の設立が注目される。

 ここ数年間、中国のシャドーバンキングは複雑化し、潜在的な金融リスクとなっている。中国のシャドーバンキングは、主に、銀行が融資規制(不動産向け等)・自己資本比率規制を回避するために行う迂回融資である。銀行は個人向けに資産運用商品を発行し、その資金は信託会社や証券会社等の資産運用商品を通して迂回融資される(これは銀行のオフバランス取引である)。ここでは金融業態別の縦割り行政下で業態により規制が異なることも利用される(規制アービトラージ)。また、ここ数年は、投資リターンの引上げ等を目的に、迂回ルートの中に、PEファンドやファンドオブファンズ(FOF)等を組み込むケースが見られ(※3)、また、最近まで規制がかけられていなかったインターネット金融等も利用されている。

 縦割り規制の下では、銀行業監督管理委員会(銀監会)、保険監督管理委員会(保監会)、証券監督管理委員会(証監会)等の個々の規制当局が、金融業態を跨ぐ資金の流れ全体を把握・検査するのは難しい。また、迂回ルートの参加者が増え複雑化する中では、誰が(特に個人投資家が)、最終的に何に投資し、リスクがどの程度なのかがわかり難くなっている。これは投資家保護や金融システムリスクにかかわる問題である。

 こうした状況を受けて、会議は、国務院金融安定発展委員会を設立し、規制当局である一行三会(人民銀行、銀監会、保監会、証監会)間の協調を強化するとした。

 これまでも縦割り行政の弊害が指摘される中で、2013年には一行三会の協調強化のため金融監管協調部際聯席会議制度が設立されている。今回はこの流れの中でさらに有効な組織を目指すものと見られる。ここでは政策決定の権限を持つことや執行を担保するメカニズムを持つことが必要であろう。

 市場では金融安定発展委員会の位置づけやメンバーについていろいろな憶測が出ているが、いずれにしても、同委員会は、金融業態間で異なる規制を、インターネット金融等の新たな金融も含めて統一する方向に向かうと見られる。これにより、同じ機能を持つ金融商品・サービスに対して、業態によって異なるルールが適用されることから生じる不公平や規制アービトラージを排除する。また、金融データ情報の共有等も進める。これにより資金の流れの全体像を把握し、投資家保護を強化し金融システム全体のリスクを把握する。

 このように規制や規制インフラを整えた上で、市場規律を働かせることが重要である。中国の金融リスクとして経済全体の負債比率が高いことがあるが、一つの背景として個人投資家やシャドーバンキングに参加する金融機関等が、最終的には銀行や(上の例にあるように)地方政府が元本を保証してくれるはずだという認識を持っていることがある。新たな委員会は、情報開示や安全網のあり方等も整備した上で、市場規律を働かせることが必要となるが、これにはなお時間を要することになろう。

1) 7月14、15日に北京で開催。今回は5回目で、前回の開催は2012年1月。
2) 会議における習近平国家主席の講話による。
3) 詳しくは、2017年1月号「銀行のオフバランス取引リスクの把握に向かう中国」参照。各資産運用商品の規模については図表参照。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健

神宮健Takeshi Jingu

NRI北京
金融システム研究部長
専門:中国経済・金融資本市場

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