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踊り場に差し掛かったデジタル金融サービス

2017年6月号

金融コンサルティング部 上級コンサルタント 中川慎

これまで順調に拡大してきた、ネットバンキングなどのデジタルチャネルでの取引の停滞が明らかである。今後の利用者の拡大のためには、便利であること以上の利用メリットやタイミングの良いプロモーションが必要である。

ネットバンキングの利用率は停滞

 ネットバンキングの利用率が伸び悩んでいる(※1)。銀行等のネットバンキングサービス(※2)にログインして利用している人の割合は、2010年の9%から13年の18%に倍増したが、16年は21%と微増にとどまった。マイナス金利の長期化が予想される中で、金融機関は効率的な経営の実現のために非対面チャネルの活用を経営課題としているが、その重要な手段が期待通りには利用されていないということになる(図表1)。また、このネットバンキング利用率の伸び悩みはすべての年代で見られる傾向であり、2013年から2016年にかけての利用率の伸びは、50代を除くすべての年代で3ポイント以下となった。

 ネット専業銀行6社が公表している口座数は、2013年の1,151万口座から16年は1,553万口座と、年率で二桁の成長を示している。メガバンクや地銀など店舗のある銀行のネット口座数も、全体の集計は不明ではあるが、順調に拡大していると言われている。

 このようにネットバンキングの口座数が増えているにもかかわらず、ネットバンキングの利用者数があまり増えていないのは、ネットバンキングの口座を開設したものの利用に至らない、あるいは利用しなくなる人が多いことが根底にあると考えられる。

 伸び悩み状態にあるデジタル金融サービス(※3)は、ネットバンキングだけではない。インターネットによる証券取引も3年前とほぼ同じ利用率にとどまっている。

ポイントで動く顧客

 デジタル金融サービスに停滞感が現れた一方で、大きく利用者が増加した金融サービスも存在する。その一つが、電子マネーを利用した決済(買い物)である。

 電子マネーを半年に1回以上利用した人の割合は2010年の11%から、13年には18%、16年には29%と、利用者数の増加が加速している(図表2)。10代から50代の現役世代で幅広く利用され利用率が高まっているが、特に10代では利用率が3年間で20ポイント以上増加しており、若年層の主要な決済手段として定着しつつあることがうかがえる。

 この電子マネーの利用率の増加の要因となったのがnanaco、WAONなどの流通系電子マネーの利用者の増加である。2013年には、普段利用する電子マネーとしてSuicaを挙げる人が最も多かったが、16年には、nanacoが1位、WAONが2位となった。

 流通系電子マネーの躍進の理由としては、流通系故のポイントサービスとの親和性が挙げられる。電子マネー以外の決済手段でも、ポイントを利用した決済の利用者が2013年の21%から16年には40%に倍増、最も良く利用するクレジットカードとしてポイント付与率が高いカードが増加している。決済手段の選択において、「ポイント」が欠かせない要因になっていることが分かる。

金融サービス、FinTechのターゲットは30代

 このようなデジタル金融サービスや新しい金融サービスの特徴として、30代で利用率や関心度合が最も高くなることが挙げられる。ネットバンキングの利用率は30代で最も高く、電子マネー決済も30代、40代をピークにした山型のグラフを描いている。

 これは、FinTechに関する関心度合でも同様の傾向であり、FinTechサービスのほとんどで、最も関心を示しているのは30代である(図表3)。30代は金融サービスへのニーズが高まりを見せる年代であり、またこの世代はITに対する受容性も高い。それが、30代でのFinTechやデジタル金融サービスへの関心、利用率の高さになっているのであろう。

 これらのことを踏まえて、デジタル金融サービスが更なる成長を遂げるためには、以下の2点が必要であると考えられる。第一に、デジタルチャネルの利便性での利用者拡大だけでなく、デジタルチャネルの利用に応じたポイントの付与などの分かりやすい経済的メリットによって利用を促進することである。

 もう一つは、金融サービスの入口である若年層へのアプローチだけでなく、金融ニーズが高まりを見せる30代をターゲットにしたアプローチを行うことである。30代の顧客の場合、結婚、出産等、金融意識に影響を与える大きなライフイベントが存在しても、これを金融機関が把握できないケースが多い。家族情報の登録やアンケート等による双方向のコミュニケーションにコストを掛けることや、ライフイベントを把握するための保険系の金融商品の低価格での提供などを行うことにより、30代というメインターゲットに対してタイミング良くプロモーションを仕掛ける仕組みが重要になるだろう。

1) 本稿は、野村総合研究所が3年に一度、全国を対象とした訪問留置き方式で実施しているNRI生活者1万人アンケート調査(金融編)を元に記述している。
2) ネット専業銀行だけでなく、ゆうちょ銀行、メガバンク、地銀等が提供するサービスを含む。
3) インターネットや携帯電話を通じた銀行、証券、保険等の取引。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

中川慎Makoto Nakagawa

金融コンサルティング部
上級コンサルタント
専門:金融事業戦略

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