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資産運用業務におけるAI技術の活用事例

2017年8月号

資産運用サービス開発二部 上級システムコンサルタント 梅津佑介

野村アセットマネジメントと野村総合研究所はAI技術の一つである「自然言語分析」を用いたPoCを実施した。資産運用業務における定性的情報の分析について、業務特性に合わせた工夫をすることで、AIによる定量的な支援が可能になりつつある。

 今日、AI(人工知能)は“第3次ブーム”にあり、「クラウド」「ビッグデータ」の普及を背景に、「自然言語処理」「音声認識」「画像認識」など、従来は扱いが困難であったデータの活用が進んでいる。

 金融業界においてもFinTechの一環として、各所でAI技術の様々な活用が始まっている。しかし、一口にAIと言っても、従来から実施されている数値分析の自動化から、新たな領域である自然言語処理まで、その適用技術、適用範囲は幅広い。本稿では、その中で野村アセットマネジメントと野村総合研究所が共同でPoC(※1)を実施した、資産運用会社における自然言語処理を用いた株式売買判断業務支援システムをもとに、金融業界におけるAI技術の活用事例を紹介する。

ポートフォリオマネージャーのテキスト解析への活用

 資産運用会社のポートフォリオマネージャーは、投資の意思決定のため、専門家によるアナリストレポートだけでなく、インターネット上のニュースサイトやマイクロブログなどの様々な情報と自社で持っている情報について日々分析し、企業業績の見通しや株価への影響について総合的な判断を行っている。

 今回PoCを実施した株式売買判断業務支援システムでは、こうした判断業務について、ポートフォリオマネージャーが日々確認している情報の解析と、情報内に登場する企業に対する評価をAIで行った。AI技術のひとつである深層学習(※2)による自然言語分析(※3)を用いて、収集したテキスト情報を解析の上、その情報がポジティブ(業績や企業価値が向上する可能性が高い)か、ネガティブ(業績や企業価値が向上しない可能性が高い)かをスコア化し、当該スコアがポートフォリオマネージャーにとって投資判断の精度向上や効率化に資するかを検証した。

 各種テキスト情報を分析するにあたり、ポートフォリオマネージャーが行う判断結果と、AIが算出するスコアの結果を近づけるために次の4つの方策をとった(図表参照)。

 1つ目は「教師データ(※4)」の選定である。アナリストレポートは記載内容がある程度決まっており、投資判断(レーティング)の変更によりポジティブ/ネガティブ評価が明示される場合があるテキスト情報である。そのため、今回は教師データとして投資判断の変更が表明されたアナリストレポートを用い、スコアの精度向上を図った。

 2つ目はテキスト内に含まれる文体の平準化である。各証券会社やニュースサイトに特有の文体的特徴を除去し平準化することで、異なる発行媒体のドキュメントについても同様の基準で比較することが可能となった。

 3つ目はスコア化の際の判断に、「クラスタリング(※5)」を行うことである。例えば同じ「円高」という情報でも、輸入企業と輸出企業でそれぞれポジティブ/ネガティブの判断は異なる。対象の業務特性に沿った判断を行うため、AIにて各種判断対象のカテゴライズ(結果的にAIは業種に限りなく近い分類を行った)を行わせることで、その分類されたカテゴリーに応じた、高い精度のスコア化を実現することができた。

 4つ目は教師データの発表時期の考慮である。市場環境はもとより、語句のニュアンス等の日本語の用法も年月の経過とともに変化する。そのため、教師情報について、時期(新しさ)で重み付けを行うことで、異なる時期のドキュメントにおいても同様の基準で比較することが可能となった。

定性的な分析に対する、AIの定量的支援の可能性

 こうした手法を用い、アナリストレポートに対してAIによる評価を実施した結果、実際のアナリストレポート上での投資判断の変更とAIの判断結果が約8割合致した。インターネット上のニュースやマイクロブログなど、画一的でない文章を対象に行った判断の結果についても、ポートフォリオマネージャーの判断結果とAIの判断結果が概ね一致していることが確認できた。

 また、投資判断の変更にまでは至らないがポジティブ/ネガティブな情報を含んでいるアナリストレポートに対しても、AIの判断により「近い将来に当該銘柄に対する投資判断の変更」が起きる予兆を把握できることが確認できた。更には、算出されたスコアの絶対値によって、その判断の「強さ」についての予兆も把握できることが確認できた。スコアの絶対値が大きい(ポジティブ・ネガティブの判断の強さが強い)情報が言及する株式は、その後の値上がり/値下がり幅が、絶対値が小さい銘柄に比べてより大きい傾向にあったのである。

 これらの結果は、通常ポートフォリオマネージャーが定性的情報から明文化されない経験をもとに行う判断に対し、AIを用いることで定量的分析による支援が可能である、ということを示していると考えられる。

AIによる定性的情報分析の重要性

 今回のPoCでは自然言語分析による支援の有効性を確認できたが、精度はまだ8割程度で、完全な評価判断が下せるわけではない。また、文字数が短く口語体が中心となる文章では評価の精度が落ちる、など課題はまだ多く残る。しかし、定量的な数値分析だけではなく自然言語をはじめとした定性的なデータの分析が可能だということは、単なる計算機に留まらない、「知能」としてのAIの活用幅を大きく広げるものである。技術の向上により現在ある課題を解決し、より精度の高い分析を行えるようになれば、将来的にはポートフォリオマネージャーが見つけることができないような投資機会を発見できるようになるかもしれない。今後の投資高度化を見据え、AIの技術研究・活用検討を継続的に行っていく必要があるのではないだろうか。

1) Proof Of Concept。概念の実用性を確認するために簡易的に実現化を行うこと。
2) AIが多くのデータから統計学的アルゴリズムを使って、データの未知の部分に対する予測を行ったり、今あるデータを分類する、機械学習と呼ばれる技術の一種。ニューラルネットワークと呼ばれる人間の脳構造を模したアルゴリズムによって機械学習を行うものを深層学習と呼ぶ。
3) 人間が日常的に使っている言語をコンピュータに処理させること。今回のPoCでは処理の手順として、①対象ドキュメントの文章を単語等の最小単位に分割し、品詞等の情報を辞書から付加(形態素解析)、②単語の意味や文章構造等をn次元のベクトルで表現(ベクトル化)することを行ったうえで、教師データとの文章類似度をコサイン類似度で比較した。
4) コンピュータが学習する際に与えるデータ。AIが機械学習を行う上で「正解」を判断するお手本となるデータのこと。
5) AIが機械学習によって法則性を見つけ出し、その法則性に基づき分類すること。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

梅津 佑介

梅津佑介Yusuke Umezu

資産運用サービス開発二部
上級システムコンサルタント
専門:信託銀行・資産運用向けシステム導入

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