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実効性を競うフェーズに突入-米国のFinTech-

2017年7月号

NRIアメリカ リサーチアナリスト ブレント・キム

米国のFinTechは実効性のあるイノベーションを競うフェーズに入ってきた。米国中堅銀行のCapitalOneによるDevOps導入は、新サービスの継続的改善にとって不可欠であり、イノベーションの実効性を支える取り組みとして注目に値する。

問われる実効性のあるイノベーション

 スタートアップ企業に出資したり、イノベーションラボを作って新規事業開発の活動を促進したりと大手金融機関によるFinTech関連のニュースはいまだ多く、ブームはさめる気配を見せない。しかし、一見華やかに見えるFinTechの動きも、特に米国ではその中身が質的に大きく変化をしてきているように思われる。金融市場活性化を目的として金融機関にオープンAPI対応を迫るなど、スタートアップ企業に対する当局の支援が厚い欧州に対し、放任主義的な色合いの強い米国では独自に破壊的イノベーションを狙うスタートアップ企業の勢いは急激に衰え、その多くは金融機関を支援する形へと事業モデルをシフトさせてきている(※1)。

 一方、金融機関の側にしても、破壊的イノベーションによる淘汰を免れるという観点だけで安心している訳にはいかない。巨大な顧客アカウントを有するメガIT企業の金融参入は依然として大きな脅威であるし、金融機関同士の付加価値競争という点ではむしろこれからが本番ということになる。イノベーションラボを中心にスタートアップとのPOC(※2)を繰り返す金融機関の取り組みも、その多くはイノベーションに前向きな姿勢を見せるための、ある種ブランディング的な意味合いが強かったと言える。それがいよいよ金融機関の実ビジネスにおける付加価値競争の本丸として注目されるようになってきたということである。金融機関にとっては実効性のあるイノベーションに如何に取り組むべきか、という極めて真面目な問題が突きつけられることとなる。

Capital Oneの取り組みに注目

 ここで、実効性のあるイノベーションを実現している例としてCapital Oneに注目したい。Capital Oneはカードビジネスに強みを持つ、資産残高で北米トップ10に入る中堅銀行である。使い勝手の良いWalletアプリやデザイン性に優れたモバイルバンキングなど、米国のデジタルバンキングでは目立った存在である。Facebook等SNSとの提携を逸早く進めるなど、次の時代を見据えた新たな金融サービスの実現に積極的に取り組んでいる。しかし、ここで注目するのはそうした華やかな部分ではなく、イノベーションに実効性を持たせる上で新サービス開発からデリバリー、サービス保守までのプロセスを一新させたという隠れた部分の取り組みだ。

 Capital Oneが実施したのはDevOpsの導入である。DevOpsとはDevelopmentとOperationsを融合した造語で、特にシステム部門において新サービスのリリースサイクルを開発部門と運用部門間との協同作業を通じて短縮化し、顧客のニーズに合わせて機動的にサービス改変を実施するための考え方とその手段を指す。将来を予測し難いイノベーティブなサービスを提供しようとすれば、大規模な開発に長期間かけるのではなく、部分的にでも小規模開発とリリースを繰り返して市場の反応を見ることが不可欠となる。機動的なサービス改変という点では、アジャイル開発(※3)と考え方は類似しており、CapitalOneでも当初はアジャイル開発を導入することで開発者と顧客ニーズとの距離を近づける試みとしてスタートした。その後、サービスのリリースから保守までを含めたプロセス全体の品質向上とスピードアップを目指し、アジャイル開発を拡大発展させる形でDevOps導入に至っている。そしてその結果、導入前と比較してサービスのリリース頻度が20倍に上がったと報告されている。

 各業界ともモバイル対応の必要性が高まる中でDevOpsに注目しており、そのコンセプトの実装を支える多くのツール群もクラウド業者などから提供され始めている。テストフェーズやインフラ設定等にかかる工数の大幅削減を通じて、従来は6ヶ月かかったプロセスが1ヵ月に短縮したという事例なども積み上がりつつある。

求められるサービスの継続的改善

 Capital OneではWalletやモバイルバンキングアプリに加え、この春にはスマートホームデバイスの一つであるAmazon Echoへの対応を、金融機関第1号として発表している。店舗やWeb上のオンラインバンキングのように顧客の日常から離れた場所や時間において金融サービスを提供するのではなく、顧客の日常に深く入り込 み、必要とされる局面でいつでも無理なくサービスを提供できるようにするというのがCapital Oneのデジタルバンキング戦略のビジョンである。その点で、AmazonEcho対応に力を入れるのは極めて自然なことと言える。

 Amazon Echo上では、Capital One顧客の口座残高情報やトランザクション情報の参照、モーゲージローン等の支払いを口頭で操作することが可能となっている。受付可能なメッセージの種類は当初からある程度用意されていたが、最近は「先週のスターバックスでの支払いはいくら?」といったメッセージも可能となるなど、顧客からのフィードバックを受けてサービスは日々充実している。このように顧客の日常の近くでサービス提供しようとすれば、顧客ニーズに合わせて継続的にサービス改善していくことが必要条件となる。一見他愛もないサービスに見えても、裏でサービス提供サイクルの短期化に向けた取り組みがなければ、しっかりとしたサービスレベルに仕上げるのは大変難しいものとなるだろう。

 Capital OneにはSecond Lookというサービスもある。カードの不正利用の可能性をデータ分析の結果から判別し顧客へフィードバックするもので、顧客自身が間違って二重に支払った場合なども検知して顧客へ通知する。これはビッグデータ活用の一例に過ぎないが、顧客経験を向上させるという観点からすれば、このようなデータ分析の結果を顧客にフィードバックするという動きは今後益々増えると思われる。データ分析から得られる新たなインサイトは日々発生することを思えば、アプリへの反映方法も柔軟でなければならず、ここでもサービス提供サイクルの短期化は重要な意味を持つ。分析結果をサービスに反映させるタイミングが遅ければ分析結果の価値自体も低下することになるからである。

 DevOpsは開発組織のカルチャーやスキルセットの大幅な変更を必要とするため、多くのIT業界の論者が「言うは易く行うは難し」の典型例として引き合いに出す。Capital Oneの事例などを通じて、イノベーションにおけるその重要性が確認されればされるほど、そして、その難しさが強調されればされるほど、実効性のあるイノベーションの実際的な難しさが実感される。

1) なかなか動き出さない顧客や規制対応がハードルとなっているというのが大方の見方である。
2) Proof of Conceptの略。アイデアの実現可能性を検証すること。
3) 軽量かつ短期的な開発の繰り返しを通じて、迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う手法。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Brent Kim

ブレント・キムBrent Kim

NRIアメリカ
リサーチアナリスト
専門:金融IT調査

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