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贈り物が選ぶ独裁の王様

2017年6月号

山本由香理

お中元の準備や父の日等、贈り物選びの機会も多い季節だが、複数人で贈り物を選ぶ時「何を贈るか」の決定に苦労した経験はないだろうか。候補が1つなら問題ない。2つでも多数決で決めることが可能だ。では3つ、4つ…と候補が多くある時はどうか?

 例えば「ハンカチ・ネクタイ・ベルト」の中からどれか1つを3人合同で贈るケースを考える。この時、それぞれの品の優先順位を総括して決める場合が多いだろう。しかし、
 Xさん:ハンカチ>ネクタイ>ベルト
 Yさん:ネクタイ>ベルト>ハンカチ
 Zさん:ベルト>ハンカチ>ネクタイ
という評価だった場合、集計すると3品とも同列となり、優先順位だけで結論を出すのは不可能である。

 複数人で公平な方法で「合理的」に選択を行う困難さを数理的に論じる理論に、アローの一般不可能性定理がある。この定理は、複数人で選択を行う時、次に示す“物事を合理的に決定するルール”をすべて満たしつつ、各人の評価を集計して結論を出すことは「不可能」とする理論である。そのルールとは、①全会一致したらそれが結論となる(全員がネクタイを1番に選ぶ)②評価順は自由に選択可能(ネクタイよりベルトが良いと“言えない”、ということはない)③二つの品の優先順位を決定する時は他の選択肢の影響を受けない(ネクタイとハンカチのどちらが良いかを判断する時、ベルトは無関係)④非独裁制(誰かの意見だけが重んじられない)の4つである。厳密には細かい前提条件もつくが、複数人で(つまり社会的に)この一見当然に思えるルールに則って合理的な選択を行うことが「できない」、というのはなかなか刺激的な結論だ。

 このため実際には4つのうちどれかのルールを諦めることになる。例えば、他の選択肢に左右されず判断を行うのは難しい、として③の比較の独立性を捨てる場合があるだろう。先程の例で言えば、X~Zさんに持ち点10点で「5/3/2」「7/2/1」「6/3/1」点と各品を評価してもらえば、贈り物はネクタイに決まる。だが候補が多くなると(例えば10個)候補すべてに重みづけを行うのは難しい。③のルールは、候補が幾つあっても、「2つずつの品の比較」だけをしていけば最終的な選択が決定できる、という意味で、選択を合理的に行うには良いルールなのだ。

 直感的に正しいルール①②、そして③の合理性を満たすことを選ぶと、今度は④の非独裁制ルールが破られ、誰かが独裁的判断を求められることになる。合理性が独裁者を求める構図は皮肉なものだが、円滑な選択のためには実はよくあるケースとも言えよう。「誰かが決めねばならない」という貧乏くじ――その望まざる王冠を頭上に戴くことになるのは、もしかしたら貴方かもしれない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

山本由香理

山本由香理Yukari Yamamoto

資産運用サービス事業二部
システムコンサルタント
専門:資産運用ソリューション企画

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