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金融サービスを顧客の懐へ-チャットボットとスマートホームデバイス-

2017年9月号

NRIアメリカ シニアリサーチアナリスト ジョシュア・チョイ, マキコ・タナカ

顧客の近くで金融サービスを提供したいと考えている金融機関にとって、スマホ上のチャットボットやスマートホームデバイスは極めて有効なチャネルである。現状のサービスレベルはまだ十分とは言えないが、急速に有効性と重要性が高まる気配があり、金融機関としては準備を怠るべきでない。

 チャットボットやスマートホームデバイスといったいわゆるIoT関連ソリューションが金融サービスにどのような恩恵をもたらすかという点については慎重な声も多く、これらに対する期待は未だ低い状態に留まっている。しかし、金融機関が消費者の日常生活になるべく近い場所でサービス提供しようという動きは、オンラインバンキングやATMに言及するまでもなく、既に始まっている。Gartnerのレポートに拠れば2020年には消費者による取引の85%は非対面になると予想されており、金融機関にとってIoT対応は極めて重要な課題として認識されるようになるだろう。特に、最近のチャットボットやスマートホームデバイスの進化の具体的な状況を見てみると、金融サービスにおけるその有効性は次第に証明されつつあるように思われる。

チャットボットはAI活用で更なる進化

 これまでのチャットボットは、予め決められた選択肢の中からユーザーが問い合わせ内容を指定するレベルに留まっているものが多く、ユーザーの意図を把握するという基本的な点においてさえ、及第点をとれるものは少ない。このような認識に基づいて幾つかの金融機関ではAIを活用してチャットボットの高度化を試みている。

 その一つとして、Capital OneとMastercardはNLP(自然言語処理)機能の強化に力を入れている。例えば、Capital OneのEnoでは、「u」や「r」や「pmt」と表記したテキストをそれぞれ「you」、「are」、「payment」と解釈するなど、NLPによって表記上の様々なブレを吸収することができる。Mastercardが外部のAI企業Kasistoと共同で開発したKAIには、選択肢形式でなく自由形式での問い合わせを可能にする機能が実装されている。両者ともに共通しているのは、チャットボットを顧客の会話相手として位置付けつつも、顧客担当者のような包括的な役割を担わせるのではなく、むしろテラーの代替と考えていることである。

 このようなNLP機能の強化という方向性は、その成果が目を引き易いこともあり、他の金融機関も力を入れていくことになるだろう。しかし、NLPが将来的にもサービスの差別化要素になるのか、という視点で考えると、個々の金融機関が独自に開発すべきかどうかには疑問が残る。実際、既にWells FargoはFacebookのMessengerプラットフォームを活用してチャットボットにNLP機能を付与している。今は独自に作り込む動機も存在するが、いずれNLPのような技術は標準化され、より高い技術水準のものまでプラットフォームとして提供されることが想定される。金融機関が自らのサービスを差別化しようと考えるなら、NLP強化以外にも目を向ける必要があるだろう。

 そのような取り組みとして注目されるのは、顧客データの分析に基づいてサービスをパーソナライズする動きである。Bank of Americaは2017年第4四半期にEricaという名のチャットボットをリリースし、その上で個々の顧客属性に基づいた金融アドバイスを提供する計画である。Ericaは、顧客口座の運用パフォーマンスの結果に応じたアドバイスを提供するだけでなく、顧客の日頃の金融活動を把握した上で、「毎月の平均的な出費」などの情報に基づいて、「これくらいの金額なら貯蓄可能です」といった提案を自律的に行うことができるという。また、顧客のクレジットスコアの変化を把握する機能を実装して、ローン機能の提供も視野に入れているとのことだ。データ分析に基づく「ワンストップサービス」の実現を図っている点で、現時点で最も進んだ取り組みの一つということができるだろう。顧客データの分析と連携した統合的なサービスの実現は一朝一夕では実現できない。今後、益々、その取り組みの優劣が金融機関の差別化要因として重視されるだろう。

金融アドバイスに有効なスマートホームデバイス

 スマートホームデバイスも、チャットボット同様に金融業界ではその可能性を疑う声は未だ多い。Capital OneやAMEXが早々にスマートホームデバイスによる支払いサービスを開始した後、それに続く具体的なサービスが見えてこないということが懐疑的な見方の背景にあるのかもしれない。しかし、スマートホームデバイスの普及をリードするAmazonの動きを見ると、日々の進展には著しいものがある。例えば、AmazonはEcho関連の事業提携を急速に拡大してきており、2016年1月には1,000個の機能しか存在しなかったのが、2017年6月には15,000にまで増加している。また、Amazonは2017年になってカメラ機能を搭載したEcho Showをリリースし、家族内や友人間でのビデオチャットニーズを取り込もうとしている。これにより、若者中心だったユーザー層がネットワーク効果を通じて年配層へも拡大していくことが予想され、Echo上で金融サービスを提供したい金融機関にとって魅力が高まっていると言える。

 実際、一部の先進的な金融機関はAmazon Echo上で金融アドバイスの提供を模索し始めている。例えば、FidelityはEcho上で金融関連情報の提供を始めており、現在は株価等の市況情報を提供できる程度の限定的なサービスだが、将来的には顧客データを反映したサービスにしていく予定である。また、ITベンダーのFISは、Amazon Echo上で金融機関が顧客向けアドバイスを提供するためのプラットフォーム構築に着手していると表明している。当該プラットフォームでは、ユーザーの消費性向等のデータに基づいて、「車を購入する余力があるかどうか」といった質問に回答できる機能を提供するという。更に、UBSは2016年からAsk UBSというサービスをAmazon Echo上で開発中で、「アメリカ経済の今後はどうなるか」などの質問に答えることができる。併せてUBSでは顧客の表情をAIで解析して金融アドバイザーの提案活動に活かす実験プログラムを実施しており、Echo Showのカメラと連動させれば、機械と人を融合した統合的なアドバイスサービスも可能となってくる。

 個人にとって「自宅」は限られたパーソナル空間の一つであり、金融アドバイスを提供するには格好の場と言える。現時点ではまだ、具体化したサービスは少ないが、金融アドバイスにとってスマートホームデバイスが有効であるという認識は、今後、徐々に高まっていくことだろう。

 チャットボットもスマートホームデバイスも進化のスピードはまさしく指数関数的であり、昨日までの常識が一瞬で古くなる恐れがある。金融機関としては一日として気を抜けない日々が始まっている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

ジョシュア・チョイJoshua Choi

NRIアメリカ
シニアリサーチアナリスト
専門:IoT・先端技術動向の調査

マキコ・タナカMakiko Tanaka

NRIアメリカ
リサーチアナリスト
専門:先端IT 動向の調査・分析

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