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海外トピックス

2017年7月号

金融ITイノベーション事業本部 國見和史

・ウェルズ・ファーゴ独立取締役、不適切な販売慣行を検証
・注目される米ボルカールールの行方

ウェルズ・ファーゴ独立取締役、不適切な販売慣行を検証

 米大手銀行ウェルズ・ファーゴの独立取締役は4月、長年にわたるリテール銀行部門の不適切な販売慣行の原因と是正策を検証した報告書を公表した。

 昨年9月、ウェルズ・ファーゴはリテール銀行部門で顧客の同意なしに預金口座を開設するなどの違法行為が広範に行われていたとして合計1.85億ドルの罰金を支払うことで規制当局と和解。販売目標の達成やインセンティブ報酬の獲得のために従業員が不正に開設した預金口座は約150万件、クレジットカード口座開設の申請は50万件以上に上った可能性が明らかになり、同行に対して強い批判が沸き起こった。

 今回の報告書では、不適切な販売慣行の構造的な要因として、1)販売重視のカルチャーと、2)事業部門の自律性を重視した分権的組織構造を挙げた。これらはそれ自体、害をもたらすものではないが、リテール銀行部門のマネジメントが過酷な販売目標で従業員を違反行為に向かわせ、部門内外で問題視され始めた後も外部の干渉を排し根本的解決を遅らせた、と結論づけた。

 報告書で注目すべき点の1つは、1)に関連して、規則違反を犯した従業員を解雇することに終始し、販売モデルに疑問を示そうとしなかったという指摘である。これは、同部門が自らをサービス志向の金融機関というより小売業のような販売組織と考えていたことも一因となったと分析している。

 もう1つ注目すべき点は、2)に関連して、リスク管理、法務、人事といった全社レベルの内部統制を司るべき組織が分権的体制下のもとでは有効に機能していなかった、という指摘である。もともと事業部門のリスク管理は部門ごとに行われており、リテール銀行部門のリスク管理責任者と全社レベルのリスク管理責任者との間には軋轢も生じていたという。報告書では、前CEOのスタンプ氏が事業部門の自律性を重視し、リテール銀行部門に問題解決を任せる姿勢をとり続けたことも対応の遅れにつながったと指摘した。

 取締役会では当局との和解後、1)リテール銀行部門の商品販売目標を廃止し新インセンティブ報酬制度を導入する、2)定款で会長、副会長を独立取締役とすることとし会長職とCEOを分離する、3)リスク管理機能の集中化を図るため、これまで各事業部門に報告していたリスク管理担当者の報告先を全社のリスク管理部門に変更する、など経営陣とともに改革を矢継ぎ早に進めてきた。しかし4月の株主総会では、問題に適時に対処できなかった取締役会に対する批判の声は強く、結果的にこれまでの取締役はすべて再選されたものの、反対票の割合は通例よりもかなり高くなった。

 今回の報告書自体についても、作成した取締役会に対する評価が甘いという批判は強かった。取締役会が今後も改革を迅速に先導し、顧客や投資家の信頼を取り戻せるのか注目される。

注目される米ボルカールールの行方

 米国では、ドッド・フランク法に基づいて構築してきた金融規制を見直そうとする動きが活発になっている。予てから業界の批判が強かったボルカールールも有力な見直し候補に挙がっている。

 ボルカールールでは、マーケットメイキングや引受などを除き、銀行の自己勘定取引が原則して禁止される。「銀行の投機的取引を規制して安全性を高める」というルールの趣旨は概ね受け入れられているが、問題視されているのは副作用の大きさである。

 中でも懸念されているのが、ボルカールールの詳細を規定した規則の解釈が難しいため、マーケットメイク業務が妨げられている可能性である。同ルールで認められるマーケットメイキングとそうでない自己勘定取引は区別が難しく保守的に運用せざるをえず、在庫管理やポジション調整が困難になっている、と批判される。社債市場の流動性が低下して企業の資金調達コストに影響を及ぼしたり、ショック時に顧客の取引需要に応えられなくなる、という指摘もある。

 昨年公表されたFRBのスタッフレポートでは、ボルカールール導入後、ストレス時の社債の流動性低下がより顕著になっていることを示唆する結果も示された。ただし、社債市場の流動性が金融危機前より改善していることを示すデータなども存在し、ボルカールールの影響については論者によって評価が分かれる。

 ボルカールールの見直しに向けた動きは現在、議会、トランプ政権の双方で進められている。議会では、下院共和党が提出している、ドッド・フランク法を大幅に見直す金融選択法案にボルカールールの撤廃が盛り込まれている。同法案は6月上旬に下院本会議で可決されたが、上院で通過に必要な民主党の支持が得られる見込みは小さく、議会がボルカールールを丸ごと撤廃する可能性は非常に低い。

 一方、トランプ政権では財務省が6月中旬、現行の金融規制を包括的に点検し広範な改革を勧告する報告書を公表。ボルカールールについても撤廃ではないが大幅な修正が勧告された。この中には、「総資産100億ドル以下の銀行を同ルールの適用除外とすべき」など法改正が必要なものだけでなく、「マーケットメイキングにおいて銀行がより柔軟に在庫を調整できるようにすべき」など、5つの金融規制機関が採択した現行規則の修正で対応できるものも含まれる。このため後者については、議会の動きを待たずに実現可能だと期待する向きも多い。

 とはいえ、修正に向けて5つの金融規制機関が足並みを揃えられるかは不透明である。今後、財務省がいかに規制機関の立場を調整しながら議論を先導できるかが注目される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

國見和史Kazushi Kunimi

金融ITイノベーション事業本部
金融イノベーション研究部契約研究員

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