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キャッシュレス社会に向けた取り組みは十分か

2017年8月号

ICT・メディア産業コンサルティング部 プリンシパル 田中大輔

日本は他国に比べ、キャッシュレス化が遅れており、現在の政策も遅れを挽回するに十分なものとなっていない。省庁、業態の壁を越え、キャッシュレス社会の未来像を描いて進んで行くことが必要である。

キャッシュレス後進国の日本

 日本は現金社会である、と言われる。実際、クレジットカードや電子マネーでの決済額を、対GDP比でみても、人口1人当たりで見ても、世界の主要な国に対して後塵を拝している(図表)。米国や英国に対してだけでなく、中国や韓国など、アジアの中でもキャッシュレス化が遅れていることがわかる。

 このような状況を受け、行政でもキャッシュレス化に向けた対応を始めている。2014年6月の『日本再興戦略2014』において、「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会等の開催等を踏まえ、キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性の向上を図る」との方針が示され、これを受けて同年12月に、『キャッシュレス化に向けた方策』が発表された。この内容は総花的ではあるが、内閣官房、金融庁、消費者庁、経済産業省、国土交通省、観光庁の連名で、省庁を超えた対応を取るべきものとして発表されたことは評価できるものであった。

 その後、FinTechの盛り上がりに合わせ、金融庁、経産省を中心に、対応を行っているところである。キャッシュレス化に関連するところでは、銀行法の改正によるAPI(※1)対応、資金決済法の改正による仮想通貨(※2)の定義と取扱業の制度化、電子決済等代行業(※3)の制度化、割販法改正によるアクワイアラ(※4)の登録制と加盟店監督強化などが挙げられよう。さらに今年6月、『未来投資戦略2017』では、「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」ことが掲げられた。

 しかし、10年で倍増、というのは、概ね現在のクレジットカードの成長率(7%程度)を維持する、という数字である。冒頭に見たとおり、主要国は現時点で日本の倍以上のキャッシュレス比率にある。日本が現在の成長率を維持したままで倍増しても、10年後に各国がさらに先へ行っていることは明白であり、この目標では戦略的とは言いがたい。

キャッシュレス化の先の明るい未来を描け

 ロンドンでは、すでに非接触ICのクレジットカードやデビットカードで地下鉄やバスに直接乗れるようになっている。ロンドンオリンピック前に、システム構築中の担当者が言っていたことが未だに印象に残っている。「これまでは、乗客は給与が振り込まれた銀行口座から現金を引き出し、それを券売機でチケットに交換し、そのチケットを改札に投入する、という、何段階もの価値の変換を行っていた。今回の仕組みで、乗客は銀行のカードを改札にかざすだけでよくなり、その瞬間に、乗客の口座から市の口座に資金が電子的に移動する。現金を取り扱う必要は全くない。これによって多くの社会的コストが削減されるのです」。

 我が国のキャッシュレス化に向けた課題の一つとして、キャッシュレス化された先の世の中を、より生活者目線、店舗目線できちんと提示できていない、ということが挙げられる。

 個々の消費者にとっては、現金を持ち歩かなくて良いため盗難や強盗などのリスクが下がり、不正利用された場合にもすぐに利用を止めたり、追跡して取り返したりすることも可能になるだろうし、店舗にとっても、日々レジの現金と帳簿を付き合わせる必要がなくなり、会計や財務管理の電子化と組み合わせ、納税まで自動化することが可能になるだろう。行政では、上記のように徴税の効率化が図られるほか、年金や給付金の交付も効率化される。行政上の支出や、政治家への献金なども明確に記録が残るため、行政の透明化にも寄与する。そして、キャッシュレス化によるこれらの効率化で生じるリソースを、新たな分野へ振り向けることが可能になり、これが経済の活性化につながることになるだろう。

 キャッシュレス化に向けたもうひとつの課題は、いわゆる決済サービスとして捉えられるサービスの制度が、複数官庁にまたがっているため、横串を通した施策が打てていないことである。具体的には、デビットカード、プリペイドカード、送金サービスは金融庁、クレジットカードは経産省、といった具合である。

 特に、デビットカード、クレジットカード、電子マネーについては、加盟店端末をそれぞれに用意しなければならないという大きな課題が10年以上前から認識されているにもかかわらず、有効な手立てが打たれていないことは、非常に残念である。事業社側も、同一企業やグループ内で複数のサービスを抱えていることが多いにもかかわらず、業態を超えた連携の議論が活発であるとは言いがたい。

 キャッシュレス化の遅れは、キャッシュレス社会の国際的なインフラ競争に遅れるということである。グローバルでは、VisaやMastercardが圧倒的なシェアを確保したところに銀聯が割って入り、さらにAlipayやWechatpay、インドのUPIやpaytmなどが加わって既に混戦状態である。EUでも決済インフラの域内標準化が着々と進んでおり、今後はそれを国際標準化してくることになるだろう。この領域において、日本の存在感が全くないのが現状である。

 お金は社会の血液である。血の巡りをいかに良くしていくか、改めて知恵を絞る必要がある。

1) Application Programming Interfaceの略。複数のサービスのAPIを組みあわせて新たなアプリケーションをつくることが可能になるとして活用されている。
2) ビットコインに代表される、ネット上で生成され、決済に利用される電子的価値。一般的に利用される用語となってきたが、資金決済上の定義はそれより狭いので注意が必要。
3) 電子決済等代行業は決済指図伝達事業者(PISP)と口座情報利用事業者(AISP)とからなり、利用者の代理として、金融機関のサービスへの指示を出す。全社は決済手続までを代行するが、後者はデータの参照のみを行う。
4) 決済サービスにおいて、加盟店の管理を行う企業。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

田中大輔Daisuke Tanaka

ICT・メディア産業コンサルティング部
プリンシパル
専門:決済サービス、FinTech

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