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中国における金融リスク防止の本格化

2017年7月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

金融リスク防止は中国における今年のマクロ経済政策の柱である。足元では不良債権が増加し、シャドーバンキングも複雑化している。一方、地方政府債務の問題も依然くすぶっている。そうした中で、金融リスク防止に向けた動きが本格化している。

今年のマクロ経済政策の重点である金融リスク防止

 2017年前半の中国金融界では、銀行業監督管理委員会(銀監会)をはじめとする金融当局による規制の厳格化が目を引く。

 昨年12月の中央経済工作会議で打ち出された、「金融リスクの防止・コントロールを重要な位置に置き、金融のシステマチック・リスクを発生させない」との方針の下で、金融リスク防止の動きが本格化したといえる。以下では銀監会を中心に最近の動きを見ることにする。

 まず、商業銀行の不良債権残高は、2017年3月末で約1.58兆元となり、近年のボトムである2011年9月末の約4,100億元の4倍近くに増加している。不良債権比率は1.74%と低いものの、事実上の不良債権が含まれると言われる要注意先債権の額は約3.4兆元、貸出残高の3.77%に上っており、不良債権の実態は公表データより悪い(図表)。

 次に、銀行のオフバランス(簿外)におけるリスクがある。中国のシャドーバンキングにおいて中心的役割を果たす銀行のオフバランス取引は、2010年頃は、融資規制・自己資本比率規制を回避するための、信託会社や証券会社を介する比較的単純な迂回融資であった。

 しかし、最近では利回り向上等を狙って、迂回ルートにPEファンドやファンドオブファンズ(FOF)等が入り、資金の流れが複雑化している。銀行が販売する資産運用商品(理財商品)の運用資金の一部が間接的に株式(関連)投資に向かっていたり、また、迂回ルートを経る間にレバレッジを効かせたりしていることで、リスクが高くなっている(※1)(※2)。

 現行の金融業態別縦割り規制の下では、個々の規制当局が業態を跨ぐ資金の流れの全体像を把握するのは難しく、リスク資本比率や適格投資家の規制等が守られているかどうかもわかり難くなっている。

 さらに、地方政府の債務問題も残っている。ここ数年、地方政府の財政負担軽減のために導入が進められているPPP(Public Private Partnership、官民協力モデル)では、建設プロジェクトに資本参加している投資基金等に対して、プロジェクト買戻し・収益保証・分割払い(政府予算から支出)等を承諾することで、事実上の地方政府の債務が生じている場合がある。結局、不透明さが問題となった以前の地方政府の融資平台(資金調達プラットフォーム会社)に似た状況が一部で生じている(※3)。

意見・通知等を連続的に発表した銀監会

 こうした中で銀監会は、4月に入り意見・通知を連続的に発表し、リスク防止を強化している。具体的には、「銀行業の実体経済への貢献の質と効率の引上げに関する指導意見」(7日、銀監発〔2017〕4号、以下4号)、「銀行業のリスク防止・コントロールに関する指導意見」(7日、同6号)、「監督管理の弱点の適切な補充と監督管理の効率の引上げに関する通知」(10日、同7号)である。 これらの内容は多岐にわたるが、ここでは前節で挙げた問題点に沿って、ポイントを説明する。

 第一に、不良債権のリスク防止に関しては、要注意先債権の比率や伸びが高い銀行、またオフバランス資産の伸びが高い銀行に重点を置く。資産のリスク分類が正しくなかったり、不良債権を隠したり「飛ばし」たりする等の行為を是正する。新規貸出については、ゾンビ企業への貸出を防ぐこと等でリスクをコントロールする一方、既存の不良債権は各種手段(債務リストラ、転売等)により処理する(6号)。このように新規貸出と既存貸出に対しては、別の対応が取られている。

 第二に、資産運用商品に対するリスク管理・コントロールが強化される。資産運用商品は商品ごとに管理し、また、自己勘定と顧客勘定を分離しなければならない。ロールオーバー発行・資金プーリング・期間ミスマッチ等の行為も行ってはならない(6号)。要するにドンブリ勘定の禁止が再確認されたということである。

 業態・市場をまたぐ金融業務については、資産運用商品への他の資産運用商品の組み込みを減らし(※4)、(迂回融資等における)商品チェーンを短縮する原則の下で、資産運用商品間の資金の流れ全体をモニターし、また、原資産の情報を全面的に把握する(いわゆるルックスルー)。さらに、資産運用商品の表面的な形式よりもその実態によってリスクを管理することで、リスク資本等の計算における規制逃れを防止する(4号)。こうした措置のために必要とされるデータ・登記については、「銀行業理財登記託管中心」、「銀行業信貸資産登記流転中心」、「中国信託登記公司」が利用される(4号)。

 投資家保護の点では、投資家のリスク許容度によるクラス別管理を実行しなければならない。例えば、富裕層の顧客・プライベートバンキング・機関投資家向けの資産運用商品だけが国内株式での運用ができるといった点が確認された(6号)。

 第三に、地方政府債務について、プロジェクトの建設基金・PPP・政府のサービス購入等の新方法を利用した違法な政府債務を発生させてはならないとした(6号)。

 なお、銀行の株主に関してもリスク防止が強化される。実際の支配者・最終的な受益所有権者を識別し、その資質を審査する。また、銀行株式の代理保有や関係者による株式保有といった方式で株主の資格審査を回避することを防止する(7号)。これは、銀行が関連企業の機関銀行化するリスクを防止するためである。

 銀監会はこれらの意見等に加え、規定違反に当たる行為を列挙した、より具体的な通知を公表している(※5)。

 一連の意見・通知を受け、銀行は自己検査を実施し、当局も検査を行う段階に入った(※6)。足元では、これらの検査の厳格化を受けて、一部の銀行業務、特に資産運用商品等の業務が難しくなっているとも言われる。今後は規制強化の景気へのマイナスの影響もにらみながら、リスク防止に向けた動きが進められよう。

1)「銀行のオフバランス取引リスクの把握に向かう中国」(『金融ITフォーカス』2017年1月号)参照。
2) 最終的な借り手と、銀行の資産運用商品を買う最終投資家の間に、多くの資産運用商品が介在する場合がある。資産運用商品の運用先が資産運用商品となっており、これが多層的に続く。その過程でレバレッジ率が高くなる場合もある。
3)「中国の積極財政への依存と注意点」(『金融ITフォーカス』2017年5月号)参照。
4) 注2)参照。
5) 銀監会〔2017〕46号文、53号文等。
6) 例えば6号では、各銀行は今年7月20日と2018年1月20日までにそれぞれ上期と通年について銀監局に報告し、各銀監局は今年7月31日と2018年1月31日までに銀監会に報告することになっている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健Takeshi Jingu

金融イノベーション研究部
上席研究員
専門:中国経済・金融資本市場

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