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「言葉」は永遠に生き続けるか

2017年7月号

外園康智

『5月29日、信長は中国遠征のため、京都の本能寺にいた。明智軍は中国遠征に向かおうとしていたが、6月2日に本能寺を攻撃する。100人ほどの部下しかいなかった信長は、圧倒的多数の明智軍には敵わず、自ら火を放ち自害した。』

 この文から、『信長はどこで中国遠征の準備をしていたか?』『信長は何人の部下と本能寺にいたか?』などの歴史クイズを作ることができる。

 「1つの文から、別の文が正しいか」を判断する問題を、自然言語処理の「含意関係認識」と呼ぶ。機械でこの問題を解こうとした場合、大きく分けて「論理学の推論モデル」と「文の特徴量の機械学習」の2つの方法がある。前者では、2つの文を1階の述語論理記号に分解し、片方から推論規則に従ってもう片方が導かれるか計算することで、2つの文の含意関係を判断する。

 他方、特徴量の方は、文同士の距離を計算する。意味の近い単語の距離は近く、文全体の距離も近くなる。ただし、文の最後に文全体の否定形があると、意味が逆になってしまうので注意が必要だ。

 現在の自然言語処理研究は、課題を1つ1つ解決している過程にある。1つの単語に複数の意味がある場合の区別や、信じる・思うなどの様相文の扱い、知識のインプット方法などだ。含意関係認識技術を使った質問応答AIは、大学入試センター試験模試の社会科目・正誤問題において、70%以上の正答率を出したという結果もある。

 では、すべてのクイズに正解したら、AIは「歴史を理解している」と言えるのだろうか?「中国語の部屋」という有名な思考実験がある。中国語を理解できない英国人が部屋の中におり、外部から中国語の命令がやってくる。彼は記号(=漢字)の作業マニュアルに沿って命令を処理し、外部に対してアウトプットする。正確な処理を行えば、外部の人からは、あたかも英国人が中国語を理解しているように見えるのだ。

 おそらく、現在のAIは膨大な作業マニュアルを用意している最中だ。クイズに答えるだけでなく、マニュアルには人間の感情を読み取り、文脈に適したユーモアの混じった会話も用意されている。時には感情的になったり沈黙したりもする。まさに、人間のやりそうなことはすべて網羅されている。この時、我々はAIに何を求めているのだろうか?

 ところで、人がこの世からいなくなった後も、その人の過去の言葉から、話しそうなことを会話するAIができたら、人は永遠に生きるのかもしれない。『人間50年、下天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり。一度生を得て、滅せぬもののあるべきか』

 そんなものは必要ないと叱咤されそうだ。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

外園康智Yasunori Hokazono

金融デジタル企画一部
上級研究員

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