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フェア・ディスクロージャー・ルールにどう対応すべきか

2017年8月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

先の通常国会で金融商品取引法改正が成立し、フェア・ディスクロージャー(FD)ルールが導入されることになった。規制の対象となる重要情報とそれ以外のモザイク情報の線引きが必要だが、上場企業は過度に萎縮することなく、証券会社のアナリストや機関投資家との対話を進めていくべきだ。

FDルール導入へ

 先ごろ閉幕した通常国会で、金融商品取引法の改正が成立した。その主要な柱は、①コンピュータ・プログラム(アルゴリズム)を用いて株式やデリバティブの高速取引を行う者に対する登録規制の導入、②いわゆるフィンテックへの対応などを視野に入れた取引所の業務範囲規制の見直し、③日本版フェア・ディスクロージャー・ルール(FDルール)の導入、の三つである。

 このうちFDルールは、既に本誌でも取り上げた通り、上場会社等が、未公表の重要な内部情報を証券会社のアナリストなど特定の第三者に対して選択的に開示することを禁じる規制である(※1)。

 成立した改正法によれば、上場会社等またはその役員や従業員等(「取引関係者」に情報を伝達する職務を行うこととされている者に限る)が、「取引関係者」に対して未公表の「重要情報」を伝達する場合には、原則として当該情報を同時に公表することが求められる。

 ここで「取引関係者」とは、証券会社や投資運用会社、信用格付機関など市場のプロフェッショナルや伝達された情報に基づき株式等を売買する蓋然性の高い者を指す。

 「重要情報」の同時公表が行われない場合、すなわち選択的開示が行われた場合には、情報の伝達者は速やかに当該情報を公表することが義務付けられる。

 公表されるべき情報が公表されていない場合、金融庁が情報の公表を指示し、指示に従わない者に対しては公表命令が出される。この命令にも従わない者に対しては、6ヵ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金またはその併科、という罰則が設けられている。

 改正法は、公布後1年以内に施行されることとなっており、今のところ2018年4月頃施行の見通しである。法律の規定には、詳細を内閣府令で定めるとしている部分もあり、今年の秋から冬にかけてそれらの内閣府令の原案が明らかにされるだろう。

 FDルールは、諸外国では既に制度化されているが、日本市場の上場企業にとっては新たな規制であり、どのような対応が講じられるのか注目される。

重要情報とは何か

 筆者はこのほど、FDルールの内容や先行してルールが制度化された米国での違反事例などを紹介しながら、上場企業のとるべき対応について論じた書籍『フェア・ディスクロージャー・ルール』を刊行した(日本経済新聞出版社、2017年6月刊)。

 詳細は、この書籍をご覧頂きたいが、企業の対応を考える上で最も重要なポイントとなるのは、FDルールによる規制の対象となる「重要情報」とは何かである。

 この点について改正法は、「上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」とする。「として内閣府令で定めるもの」といった表現がとられていないことから、より詳しい定義を設ける内閣府令の制定は想定できない。

 一方、ルール導入を検討した金融庁のタスクフォース報告書は、他の情報と組み合わさることによって投資判断に影響を及ぼし得るものの、その情報のみでは、直ちに投資判断に影響を及ぼすとは言えない「モザイク情報」は、規制の対象ではないと述べる。上場企業は、自らの事業内容や置かれた環境に即して、重要情報とモザイク情報の線引きを慎重に行うことが求められる。

 その際の手掛かりとなるのが、他の類似の規制との比較である。投資判断に影響を及ぼす未公表情報の取扱いをめぐる規制としては、FDルール以外にインサイダー取引規制や証券会社等が適切な管理を求められる法人関係情報に関する規制がある。法令の文言からは、インサイダー取引規制の対象となる「重要事実」が最も狭く、「法人関係情報」が最も広いものと判断される(図表参照)。

 従来、上場企業は役職員等によるインサイダー取引防止の観点から、重要事実に該当する情報については厳格な管理を行ってきた。他方、法人関係情報については、上場企業側はそれほど意識していなかった面がある。

 FDルール導入が検討されるきっかけとなったのは、証券会社のアナリストが、「プレビュー取材」の名の下に、法人関係情報に該当するような業績情報を得て、顧客である投資家に提供したという不祥事であった。

 そこで証券会社の自主規制機関である日本証券業協会は、FDルール導入に先立ってアナリストの取材等に関するガイドラインを定め、法人関係情報やそれに近い情報は積極的に入手しようとせず、入手した場合も社内での情報管理を徹底するよう求めている。従って、ガイドラインを遵守するアナリストからの質問に対する回答として、上場企業が未公表情報を提供したとしても、FDルールに抵触する重要情報の提供に該当することはない。

 また、FDルールは万一未公表の重要情報を誤って提供してしまったとしても、上場企業のホームページに掲載すれば公表されたものとするとしている。上場企業はルールへの抵触を過度に恐れることなく、アナリストやファンドマネジャーとの情報交換や対話を従来以上に積極的に行って欲しいものである。

1)『金融ITフォーカス』2016年7月号及び2017年1月号掲載の拙稿参照。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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