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アジア太平洋金融フォーラムの役割と金融市場インフラ議論

2017年8月号

金融デジタル企画一部 上級研究員 片山謙

アジア太平洋金融フォーラムは、APECの公式民間諮問団体ABACの金融経済作業部会を支える主な活動軸の一つであり、6つのワークストリーム(WS)で官民議論を推進している。そのうちの1つ、金融インフラ整備WSでは、今後APEC地域でどのようにインフラ整備を進めるべきかについてのロードマップ(案)を取り纏めた。

アジア太平洋金融フォーラムの役割

 APEC(※1)(アジア太平洋経済協力)は、アジア太平洋地域の21の国と地域が参加する経済協力の枠組みである。次回の首脳会議は議長国ベトナムで11月に開催が予定されている。APEC首脳がビジネス界の声を直接聞くメカニズムとして、唯一の公式民間諮問団体であるAPECビジネス諮問委員会(ABAC(※2))が設置(※3)されており、参加国・地域から各々3名を超えない範囲で委員が選出されている。ABACには、ABAC全体に係る意思決定を行う全体会議と、専門分野ごとに議論、提言を作成するための作業部会(WG(※4))が5つあり、各国・地域の都市をまわりながら年4回開催されている。

 この中で金融経済WGは、全体テーマへの金融面からの貢献を図るため、「より大きく強固で包摂的な金融市場の構築」を目指した活動を展開している。主要アジェンダは(1)零細・中小企業による金融へのアクセス拡大、(2)資本市場の育成と統合、(3)年金/保険:長期投資家によるインフラ投資拡大や自然災害等に対する金融面からの強靭性の強化である。同WGの活動の主な軸にはAPEC財務大臣会合のポリシー・イニシアティブであるアジア太平洋インフラ・パートナーシップ、アジア太平洋金融フォーラム(APFF(※5))、アジア太平洋金融包摂フォーラムの3つがある。年間20を超えるワークショップやラウンドテーブル、コンファレンス、個別の会合等を積み重ね、APEC各国・地域との連携の下、2015年に財務大臣会合が採択した10年のロードマップ「セブ行動計画」の推進を支援すべく、官民の叡智を集約することで提言の作成や分析に取り組んでいる(※6)。

 上記の3つの軸のうちAPFFは、ABACが2012年に提案し、2013年に発足した官民パートナーシップの一つであり、アジア太平洋地域における健全かつ統合的な金融市場・サービスの発展を目指している。傘下に①貸出インフラ、②貿易およびサプライチェーン金融、③資本市場、④金融市場インフラ、⑤保険・年金、⑥連携及び構造問題の6つのワークストリームを有して官民の議論を推進すると共に知識や経験の共有、キャパシティ・ビルディング活動等を展開している(図表1)。

 筆者はABAC委員の支援スタッフとして2016年よりABACに加わり、またAPFFの金融市場インフラ・ワークストリーム(以下、FMI-WS(※7))の共同シェルパ(※8)として、参加者募集からシンポジウム開催、報告書作成に至る一連の活動に携わる機会を得た。以下では、FMI-WSで取り上げられた課題や議論の方向性、そして今後のステップについて紹介する。

金融市場インフラ・ワークストリームにおける議論

 FMI-WSの活動は、前述のセブ行動計画において、2007-08年の世界金融危機以降世界的に重要性が増した金融市場インフラ(FMI)の整備をAPEC地域でどのように進めるべきか、全体を俯瞰したロードマップの策定を求められたことに端を発する(※9)。FMI-WSでは、証券売買からレポ・証券貸借、店頭デリバティブ、投資ファンド、フィンテックに至る幅広い分野の専門家(※10)や当局、中央銀行からの参加を募り議論を重ねた(※11)。

 共通課題として掲げたのは、まず域内のポートフォリオ投資の拡大である。直接投資以外の、証券やファンドによる域内投資はまだ少なく、経済発展に伴う蓄積を域内への資金循環に十分活かせていない。また、世界金融危機以降は先進国を中心にシステミック・リスクの管理強化に向けたデリバティブ取引の清算集中や取引報告制度が導入され、さらに犯罪防止・税の公正化へ顧客確認(KYC)が強化されている。これらはより安全で公正な金融市場に向けた要請ではあるが、対応費用の高騰から小規模な金融機関や国・地域、利用者が取り残され経済成長の阻害要因となりかねないことが懸念されている。

 そこで、議論では伝統的FMIである清算・決済機関や取引報告機関間の相互運用性の向上に加え、金融機関や周辺の幅広いエコ・システム参加者を加えた全体の相互運用性を、基準や慣行の標準化・規制の調和を通して高める方向性を加えた。FMIの果たす役割を今よりも高め、小規模な参加者を含めた金融・資本市場取引の円滑化や資金調達コストの低廉化により経済成長を促すためである。具体的な対象と提言の主な項目を図表2に挙げた。

 提言は7月にABACの金融経済関連年次報告及びAPFFの活動報告と共にAPEC財務大臣に提出された。今後、10月の財務大臣会合で議論されるが、承認されればAPEC各国・地域の関係当局・中銀へ連携が進み、各項目について関心の高い官民による更なる対話や施策の立案、横断的な活動の発展に繋がると期待される。

1) Asia-Pacific Economic Cooperation
2) APEC Business Advisory Council
3) 活動開始は1996年。
4) Working Group。現在設置されているのは地域経済統合WG、持続可能な発展WG、零細・中小企業と起業家WG、コネクティビティWG、金融・経済WGの5つ。
5) Asia Pacific Financial Forum
6) 金融経済WGの活動について詳しくはAPECビジネス諮問委員会による「APEC首脳への提言」(日本語仮訳はABAC日本支援協議会が発行)を参照。
7) Financial Market Infrastructure Work Stream
8) 多様な出身母体のメンバーから成る会議体の議長兼世話役であり、議論の成果をAPEC財務大臣会合に提出して活動を補佐することからシェルパと呼ぶ。
9) とりわけ、APECにおいては金融市場の発展段階の差異に応じた施策の選択余地が求められている。
10) 金融機関や多国籍機関、業界団体、FMI事業者、情報サービス事業者など。
11) 電話会議に加え、ABAC2017年第2回会議ホストの韓国・全国経済人連合会の支援を得て4月にソウルでシンポジウムを、また、ASEAN+3債券市場フォーラムの支援を得て7月にマニラで共同セッションを持った。ソウル会議は朝鮮半島での軍事的緊張が高まり、多くの人々が心配する中で開催したが60名の参加を得て活発に議論できた。ABACやAPFFが培った実績や関係者間の信頼あってであり、継続的な官民対話プラットフォームの大切さを肌で感じる場であった。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片山謙

片山謙Ken Katayama

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:証券決済システム及び証券・資産運用の業務改革

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