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保険業界におけるデジタルアナリティクス

2017年7月号

保険ソリューション開発一部 上級コンサルタント 山崎道雄

保険会社は従前より行ってきた統計手法を用いたリスク分析に、IoTが蓄積するビッグデータを用いることにより、保険とITの融合を実現しつつある。今後、自動運転の進化などにより、従来と異なるリスク分析のための仕組みや組織体制の整備が課題となる。

 スマートフォンなどのモバイルデバイスやソーシャルメディア(SNS)の普及は消費者の購買行動を変化させるとともに、膨大かつ多様なデータをリアルタイムで蓄積し、マーケティングや顧客管理における活用を可能にした(※1)。さらに、自動車に装着された情報通信(テレマティクス)装置や人間が身に付けたウェアラブルデバイスなど、インターネットに繋がったIoTが蓄積するビッグデータはリスク分析(保険料率算定)やアンダーライティング(保険引受)のモデルに変化をもたらすとともに、事故防止や健康増進といったリスク低減にも活用されるようになった。データ処理技術の進歩や高速化に伴い、深層学習(ディープラーニング)など人工知能(AI)の活用機運が再び高まりを見せる中、保険業界におけるデータ分析・活用(デジタルアナリティクス)の状況について考察した。

保険料率算定・保険引受におけるデータ分析・活用の状況

 保険会社は従前より、アクチュアリーと呼ばれる確率・統計を用いたリスク分析(保険数理)の専門家がデータを分析することで商品開発や保険料率算定モデルの構築(※2)を行ってきた。大数の法則に基づく保険の提供、いわゆるデータサイエンス(統計学)を生業としているとも言えるが、ここにきて、ITを融合させた新たなデータ分析・活用を迫られている。

 従来、商品開発や営業の現場では、データのクロス集計に基づいたルール・相関の抽出や回帰分析といった手法が主に利用されてきた。IoTが収集したデジタルデータをディープラーニングにより分析し、商品開発や営業につなげるといったことについては未だ途上の段階であると言える。現在でも、ディープラーニングが画像や音声データからの特徴抽出に向いていることから、保険申込書の手書き文字の認識や事故時の損害箇所画像からの査定、不正請求の検知、顧客からの問合せに対する回答案の抽出などへの活用が検討され、実現されつつある。しかし、保険の対象物である自動車に搭載されたセンサーや人間が装着したデバイスが収集するデジタルデータを分析し、保険料算定や保険引受に活用する取り組みについては、従来の統計手法や回帰モデルなどを作る従来型の機械学習による予測・判別が中心となっており、データの十分な利活用までには至っていない。以下では具体的にデジタルアナリティクスの状況を見てみたい。

 まず、生命保険や医療保険の分野においては、ウェアラブルデバイスによるデータ収集がある。社員や契約者に対してウェアラブルデバイスを配布し、収集した歩数などの運動量や睡眠、心拍数といった活動データや、健康診断結果の統計データに基づき、疾病や健康リスクとの相関関係を分析し、保険商品の開発に生かす研究が保険業界におけるFinTechへの取組みとして活発に行われている。ただ、疾病や健康状態を活動データや限られた検査項目からなる健康診断結果のみから説明することの難しさやプライバシーの問題から、現状では一定の運動をした契約者へのクーポンやポイントの提供など健康増進へのインセンティブ付与の意味合いが強い。

 損害保険の分野においては、自動車のダッシュボード下の診断用ポート(ODB-Ⅱport)に差し込んだ携帯無線付GPSテレマティクス装置やビルトインのナビゲーションシステムが測定した走行距離や、専用機器による急ブレーキ、急発進などの危険運転の状況などのデータをもとに、保険料を算出したりキャッシュバックを行う商品の開発が行われている。

 本邦では自動車保険の保険料については自由化されているものの、事故が起こった時に支払われる保険金の原資となる純保険料の算定に使われる項目は保険業法で定められており、前述のデータは、年間走行距離および自動車の使用状況の測定データとして活用されることになる。また、個人が対象の自動車保険には等級制度があり、事故を起こさなければ1年ごとに等級が上がり保険料が安くなっていくため、運転状況の測定データの分析・活用のインセンティブは安全運転促進の面が強い(※3)。しかし最近では、自動車に固定されていないスマートフォンで収集したデータにより、レンタカーやカーシェアリング等での安全運転実績を、初めて自動車を所有して自動車保険に加入する場合の保険料に反映できる商品も開発されている。

 また、ドライブレコーダーやスマホで撮影した画像データなどを利用した運転診断により、安全運転への意識向上や事故防止を図るサービスも提供されている。しかし、究極の姿は、事故の予防への寄与だけでなく、自動車に装備されたセンサーやカメラからのデータをもとに、ディープラーニングにより周囲の状況を判断し、運転者が介在することなく、自動車自らが安全な運転を実現することで事故がなくなることであろう。自動運転の進化により事故がなくなれば、自動車保険の必要性がなくなるという指摘があるが、リスクが全くなくなることは考えにくい。自動運転車と一般自動車との事故や、自動運転車の故障(製造物責任)など、これまでとは異なったリスクを分析し、補償するという保険会社の新しい役割が生まれると想定される。

新しいリスクに対応した商品開発のために必要となる仕組みや組織体制

 今後、自動運転の進化等により、保険会社が新しい役割を果たすには、従来とは異なるリスクを扱う、未来に向けた保険商品やサービスの創造・開発が必要となる。それには、センサーやカメラが収集・蓄積したビッグデータをもとに、内容によってはディープラーニングを用いて様々なリスクを分析するなど、データ分析・活用の仕組みが必須となろう。具体的には、データ量の拡大や高速な並列処理に対応可能なクラウドサービスを活用したデータ分析技術・基盤(仕組み)を確保することなどである。近年、欧米を中心に登場してきている革新的な技術をもつベンチャー企業などの探索を含め、研究に取り組んでいる外部組織との協働も必要となる。

 さらに、人材面では、統計学や機械学習などのデータ分析のスキルを備え、ビジネスマインドに富んだデータサイエンティストの確保・育成が欠かせない。組織体制面においても、従来とは異なるリスクに対応すべく、現在の保険種目別の組織とは異なる、保険商品やマーケットを横断しIT部門と密に連携するデジタルアナリティクス・チームの組成が必要となる。そして、顧客(人間)中心のデザイン思考により将来の世の中の課題解決につながる保険商品・サービスを発想するカルチャーの醸成が不可欠であろう。

1)「保険業界におけるデジタルマーケティング」(『金融ITフォーカス』2015年12月号)を参照。
2) 本邦においては、1996年の保険業法改正により保険料が自由化されたものの、新商品の販売や保険料率算定方法については監督官庁への届出・認可が必要となっている。
3) 自動車が10台以上の契約(フリート契約)については、等級制度はなく、契約者単位で割増引率が決定されるため、法人向けにテレマティクス端末やドライブレコーダーを搭載することにより保険料を割り引くサービスの需要は等級制度がある個人と比較して高いと想定される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

山崎道雄Michio Yamasaki

保険ソリューション開発一部
上級コンサルタント
専門:保険IT

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